52 剣二振り
来ていただいてありがとうございます!
「きゃああああっ!」
森の中にいたリリアーヌが悲鳴を上げた。ポケットから燃焼石が転がり落ちた。
あの子は一体何をしてるのよ……!
思わず脱力しかかるけどそんな場合じゃなかった。アル様の剣に貫かれてブランの雷を受けた黒い魔獣は狂ったように黒い炎を吐き出し始めた。リリアーヌを助けようとするんだけど中々近づけない。
「ちょっと!お姉ちゃんっ!!早く助けてよっ!!お姉ちゃんの仕事でしょっ!!」
木の陰に隠れて金切声で助けを求めてくるリリアーヌに頭が痛くなる。
「勝手なことを……」
避難の指示を無視してこんな所に来ておいて。って、魔獣の羽根が再生を始めてる?!リリアーヌの感情を食べてるの?
「まずいぞ!ソラ!このままではまた王都へ飛んで行かれる!」
アル様の剣は魔獣に刺さったまま。魔法攻撃を繰り返してるけど、やっぱりダメージが少ししか与えられない。それでもアル様は凄い。私の剣や魔法なんて殆ど当てられないし効かない。
『かみなりうつー?』
「待って!ブラン!リリアーヌに当たっちゃうからっ」
魔獣とリリアーヌの距離が近すぎる。どうしよう……。
「くっ、このままでは……」
アル様は何とか近づいて剣を取り戻そうとするけど、無差別に黒炎を吐きつけてくる魔獣に手が出せずに焦ってる。魔獣の羽根はどんどん再生していく。調査隊の人達も魔法攻撃を仕掛けてるけど、殆ど効いてない。私達の焦燥感を食べて力を貯めていってるの?
魔獣が大きく息を吸い込んだ。あ、ダメ!そっちにはリリアーヌがいるのよ?!
「やだ!お姉ちゃんっ助けて!!」
幼い頃のリリアーヌの顔が頭に浮かんで私は夢中で飛び出していた。
「ソラ、駄目だ!!」
アル様の声が聞こえたけど……。
守らなきゃ……!私の妹なんだから!
全力で防御魔法を展開しながら森の中に飛び込んだのと、魔獣が特大の黒炎を吐き出したのは同時だった。
「ソラッッッ!!!」
アル様の絶叫が聞こえる……。
世界が青い……。
あ、私ちゃんと生きてる。左手のブレスレッドの精霊石がパラパラと宙に舞う。
『やれやれ騒がしいことだ……』
突然空の霧が晴れて風が巻き起こる。この声って……。
「あの時の……」
「青い魔獣か……」
青い世界の中私のそばにはアル様がいた。
「あ、アル様……どうして……?」
「一人で飛び出すな……心臓が止まるかと思った……」
強く抱きしめられて涙が出た。アル様も来てくれたんだ。
「危ないことをしちゃってごめんなさい……、あ!リリアーヌは?!」
「足元にいる」
ほんとだ。足元に倒れてる。意識が無いみたいだけど良かった、息はちゃんとしてる!
突然水の膜がパチンと弾けた。世界が青かったのは青い水の中にいたからだったんだ。
『ふむ、そなたは相変わらず美しいな。遠くからでもよく見える』
青い魔獣は目を細めてる。美しい刃物のような爪で黒い魔獣を掴んでいる。
「貴方が助けてくれたんですか?ありがとうございます」
私は大きな魔獣を見上げてお礼を言った。
「どうして俺達を助けた?」
アル様が訝し気に尋ねた。
『こやつは我らが眷属。しかし生まれてはならぬ存在。世界の均衡を崩すもの。なれば我が始末する。跡形もなく消してやろう』
ちょっと待って!!それは困るよ!
「待って下さい!中に人が取り込まれてるんです!」
「別に俺はソラを殺そうとした女なんてどうでもいいんだがな」
アル様が呟く。
「アル様……、さすがにそれは」
「……分かってる。助け出して罰を受けさせるさ。……ソラは優しいな」
アル様はため息をついた。
「はい。私はジュリエンヌ様を一発殴らせてもらうつもりなので、生きて帰って来てくれないと困ります」
「…………そうか」
あ、アル様呆れてる?
『面倒な……ならばお前達の力で何とかしろ。我は加減などできぬからな』
じっと私達の話を聞いていた青い魔獣がぽいっと黒魔獣を離した。そして私達の前に青い鱗が落ちてきた。
『我の力を貸してやろう』
「綺麗……」
深く青い大きな鱗を両手で受けると、青くて大きな剣に変化した。
「これはアル様が使ってください。私は剣の扱いはまだまだなので」
「これは凄いな……剣から物凄い力が漲ってくる」
渡された剣を構えてアル様が驚いてる。そうなのだ。こう、魔力とは違う何かが剣に宿ってるみたい。
『お話おわったー?おじいちゃん』
ブランがいきなり現れた。シエルと黒馬さんもいる。みんな今までどこにいたの?
『……誰が爺さんだ』
青い魔獣の言葉をブランは無視。
『じゃあ、ソラには僕のあげるー!!』
ブランはそう言うと爪で牙をポキッと折った。
「…………お、折った?!ええ?!ブラン、そんなことして大丈夫なの?痛くないの?」
『うん。また生えてくるからー』
慌てる私にブランは呑気にそう答えた。
「そういうものなの?」
この子達って一体何なんだろう?私の頭には改めてそんな疑問が浮かんだ。
『ソラの剣出して―』
私が剣を鞘から抜くとブランから受け取った白い牙が私の白い剣に刺さって長く大きくなり、刀身が金色の光を帯びた。
「綺麗……」
『これで僕の力も使えるよー』
『そら、来るぞ。後は任せた』
黒い魔獣が憎しみのこもった赤い目でこちらを見ている。
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