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5 シエル

来ていただいてありがとうございます!






「なんでそんなに楽しそうなの?二人とも……」

「え?楽しくないよ?バジル君」


私は襲い掛かって来る魔獣を雷撃魔法で倒した。アルベール様も魔法を付属させた剣を振るって魔獣を倒してる。今回の幻霧発生では湿地が出現した。本当に不思議な現象だと思う。

「ここの魔物、大きくて倒しがいがあるなぁ、とは思ってるけど」

「…………」

バジル君の言葉には答えず黙々と魔獣を倒し続けるアルベール様。

「楽しいっていうか、襲い掛かって来るんだから倒さないと仕方ないと思うの」

そしてまた一体。

「……はあ、自覚無しか。君、学園にいた頃とは違って生き生きしてるね。学園でもそうだったら随分印象も違ったのに」

「え?どういうこと?」

「ピリピリしてて近寄りがたかった」

「……そんなに?」

確かに勉強に訓練に必死だったけど……。それで友達できなかったのかな?でも周りは貴族の人達ばっかりで嫌味言われてたし……。



幻霧の発生した未暗の地は異世界に入ったようにその様子を変える。薄暗く濃い霧が立ち込め、人を襲う魔獣が現れるようになる。ただ、そこでは私達の生活に欠かせない資源である魔法石が採れる。そのために私達王国に選抜された調査隊が調査、探索を行う。


調査隊はそれぞれその地でお揃いのローブを羽織ってる。この落星の谷は深く濃い青色。夜空の色だ。それに金の星の刺繍が入ってる。ちなみに王都の西の森は白、北の沼地は黒、南の飛び地は深い赤。今青いローブを着てるのはこの四人だけかぁ。なんか特別感あっていいな。仲間って感じで。ローブにはそれぞれに位置を知らせる魔法もかかってて誰かがはぐれてもある程度は探知できるようになっている。便利な魔法道具だ。



「だから、何笑ってるかな?君は。余裕ぶってると怪我するよ?」

「別に余裕ぶってないよ?はい、これ」

注意してきたバジル君に魔法石を渡す。

「……へえ!質の良い魔晶石だな!!これは凄いや」

魔晶石だったみたい……。バジル君は魔獣が落とした魔晶石をちょっと鑑定してから魔法道具の袋にしまい込んだ。


「私の出番が無くて何よりだ!」

シュシュ先輩がライラック色の目を細めて笑う。シュシュ先輩も見つけてきた魔法石を袋に詰めて、ほくほくしてる。

「いえいえ、先輩の防御魔法のおかげで怪我しなくて済んでるんです。それにここで迷わずに探索できるんです。本当にありがとうございます」

そう、私やアルベール様が安心して戦えるのはシュシュ先輩やバジル君の防御魔法や強化魔法、そして「道案内の魔法」があるからだ。おかげでシュシュ先輩の治癒魔法のお世話にならずにこの異世界のような場所で迷子にならずに済んでる。



「さあ、結構収穫も多かったし、今日はそろそろ引き上げよう…………え?」

「どうかしたんですか?シュシュ先輩……」


息を吞んだ。


シュシュ先輩の見つめる先に見たことも無いような魔獣がいた。正確に言えば見たことはある魔獣だ。最初にここへ来た時に遭遇した冷気を吐く蜥蜴だ。形状は。


「お、大きい……!」

そう、問題なのはその大きさ。


アルベール様が剣を構えなおす。私は向かってくる氷蜥蜴魔獣に炎の矢を放った。表皮を焦がしただけでダメージが無さそうだ。

「それなら!」


氷蜥蜴の弱点は額の鱗だ。いくら魔法が効かないと言ってもそこに炎の魔法を叩きこんでやれば……。


ゆらりと大きな影が差す。


「嘘、立ち上がった?」


私達の背丈をゆうに超えている。アルベール殿下の背よりもずっと大きい。

「どうしよう……これじゃ魔法が届かないわ」

私は飛行魔法や浮遊魔法にはあまり自信がない。


「問題無い」

アルベール様が口笛を吹く。何?って思ってたら、どこからか黒い馬が飛来した。

「え?馬が飛んできた?」

私が驚いていると、アルベール様はその黒い馬に飛び乗った。

「翼が生えた馬?」

「星獣か……。初めて見た!!」

バジル君が驚いてる。私も。

「星獣って……。人を襲わない知能のある魔獣……?あれって伝説じゃないの?」

「伝説じゃないよ。とても稀なだけなんだよ、ソラ。とはいえ私も実際に見たのは初めてだ。さすが王族だ。星獣と契約して従えてるとはね……」


凄いわ!アルベール殿下は魔獣の周囲を飛びながら、氷のブレスをかわしてる。

「せめて何とか、気を逸らさなくちゃ。効かなくても全力でいく!」

私は自分の最大威力の魔力で炎の魔法を魔獣の体に叩き込んだ。こんな全力、初めて出したよ。全身から汗が噴き出す。

「効いた?!」

今度は魔獣のお腹が裂けて何か白い塊が飛び出した。


「?!」


パリンって何かが割れる澄んだ音。魔獣の雄たけび。魔獣がよろけて倒れ、地面が揺れる音。


魔獣の攻撃が止んだ瞬間にアルベール殿下が弱点の鱗に炎をまとった剣を叩き込む。魔獣はもう一度雄たけびを上げて消えて行った。大きな澄んだ結晶石を残して。


「あ、割れちゃった……」

力を出しすぎた反動で座り込んでしまった私は自分の左手を見た。


私の魔法道具のブレスレット。これを媒介として魔力を魔法として顕現させる。魔法を使う人は必ず何らかの魔法道具を持ってるんだ。私のは魔法石を連ねたもので、私が使える複数の属性の石を連ねてあるから淡い色彩の虹みたいな色合いになってる。自作なんだけど我ながらよくできてると思う。割れたけど。


「これは君の魔力には弱すぎたみたいだね、ソラ。私が新しく作り直してあげよう」

「そうですね、ここでは質の良い魔法石が採れますから。とびっきりの結晶石を優先して使いましょう」

私の壊れたブレスレッドを見てシュシュ先輩とバジル君が話し合う。

「え?それっていいの?横領とかにならないの?」

「私達が自分達で身の安全を守ることは義務だからね。認められているし必要なことだよ」

シュシュ先輩が人差し指を立てて説明してくれる。二人は相談しながら魔獣が落とした魔法石の回収に行ってしまった。私、立てないんだけどな。いいけど。



黒馬から下りてきたアルベール様の剣にも魔法石がついてる。アルベール様のは黒い魔法石だ。これは全属性を使える魔法石だと言われている。もしかしたら結晶石かもしれない。私には全属性はまだ無理だ。ちなみに魔法学園でも複数属性の魔法を使える人はそう多くない。バジル君や私はとても珍しい。しかも私達は平民だからさらにレア度が上がる。おかげで貴族の皆さんの視線は厳しいものだった。何か不正を働いてるんじゃないかとかね。死ぬ気で練習したらできただけなんだけどね。


「助かった」

アルベール様の手を借りて立ち上がらせてもらった。

「こちらこそ、ありがとうございます。やっぱりお強いですね!アルベール様。それにあの黒い馬ってアルベール様の契約星獣なんですよね?あれ、いない……」

消えてしまった?

「もう帰った」

「ああ、もうちょっと見たかった……。でもどこに?」

そう思った瞬間私のお腹に強い衝撃が走る。

「ぐふうっ」

変な声が出ちゃった!


「って、え?」

なんかいる。

「白くて、小さくて、角の生えた馬?」

私はその生き物?を抱きとめて手のひらに乗せた。

「あ、さっき魔獣のお腹から飛び出してきたのって、君?」

その小さな馬はこくこくと頷いた。


「何だい?それは?」

魔宝石を抱えてこちらへやってきたシュシュ先輩とバジル君が私の手元を覗き込んだ。

「これは、星獣?あ、こら!!」

小さな馬がバジル君の手にあった白い魔法石を食べた。

「え?食べた?!」

「…………!」

「おやおや」

これにはアルベール様も驚いていた。


真っ白な光が小さな馬を包んで、それが消えた後に現れたのは……。

「一角獣!」

バジル君が声を上げた。角が生えた大きな白馬だった。


すりすりされてる。ずっとすりすりされてる。時々角がちくっとして痛い……。

「これは……、懐かれたようだね、ソラ」

ふむ、と一角獣と私を交互に見比べているシュシュ先輩。ライラック色の瞳に楽しそうな光が浮かんでる。

「魔獣の腹から助け出したのはソラだから、恩を感じているんだろう」

アルベール様が一角獣を撫でながら、優しく見つめている。

「偶然なんですけど……。まさか魔獣のお腹に星獣が入ってるなんて思わなくて……」

ずっとすりすりしてる一角獣を私もそっと撫でてみた。あ、嬉しそう……?

「体は大きいけどまだ幼いのかもしれないね」

バジル君は怖いのか、あまり近寄ってこない。魔法石をこれ以上食べられたくないのかもしれない。


「この子、どうしたらいいんでしょうか?」

一角獣は離れていく気配が無い。

「魔力を食べさせてやるといい」

アルベール様が私を見た。

「魔力を?」

「ああ。そうすれば契約が行われ、私の黒馬のように呼べば来るようになる」

私は魔力を左手に集めて一角獣の前に差し出してみた。金色の光を吸い込む一角獣の瞳は綺麗な空の色だった。

「シエル……」

一角獣は耳をピクリと振るわせた。

「名前が決まったようだね」

シュシュ先輩の言葉に反応して身を振るわせるシエル。薄れていく幻霧と共に空に駆け上がり、そのままシエルは消えて行った。


そっか、一緒には来れないのね。ちょっと残念。













ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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