49 黒の連鎖
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「シエルっ!?」
ジュリエンヌ様の魔法は白い一角獣に当たった。霧の中から現れたシエルが私を庇ってくれた。
「シエル、どうして……」
倒れたシエルの首を抱き起した。
『ソラのピンチにかけつけたのー』
白い毛並みに黒縞の魔獣も現れた。
「ブランっ、ブランも来てくれたの?」
『うん。来たー。ソラ呼んでくれないんだもん』
ブランはジュリエンヌ様を睨みつけた。
『ソラになにすんの?』
「ひっ!なんで、あの時の魔獣が……」
牙をむいたブランを見て、ジュリエンヌ様は腰を抜かして後退った。埃だらけのドレスが更に汚れていく。言葉は幼いけれど体の大きいブランは怖いよね。牙も爪も金色の瞳も。
私はぐったりしてるシエルに治癒魔法をかけた。治癒魔法はあまり得意じゃないんだ。手が震える。シュシュ先輩を呼んできた方がいい?
「どうしよう……シエル……どうしよう……」
『んーたぶんソラの魔力をあげるといいとおもう』
ジュリエンヌ様に対峙して私に背を向けたままブランが教えてくれる。
「魔力?それだけでいいの?」
『ん。あとはじぶんでできるはずっ』
「わかった。やってみる」
いつものように左手に魔力を集中してシエルの口元に持っていった。魔力がどんどん吸い取られてクラクラしてくる。でも、しばらくするとシエルが空色の目を開けてくれた。
「良かった!シエル!」
まだ立てないけど首を上げたシエルに抱きついた。死んじゃうかと思った……。涙がこぼれてくる。
『あたったら、しんでた。ソラ、ころそうとした?』
ずっとジュリエンヌ様を睨んでたブランが低い唸り声をあげた。そうだ。この人は私を殺そうとしたんだ。怖い……。自分の望みを叶える為に簡単に他人を傷つける人がいるなんて。
「貴女なによ!なんなの?なんでそんな魔獣と一緒にいるのよっ!!」
ずるずると後退りながら少しかすれた声で怒鳴って来るジュリエンヌ様には、もうあのたおやかなご令嬢の姿は無かった。
「シエルとブランは友達ですけど、何か?」
私はもうジュリエンヌ様に礼を尽くす必要はないかなって思った。
『魔獣じゃないよー。でもともだちー、友達ー』
「はああああ?魔獣が友達?ふざけないでくださる?!貴女が魔獣なんじゃないの?貴女みたいなのがどうしてアルベール様にっ。そうだわ!魔法を使って操ってるんでしょ!魔獣もアルベール様もっ」
「そんなことできません」
「嘘よっ!この性悪!」
なに?この不毛な言い合い。
「大体、魔法を人に向かって使っちゃいけないって最初に教わりますよね?」
ダメ!絶対!
「そうか。俺は魔獣と同列か……」
アル様が黒馬から飛び降りた。いつの間に?!黒い魔獣は……、あ、兵士さんや騎士さん達、それに調査隊の人達も来て戦ってる。フランセット様も王妃様も解放されたから討伐を始めたんだ。
「残念ながら俺は正気だ。本気でソラを愛してる」
え?あの、アル様?顔がかあって熱くなった。
『ぼくもー!ソラ愛してるー!』
ブランが私の肩によりかかってくるし、シエルも私の頬にすりすりしてくる。
「愛が重い……」
ちなみにまだ背中が痛い。私はそっと治癒魔法をかけた。やっぱりあまり効かない。繊細な制御の必要な魔法って苦手なんだ。
「ソラ、大丈夫か?」
「はい、何とか」
アル様が私を抱き上げた。
「ア、アル様……!」
「随分無茶をしたな。こんな女の為なんかに……」
アル様はじろりと地面に倒れてる王妃様を見下ろして、吐き捨てるように言った。
「今夜はお仕置きだな」
打って変わって甘い声で耳元でささやかれて体が熱くなる。な、何てことを……。あ、背中、痛くなくなった。アル様が治癒魔法をかけてくれたんだ。
「ありがとうございます」
「へえ、お仕置きが嬉しいの?」
「え?違っ、そうじゃなくて……!」
アル様が笑いながら私をそっと下した。からかわれた……。うう、ちょっと意地悪そうな笑顔もかっこいいな。
「アルベール殿下!どうして?どうしてですの?そんな魔獣みたいな女のそばにいらしてはいけませんわ!」
「お前や王妃の方が醜い。魔獣などよりずっと」
ああ、アル様にそんな蔑むような顔されたら心がボロボロになってしまう……。アル様は綺麗な顔だから効果が抜群だと思う。
「…………そ、そんな……」
アル様の冷たい言葉にジュリエンヌ様が真っ青になって俯いてしまった。ぶつぶつと何かを呟きながら両手の爪が地面を引っかいてる。
「わたくしの方が美しいのに、わたくしの方が身分が高いのに、わたくしの方が相応しいのに、わたくしの方がずっとずっとずっと…………」
『えーソラの方がきれいだよー』
ブランが、うがぁっと吠えた。ブラン、顔怖いよ。ジュリエンヌ様は短い悲鳴を上げて、立ち上がり逃げ出した。
「あ、そっちは危ないっ!」
そちらは塔の方向だ。
「なによ、あんな女ばっかり!許せない、絶対に」
『ワタクシノホウガ……ユルセナイ、オマエナンテシンデシマエ…………イイネ』
ジュリエンヌ様の声に重なる別の声。
「え?」
呆けたようなジュリエンヌ様の顔が自分の体を見る。黒くて長い爪がジュリエンヌ様の体を掴んでる。
黒い魔獣の灰色のお腹がカパッと開いてジュリエンヌ様を取り込んだ。
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遠い地で目を開く。かつて何者かに青き神獣と呼ばれた存在が。
『やれやれ、厄介なものが生まれたな。これだから活性期は……』
その大きな体をふわりと浮かせてその地を目指す。
『見過ごすわけにもいくまいて。あれは世界の均衡を崩すもの。なれど我らが眷属なのだから』
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