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星降りの谷 私、もう王都には戻りたくありません!  作者: ゆきあさ


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47  黒い魔獣

来ていただいてありがとうございます!



「今の揺れは一体なんだ?」


シュシュ先輩はバジル君と一緒に立ち上がった。私とアル様も壁際に座り込んでいたけれど何とか立ち上がれた。

「外が騒がしいようだな」

アル様が窓の外に目を向けた。霧の中、外で複数の人達が声を上げてる。


「治癒魔法使いを呼べ!」


「殿下に報告を!」


「指示をあおげぇ!」


テオフィル王弟殿下は無言で立ち上がり部屋を走り出た。


「お待ちください!叔父上!」

セルジュ様は引き止めたけど聞こえなかったみたいで、慌てて追いかけて行った。


「我々も行こう」

セルジュ様を追って私達も城の外へ出た。

「セルジュ殿下!黒い魔獣がこの王城に出現しました!」

途中で合流したクレール様が一緒に走りながら教えてくれた。

「なんだと?!ここに?!」





たくさんの人が集まっていたのはお城の庭園、だった場所だ。花々や木々が無残なことになってる。怪我をした人もいるみたいだ。


「何だ!これは!」


テオフィル王弟殿下が声を荒げてる。私達の視線の先には、たぶん、バルコニーだったものが落ちている。ほぼ瓦礫だけど、それっぽい形状のものが見て取れる。


「あそこから、これが落ちてきたのか」

シュシュ先輩が見上げる先にはお城で一番高い建物がある。そうか、あの音と揺れはこれが落ちてきたせいだったんだ。


「あそこだ!!」

お城の兵士が指を差す。そこには見張り台になってる塔がある。その上に、いた。


「黒い魔獣……」


大きくて黒い魔獣。コウモリみたいな羽根。裂けた赤い口に並ぶ鋭い牙。(つの)が生えた蜥蜴のような姿だけど、二本足で立ち上がってて前足には長い爪。その爪で掴んでいるのは……。


「王妃様っ?!」

セルジュ様が叫び声をあげた。

「なんということだ……!一体どうして……」

テオフィル王弟殿下が絶望的な声を上げる。


王妃様……?魔獣が掴んでるあの人が?霧のせいで見えづらい……って、そういえば私、王妃様も国王様も王太子様も近くで見たことないかも。気が付くとアル様が私の手を握ってた。

「アル様?」

「ソラ、俺から離れるな」

厳しい表情をしたアル様は黒い魔獣から目を離さない。

「はい。アル様」

私はアル様の手を強く握り返した。




「……もう一人いませんか?」

バジル君が眼鏡の角度を変えて黒い魔獣を見てる。

「あ、ほんとだ……。もう片方の前足に何か、誰か握ってるみたい。赤い……人?」

テオフィル王弟殿下とセルジュ様の後について見張りの塔へ走る私達に、よりはっきりと黒い魔獣の姿が見えてきた。よく見ると角は一対じゃなくて三対くらい生えてるみたい。尻尾は長くて全身の色はほぼ漆黒。おなかの辺りは暗い灰色に見える。


「あ、あれは……もしかしてフランセット嬢か?」

セルジュ様が驚いて目を見開いている。え?フランセット様って、まだ行方不明の……?赤く見えたのは赤いローブだった?


「二人ともまだ生きているようですよ。呼吸があるみたいだ」

バジル君が塔の下から魔獣を見上げてる。

「バジル君、その眼鏡って魔法道具だったの?」

「ああ、言ってなかったっけ?視力が悪いから魔法石を組み込んで、色々見えるようになってる」

「バジル君って凄いね」

「まあね。っと、よそ見しない方がいいよ、ソラ!」

バジル君と私は瞬時に防御魔法を展開した。


魔獣が黒い炎のようなものを吐いた。


見れば、見張りの塔の下に集まった兵士達が魔獣に攻撃を仕掛けてる。それに反撃したみたい。

「馬鹿なっ!何をしてるっ!王妃様に当たってしまう!」

テオフィル王弟殿下が兵士達を叱責した。


「きゃああああああっ!熱いぃぃ!」

女の人の悲鳴が響く。

「誰か、早くわたくしを助けなさい!わたくしはこの国の王妃なのよ!」


あ、本当だ!生きてる!フランセット様はぐったりしてるけど、ほんの少し身じろぎしたように見えた。

「良かった!まだ助けられますよ!アル様」

「…………」

「ソラ、残念だが状況は厳しいよ。これでは我々は魔獣に攻撃できない」

「あ……」


そっか、下手に魔獣を攻撃したら王妃様やフランセット様に当たってしまう。さっきテオフィル王弟殿下も言ってたっけ。なら、どうしたら……。





「しかし何故城に魔獣が……。ここには防御魔法が二重にも三重にもかけられているのに」

状況を見守るしかできずにテオフィル殿下とセルジュ様が話し合う。


「国王陛下はご無事なのか?」

「国王陛下は現在、側妃様の離宮にいらっしゃってます。ご無事です!」

クレール様はあらかじめ確認してきてたみたい。優秀な方だよね。

「タイミングの良いことだ」

「無事で良かったですね」

二人はホッと息をついた。

「ですが王妃様が……」

「しかし何故……もしかして外へお出ましになられたのか?危険だとあれほど申し上げたのだが」




三人の話し合いを見ながら、シュシュ先輩、アル様、バジル君と私も話し合う。


「いっそのこと、見なかったことにして魔獣を攻撃してはどうだ?」

アル様がなんとも物騒なことを言い出した。

「え?」

「このままでは被害が広がる。攻撃が当たってしまったら運が悪かった、ということで」

「じょ、冗談ですよね?アル様」

「…………」

え?あれ?本気ですか?

「さすがにそれはまずいだろう」

「まあ、確かに自業自得だとは思うけれどねぇ……」

シュシュ先輩とバジル君は困ったように苦笑いしてる。


「王妃様はまだお元気なようだが、フランセット嬢は急がないとまずいな」

シュシュ先輩の言葉にふと思い付いた。

「拘束の魔法はどうでしょう?魔獣を動けなくしてしまえば助けられます!」

「ソラ、拘束の魔法はかなり魔獣に近づかないと。それにあの大きさだ。複数あるいはかなり力が強い魔法使いが必要だ」

「そ、そうですね……」

シュシュ先輩の言葉にがっかりした。


「それ、いいかもしれない」

バジル君が呟いた。バジル君の作戦は魔獣の前足に絞って拘束の魔法をかけるというものだった。魔獣の力が緩めばあの二人を離すだろうって。


「でもさ、本当にいいの?助けても」

バジル君は私とアル様を見つめた。シュシュ先輩も気遣わしげにこちらを見てる。

「え?何で?あ、そうか、王妃様は……」

お母様の敵なんだよね。私はアル様を見た。

「……ソラもだろう?」

「え?私ですか?」

えーっと、あ、そうか。私もフランセット様達に酷い目に合わされたっけ。

「まあそれはそれ、ということで」

さすがにあの状態は放っておけないよね。私の言葉にアル様はため息をついた。

「ふ……仕方ないな……」

それから私の頭を撫でたアル様は優しく笑った。


「よし、決まりだね」

シュシュ先輩はぱちんと手を打った。









ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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