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星降りの谷 私、もう王都には戻りたくありません!  作者: ゆきあさ


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46 よびよせる

来ていただいてありがとうございます!




「アルベール殿下っ!わたくし……とても怖かったですわ」


ドレスを着たジュリエンヌ様がお城の廊下を走ってきてアル様に抱きついた。ジュリエンヌ様、元気になったんだ。それは良かったんだんだけど、今それどころじゃないんでしょう?私達はさっき来た連絡を受けて転移の魔法陣を使って急いで王都へ来たんだよ?


瞳を潤ませてアル様を見上げるジュリエンヌ様はとても綺麗だけど、アル様はまったく表情を動かさなかった。それどころかジュリエンヌ様を冷たく突き放した。


「きゃあっ。殿下、何をなさるんですの?」

「触るな」

アル様の低い声にジュリエンヌ様はたじろいだ。


「失礼、ジュリエンヌ嬢。我々はテオフィル王弟殿下に呼ばれているんだ。邪魔をしないでいただきたい」

シュシュ先輩が二人の間に入った。


「まあ、邪魔だなんて……!シュシュテイン様酷いですわ。シルヴィ様、シモーヌ様、フランセット様は戻って来ないし、貴女はその気は無いのでしょう?もうわたくしが殿下の婚約者で決定ですのよ?少し気を利かせていただけませんこと?」

むうっと頬を膨らませるジュリエンヌ様は可憐だけど、今は本当にそんな場合じゃないんだ。


それにまだシルヴィ様達は戻ってないんだ。大丈夫だろうか。ジュリエンヌ様はあの三人の事心配じゃないの?むくれているけど凄く楽しそうに見える……。


「俺はそのようなことを認めていない。大切な人がいるのだから」

アル様は私の肩を抱き寄せて笑いかけてくれた。それはとろけるような微笑みで、更に頬に口付けまで……。

「ア、アル様……」

昨夜のあれこれを思い出して瞬時に顔に熱が集まってしまう。いや、喜んでる場合じゃないよ、私!

「ヒュー」

バジル君が口笛を吹いて、シュシュ先輩に窘められてる。

「失礼する」

私達はジュリエンヌ様を置いてお城の対策室へ急いだ。


セルジュ様からの緊急連絡には再び王都が幻霧に包まれ、黒い魔獣が出現したと書かれていた。


「そんな事、許されるはずがありませんわ……!王妃様にお話ししなくては」

小声で呟くジュリエンヌ様に通り過ぎざまに睨まれた。





「報告は聞いたよ。良く戻って来てくれた」

対策室の中にいたセルジュ様の顔は疲労の色が濃かった。

「君達に色々聞きたいこともあるし、まだ探し出してやれてない者達もいるが、それどころではなくなってしまった」

テオフィル王弟殿下の顔には苦悩が浮かんでいる。やっと事態が落ち着いて来たと思ったら、件の黒い魔獣が王都に襲来したというのだ。


「それで、今その黒い魔獣は何処に?」

アル様が尋ねると、テオフィル王弟殿下は力なく首を振った。

「神出鬼没というのか、こちらの魔力感知も上手く働かない状態なんだ」

セルジュ様が困惑したように説明してくれた。廊下の窓から見た景色は真っ白で幻霧が濃い状態だったから、魔法が上手く使えないのかもしれない。それに神出鬼没ってシエルとかブランみたいだ。



突然、轟音が響き、城が揺れた。


「何だ?!今の音は!」


テオフィル王弟殿下は立ち上がろうとしたけどダメだった。アル様はふらついた私を支えてくれた。シュシュ先輩もバジル君にしがみついてる。


何?一体何が起こってるの?






★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★







「なかなか消えてくれないものね」

王妃は城の中、王宮の最上部の一番豪華な部屋で一人で考え事をしていた。艶やかな唇からはため息が漏れる。


最高級のお茶とお菓子が繊細な造りのテーブルの上にあり、自らは長椅子に身を横たえるように座っていた。今は人払いを終えて侍女も下がらせてある。


「今日も霧が濃いわね」

王都に起こっている異変の事は勿論王妃の耳に入っていたが、王妃にはどうでもいい事だった。対処は王太子である自分の息子の邪魔になりそうな王弟や第三王子に任せてある。危険な仕事は彼らにやらせておけばよいのだ。あわよくば魔獣とやらに襲われてしまえばいいと思っているが上手くいかない。


「結局あの平民の娘は生きて帰って来てしまったそうだし……。下賎な人間ほどしぶといものね」

王妃は自分から国王の寵愛を奪った女の息子の顔を思い出して、その美しい顔を歪めた。最近彼が執心する存在ができたと聞いて、どうにかしてやろうと考えてたのだった。あの婚約者候補達がやらかしてくれたけれど上手くいかなかった。

「せっかくあの憎らしい無表情が悲しみに歪む顔が見られると思ったのに……」

しかしそれなら今度は自分がと考えて暗い笑みを浮かべた。


王妃はお茶を一口飲んだ。最近の王都の騒ぎのせいで、お気に入りの庭園での散歩も茶会もできずにいる。だから最近は気分が悪いことが多かった。

「テオフィルもセルジュも本当に無能だわ。アルベール共々今回の騒ぎで消えてくれないかしら」

王妃は苛々としながら立ち上がり、大きな窓に近づいた。絶対に外に出ないように注意はされていたが、少し位はいいだろうとバルコニーへ出たのだった。ここは王城。この王国で一番安全な場所なのだから。


眼下には霧の王都。

「嫌だわ。こんな所にまで」

城にも霧が立ち込めている。突然王妃の耳に大きな羽音が聞こえてくる。

「あら、鳥かしら?」


黒くて長い爪が彼女の目の前に迫ってくる。





「お待ち下さい!ジュリエンヌ様!王妃様は今、人払いを……!」

「大丈夫ですわ!わたくしなら。至急王妃様にお話ししたいことがあるんですのよ」

王妃の部屋に続く廊下で侍女の制止も聞かずにジュリエンヌは、先程のアルベールの態度について感じたことを叔母である王妃に聞いてもらおうとしていた。


(あり得ないわ!アルベール殿下がわたくし以外をお選びになるなんて!だってあの美しい方に相応しいのはどう考えてもわたくしだけよ。皆さんわたくしが一番美しいって言ってくれてるもの!王妃様にお話ししてあの平民の、何ておっしゃったかしら……、まあいいわ。王妃様にお話すればあの平民の娘には何かしらの罰を与えてもらえるはずだわ)



侍女を振り切って廊下を進むジュリエンヌの耳に聞こえたのは甲高い悲鳴と何かが破壊されるような轟音だった。










ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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