45 夜ごはん
来ていただいてありがとうございます!
星が降ってきそう。
「ああ、やっぱりここは星が綺麗ですね……」
帰った来た気がしてホッとする。落星の谷への派遣が決まった時にはこんな気持ちになるなんて思わなかった。
私達はシュシュ先輩の道案内の魔法で西の森の外へ出ようとした。けれど何かに阻害されているのか、シュシュ先輩の消耗が激しくて中々前に進めなかった。
「無理をするな、シュシュテイン。それならば俺のゲートの魔法で一旦塔へ帰ろう」
アル様がそう言ってバジル君も賛成したので、私達はアル様のゲートの魔法で印をつけてある青星塔へ戻った。アル様もいつもより疲れたみたいで、濃い幻霧の中で魔法を使うのは危険なのかもしれないと思った。
ちなみに白い魔獣は一緒に行くと言ってごねた。
『ええー?帰っちゃうのー?せっかく見つけたのにー』
シエルが白い魔獣の前に立ちふさがって何かを話してるみたいだった。会話は聞こえなかったけど意思疎通できてるみたい。どうやってるんだろう?
『そうかー。ソラのとこにはいられないのかー。わかった。またね。ソラ』
魔獣は片方の前足を器用に上げた。
「うん。またね、『ブラン』あ、」
私の口からは自然とその魔獣の名前が出た。
「ソラ……、またそんな名前なんて……!」
シュシュ先輩が少し慌てたように止めたけど、遅かったみたい。
『ブラン?うん、ブランかー!いいねぇ。またよんでねー。よんだらくるからー!』
名前、決まっちゃった。まずかったかな?
「来なくていい……」
アル様の不機嫌そうな声を聞かずにブランは霧の中へ消えていった。それを見届けてからシエルも別の方向へ消えていった。次第に幻霧が濃く深くなっていった。
帰った時には夜になっていて、一晩休んでから王都へ戻ることになった。ニナさんもレアさんもいないから私とバジル君とで簡単な夜ごはんをつくり、シュシュ先輩は王都へ連絡を入れた。
アル様は何故かずっと私の後ろにくっついて料理するのを見てる。
「あのアル様、座って休んでてください。疲れてるでしょう?」
「それはソラもバジルも同じだ。やれることは手伝うし、料理も覚えたい」
「ええ?王子様が料理?」
バジル君は鍋をかき混ぜながら、驚いて振り返る。バジル君は料理は一通りできるらしくて、話を聞いてると私よりレパートリー多そう……。手際も良かった。バジル君はシチュー。私はサラダと簡単にできるパン。後は果物を準備しようかな。食べたいし。
「ああ、ソラと結婚するから俺も作れるようになりたい」
アル様は野菜を切る私の手元を真剣に見つめてる。
「え?!」
思わず手が止まっちゃった。
「二人で暮らすなら必要だろう」
当たり前のように言うアル様にすごく感動した。とっても嬉しい。二人で暮らす……。そこまで考えてくれてたんだ。私は漠然と早くアル様と結婚出来たらいいな、聖晶石を見つけられたらいいなって思ってただけだったから。
「なら、色々頑張んないとですねー」
バジル君は何故か機嫌良さそうに鍋のかき混ぜを再開した。
「報告が終わったよ。王都は今は落ち着いているそうだ。行方不明者の捜索も再開しているそうだよ」
シュシュ先輩が厨房へやって来た。
「うーん、いい匂いだね。前に得意だって言ってたシチューだね」
シュシュ先輩はバジル君の肩越しに鍋を覗き込んだ。
「もうすぐできるから」
「うん。楽しみだ」
バジル君とシュシュ先輩は仲良く笑い合う。その姿を見て私も幸せな気持ちになる。
パンが焼けて、シチューも出来て、サラダも果物も準備し終わって、久しぶりに四人だけでの食事になった。食事中の会話は主にブランの事や未闇の地の異変の事だったけど、そんなに深刻な感じでは無くて楽しい食事だった。
食事の後、お風呂に入ってさっぱりした。髪を乾かしながら、行方不明の人達の事を考えて罪悪感を感じてしまう。早く王都へ戻って捜索に参加したい。もう一体の魔獣の事も気になるし。
「そのためにも早く寝て、体力を回復しなくちゃね」
部屋に戻ると、アル様がいた……。
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『カエリタイ』
王都に黒い影が忍び寄る。
『オウトニカエリタイ』
王都は西の森からあふれ出した幻霧と呼ばれる霧に包まれたが、調査隊、騎士、兵士の協力のもと、魔獣がほぼ討伐され人々が安心して生活を再開したところだった。幻霧も薄まり、ほぼ気にならない状態になっていた。そのはずだった。しかし夜が明けると再び霧が立ち込め、人々は絶望し始めていた。まだ終わりではないのかと。
ただ、今回は魔獣が王都を徘徊することは無かった。人々はそのことに安堵し霧の中でもいつも通りの生活を始めた。たが、それは悲劇の始まりだった。
蜥蜴のような大きな魔獣が蝙蝠のような羽根を羽ばたかせて王都へ飛来したのだ。漆黒の羽根と体。長い爪。
人々は恐慌に陥った。
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