42 惨状
来ていただいてありがとうございます!
やや残酷な描写を含みます。苦手な方はご注意ください
苦手な方は後書きへ 簡単なあらすじがあります
「……あれは」
ローブの反応があった場所。そこには目を覆う光景があった。引き裂かれた人の体と赤いローブ。直視できなかった。だからそれが元の色なのか、血の色なのかは分からなかった。
「う…………」
私の前にいたシュシュ先輩が口を押さえて目を背けた。
「シュシュ……」
バジル君がその光景を見せないようにシュシュ先輩の頭を自分の胸に抱き寄せた。
「ソラも見ない方がいい」
「でも……」
私も少しなら治癒魔法を使うことが出来る。だから何か協力したかった。
「私達が確認する。君達は周囲を警戒していてくれ」
テオフィル王弟殿下と一緒に来ていた騎士様達がその人達に近づいた。
「どうやら、長い爪のようなものに引き裂かれたようだ」
テオフィル王弟殿下は言葉少なに説明してくれた。ローブの色は白で、西の森の調査チームのものだったみたい。
「長い爪……?」
あの白い魔獣ってそんなに爪が長かったかな?牙……もそこまで長くは無かったみたいだけど……。
「おかしいな……」
アル様も訝しげな顔をしてる。
一緒に来ていた騎士様達が担架にその人達を乗せて布を被せた。布はやがて赤く染まり始める。
「もう少し早く来ていたら……」
胸が痛い。
「ソラのせいじゃない」
アル様はそう言ってくれるけど、私はあの時の恐怖を思い出して体が震えてしまった。どんなに怖かっただろう……。
私達は無言で一度王都へ戻った。魔獣に襲われることもなく、無事に王都へ帰してあげられた。
その後も何度か捜索を繰り返し、生きてる人を見つけることもできた。ただ、その人達も怪我が酷くて意識が朦朧としていたり、意識が無い人もいた。
「黒い魔獣が……、大きな羽のある蜥蜴が……」
助けた人の一人がそんな言葉を呟いている。
「黒い魔獣だと……?!白い魔獣ではないのか?」
テオフィル王弟殿下が問いかけるけど、強いショックを受けたのか、ジュリエンヌ様みたいに呆然としていて、それ以上は話すことが出来なかった。
突然、ピリッと空気が震えた。
『それ、ぼくじゃないよ』
振り返るとそこにあの白い魔獣がいた。
「一体いつの間に……?!全く魔力を感知できなかった……」
魔力感知の得意な魔法使いが呟いた。あの時と同じだ。突然、場の空気が変わった。
『あ、みつけた!』
白い魔獣はぴょんと高く飛び上がり私の目の前にやって来た。アル様が私の前に立ちふさがり、更にその前にテオフィル王弟殿下が立った。
「喋った……」
あの青い魔獣みたいに人の言葉を話してる。シュシュ先輩もバジル君も他の人達もとても驚いた顔をしてる。実際に見ると(聞くと?)そりゃあ驚くよね。
「私が相手になろう」
テオフィル王弟殿下が剣を抜き放つ。
「皆、その隙に逃げろ!」
『いらなーい』
白い魔獣が前足を一振りするとテオフィル王弟殿下が吹っ飛んだ。遠くの方で「うわぁっ」って声が聞こえる。慌てて何人かの騎士様達がそれを追いかけていく。
『おまえもいらない』
魔獣は同じように前足を振ったけど、アル様は飛んで行ったりはしなかった。多分バジル君とシュシュ先輩の防御魔法が効いたから。もちろん私も魔力の盾を展開してた。
『あれえ?まあいっか』
そう言って瞬時に姿を消すと私の後ろに現れた。
速いっ!牙が私の首に、もうダメっ、
そう思った瞬間、襟をはむっと咥えられた。
「えっ?!」
そしてそのまま私ごと魔獣は宙へ飛び上がった。
「えええええっ?!」
私は濃い霧の中へ連れて行かれた。
「ソラっ!」
最後に見えたのは黒馬に乗ったアル様が手を伸ばして追いかけてくる姿だった。
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あらすじ
行方不明者を見つける。酷い状態。白い魔獣にソラが連れ去られる。




