41 再び
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「窓の外が真っ白……!」
翌朝目覚めると王都が霧に包まれていた。
「動ける者は動け!」
テオフィル王弟殿下の号令の下、調査隊や騎士、兵士達が王都の街中を走り回った。
魔獣が街の中に次々と出現していた。王都の人々はそれぞれの家に籠って息をひそめてる。
アル様とシュシュ先輩と、バジル君、そして私は王都の中を魔獣を倒しながら進んだ。幸いといえるかは分からないけど、街中に出現してるのは大した力の無い魔獣ばかりだ。
「ソラっ、あまり前に出るな!弱くても集団で来られると厄介だ。囲い込んで一気に倒す!」
「はいっ!アル様」
私達は遭遇した小さな鼠型魔獣達を街の広場の一つに追い込んだ。
「結界魔法をかけたよ」
バジル君とシュシュ先輩が広場の両端に立って魔法をかけてる。閉じ込めた鼠魔獣達にアル様と二人で広範囲の攻撃魔法を叩き込んだ。
数十匹いた鼠魔獣達が一瞬で消え、魔法石がカラカラカラっと石畳に落ちた。
「ふう……。あ、霧が少し薄まった……?」
私は周囲を見回した。他の魔獣がいる気配はないみたい。
「すげぇ!」
「ヒューッ!!」
「ソランジュちゃん、カッコいいなぁ」
一緒に来ていた騎士様達が歓声を上げてる。騎士様達は明るいなぁ。わりと絶望的な状況なのに、心が強いのか普通に魔獣を倒して回ってる。
「あはは……」
「…………」
アル様のもとへ駆け寄るとアル様は無言で私の肩を抱き寄せた。
「俺から離れるな」
「はい」
アル様は警戒を続けてる。私も気を引き締めなくちゃ。
「君達、見ているだけなら我々について来るのではなく、他の場所を見回りたまえ」
シュシュ先輩が眉を顰めてる。
「おお、麗しのヴェンナシュトレーム嬢、そのような冷たいことを仰らずに」
「そうですよ。私達は皆様の援護をセルジュ第二王子殿下から仰せつかっているのです」
「いやあ、このチームは美女と美少女がいて守りがいがありますな」
騎士様達はへこたれない。ここにいる騎士様達は私やバジル君と同じ平民出身の人達なんだって。だから私は貴族の人達よりは一緒にいて気が楽だ。
「防御魔法であんた達を守ってるのは僕なんだけど?」
バジル君が苛々したようにシュシュ先輩の隣に並んだ。
「いやあ、助かるよ!人間相手だと防御魔法はあまり使わないからなぁ」
「そうだな。だが魔獣相手の方が気兼ねなく倒せるから、気が楽だな」
「赤い血が流れないのがいい」
そう言って豪快に笑ってる。
そうか、この人達はこの国を他国から守ってくれてるんだ。確かにこの力を人に向けると思うとゾッとする。実際に向けられたからかもしれないけど、私にはできないだろう。襲いかかってくる魔獣だから倒せてるのかもしれない。
私達はそれからも街の中を見回って遭遇した魔獣を倒して回った。
時間が来て、交代で休息を取る為に城へ戻るとセルジュ様に呼び止められた。
「このような状況だが、救助隊を編成したいんだ。君達にも参加してもらいたいのだが」
「助けには行きたいと思いますが、正直あの魔獣に我々だけで対抗できるとは思えません」
セルジュ様の言葉にシュシュ先輩は苦しそうに答えた。
確かに助けには行きたい。ジュリエンヌ様の話ではあの三人とははぐれただけみたいだし、他にも未闇の地で彷徨って助けを待ってる人がいるかもしれないんだ。私は自分の事を思い出して胸が苦しくなった。私にはシエルがいてくれたけど、他の人達は独りかもしれない。
「……シュシュ先輩、私はできれば助けに行きたいです」
「……ソラ、君は優しいね。……そうだね」
シュシュ先輩が頭を撫でてくれた。
「今度こそ、決して無理はしないしさせない」
テオフィル王弟殿下は対策室の机に両肘をつき、苦悩の表情を浮かべていた。
「今回の事は私の身通しの甘さが招いたことだ。私は自身の力を過信していた。君達からも話は聞いていたというのに……」
「ですが、実際に王都の状況は悪化しています。遅かれ早かれ未闇の地へ入ることにはなったでしょう」
セルジュ様はテオフィル王弟殿下を励ますように言った。
「今回はとにかく救助者の捜索が第一だ。ローブの反応がある場所へ行き、生存者を救い出す。魔獣を見たら即撤退だ」
「…………」
シュシュ先輩はまだ迷ってるみたい。
「俺なら、足止め程度なら可能だと思う」
アル様が静かにそう言った。
「だが、判断はシュシュテインに任せる」
アル様の言葉にシュシュ先輩は考え込んでしまう。
「王都の方は大丈夫なんですか?」
バジル君がセルジュ様に尋ねた。
「ああ、調査隊、騎士、兵士を総動員してる。魔法がかかった武器を貸出し魔獣の討伐に当たらせ、同時に隣国への警戒も強めているところだ。そちらは国王陛下と王太子殿下が対策を行っている」
「隣国に何か動きが?」
シュシュ先輩が驚いてセルジュ様を見た。
「今のところは何もない。安心してくれ。ただ、この機に乗じて友好条約を破棄し、我が国の領土を侵略してくることも考えられる。可能性は低いとは思うが、念の為だ」
「正直あの魔物に正しく対処できたのは君達だけだった。私の失策のせいで苦しんでいる者達を救ってやりたい。どうか協力して欲しい」
テオフィル王弟殿下は頭を下げた。
「どうぞ頭をお上げください殿下。承知いたしました。我ら落星の谷の調査チームは行方不明者の捜索に協力させていただきます」
シュシュ先輩は決断した。
「但し、あくまで無事に皆で帰ることが第一で唯一の目的です」
「分かった。よろしく頼む」
こうして私達は再び幻霧の立ち込める西の森へ入ることになったのだった。
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