39 退却
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「全滅……」
ジュリエンヌはボロボロになった自分の赤いローブを見た。
その魔獣と最初に遭遇したのはジュリエンヌのチームのいた隊だった。魔法石を一番集め、魔獣を倒した数も圧倒的だという精鋭中の精鋭チームが集まった隊だったのに、あっという間に全滅した。一番安全だと思っていた編成の隊だったし、ジュリエンヌも自分の力に自信があった。その辺の魔獣には負けないと考えていた。それなのに。
「シモーヌ様、フランセット様、シルヴィ様……」
姿の見えないチームメンバーの名前を呼ぶ。彼女達は後方にいたため、無傷だったはずだった。攻撃魔法が得意なジュリエンヌがその白い魔獣と対峙していた。しかし戦闘中に振り返ると彼女達がいなかった。
「どうして……?」
自分を守ってくれるものと思っていた友人たちが自分を置いて消えてしまった。頭の中が真っ白になる。今までこんなことは無かったのに。いつも自分が困っていると誰かが気が付いて助けてくれたのに。周りに助けてくれる人がいない状況にジュリエンヌは絶望した。
濃い霧の中、目の前には牙をむく巨大な白い魔獣。周囲には魔獣の攻撃を受けて倒れた仲間。痛む体を支えていた足からは力が抜け、ジュリエンヌはその場に座り込んだ。
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「仕方ありませんわ……」
「そうですわよね……」
「わたくし達だけではあんなものに太刀打ちできませんもの」
濃い霧の中で同じローブの反応を探して走り続けるシモーヌ、フランセット、シルヴィ。
「急いで、助けを呼んで参りましょう!」
「そうですわよね!テオフィル殿下の隊と合流できれば!」
「きっと、ジュリエンヌ様も分かって下さるわ!」
そんな彼女たちの後ろから、真っ赤な血でその爪を染めた禍々しい気配が近づいて来ていた。
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落ち星の谷のチームは赤毛の貴族同盟という男性ばかりのチームと、西の森の調査隊の寮で会ったことがある騎士様達のチームと一緒だった。
「魔獣、出でこないな」
赤毛のリーダーが辺りを見回した。
「不思議なくらい静かだな」
赤毛の貴族その一が同じようにこわごわと反対方向を見張った。
「今の所魔獣の気配が全くない。これは異常事態だ」
「そうですね。まだ西の森に入って間もないですが、おかしいですね」
魔力を見ることができる赤毛の貴族その二と赤毛の貴族その三が警戒しながら隊の先頭を歩いてる。
「俺達に怖気づいているのかもしれないな」
「拍子抜けだよなぁ」
騎士様達は赤毛のチームの後ろをつまらなそうに歩いてる。ちょっと油断しすぎじゃないかな?
基本的に幻霧が発生した西の森は王都から離れれば離れる程、強い魔獣が出てくる。ただし突然空間がねじれて、全く別の場所へ出てしまうこともある。敵わない魔獣が出てくれば道案内の魔法を使って即時撤退する。幸いなことに、これまでは調査チームを出会った瞬間に全滅させるような魔獣の存在は確認されてない。あくまでこれまでは。
「あの時と似てませんか?アル様」
「ソラ?」
「霧が深くて、何も無くて、魔獣もいない……」
「……!」
アル様は辺りを警戒するように見回した。不気味な木とか、沼とかそういうものが何もない。霧が濃いだけで地面が続いてるだけだ。
「どうしたんだい?ソラ、アル様」
私は前を歩いてるシュシュ先輩とバジル君にも説明した。今日の探索は私達のチームが隊の最後尾についていて、アル様と私が後ろを守りながら進んでいた。
「似てるんです。私があの青い魔獣と遭遇した時と」
「確かに、静かすぎるね。こうも魔獣が現れないのはおかしい」
シュシュ先輩が険しい顔になる。
「強い魔獣がいると、弱い魔獣は逃げていく……」
バジル君が防御魔法を強化した。
「みんな!警戒してくれ!!」
シュシュ先輩が声を上げたのと「場」が変化したのは同時だった。
「え?テオフィル殿下?!」
突然目の前に現れたのは、誰かを肩に抱えたテオフィル殿下だった。赤毛のリーダーは驚いて駆け寄ろうとした。
「逃げろ!!即時退却だ!!」
テオフィル殿下は鬼気迫る表情でこちらへ走ってくる。いつものような余裕はない。
そしてその後ろから現れたのは、大きな白い魔獣だった。
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