37 優しい月
来ていただいてありがとうございます!
「ア、アル様っ、ゲートの魔法の使用はダメなんじゃ……」
月明かりの中、驚いてアル様を見上げる。
「ここは塔じゃない」
けろりとしてるアル様。
「あ、そうですね……じゃなくて」
「大丈夫だ。城では常時防御魔法などが使われてる。魔法を使ってもシュシュテインにはバレない」
アル様はなんだか得意気だ。
え?アル様ってシュシュ先輩の事怖いの?そういえばこの前もシュシュ先輩に怒られてシュンとなってたよね?アル様とシュシュ先輩の関係って一体……?今度聞いてみよう、うん。
「シュシュ先輩に知られなければいいんですか?もう!」
思わず笑い出してしまった。
「良かった。元気が出たみたいだな」
ホッとしたようにアル様が微笑んだ。
「これを」
アル様が手渡してくれたのは小さな飴菓子だった。綺麗な色の飴が小瓶に入ってる。
「わあ!ありがとうございます!綺麗……」
月明かりに透かすと、色が青色から緑色に変化した。
「ソラの様子がずっと気になってた。だから心配でつい来てしまったんだ。迷惑だったか?」
「……そんなことないです。嬉しいです」
私はアル様に寄り掛かった。
「ふふ……」
「ソラ?」
「私って本当に簡単だなって。さっきまで色々不安だったんですけど、アル様の顔見たら吹っ飛んじゃいました」
月明かりに照らされたアル様は本当に綺麗だった。見惚れるほどに。たぶんジュリエンヌ様と並んだらとてもお似合いなんだろうな。チクリと胸が痛む。
アル様は目を細めて私を見つめ返してる。
「俺も同じだ。……ソラは俺が守るから。だから……」
アル様はふいに顔を曇らせた。
「俺から離れていかないで」
掠れるような小さな声が聞こえた。
アル様が立ち上がって私の前に立った。月の光で逆光になって表情がよく見えない。
「あいつにはもう何も奪わせない」
アル様はそう言って私の前にしゃがみ込むと私の膝に縋りついた。
「ア、アル様……?!」
ああ、そうか……。私の態度で不安にさせてしまったんだ。ジュリエンヌ様だけじゃなくて王妃様まで出てきてしまった。そうだよね。アル様の方がずっと怖くて嫌な気持ちになったはずなのに……。一緒に戦うって決めたのに。情けないな、私。私はアル様の頭をそっと撫でた。
「私、アル様を攫っちゃおうかな。誰にもとられないように」
私はわざと明るく言った。
「え?」
顔を上げたアル様の青紫色の目がまん丸に見開かれた。
「ねえ、アル様?未闇の地には私達が食べられる物もあるんですって。学園にいた時に読んだ本で知りました。著者が実際に食べて調べたんです。結構美味しいらしいんです。誰も食べたことが無いものを。凄いですよね」
「……そうだな……?」
アル様は戸惑ってるみたい。
「この件が終わったら、前にアル様が言ってた通りに二人で未闇の地に逃げちゃいましょう!シエルの住み処も見てみたいですし。あ、そうだ!ゲートの魔法、私にも教えてください。迷子になっても会えるように」
私はそう言ってアル様の手を引いて一緒に立ち上がった。
「それから一緒に他の国へ行くのもいいですね。色々な所を旅して回るのも楽しそうです!」
「……珍しい食べ物や菓子を沢山買ったり?」
アル様の顔が明るくなって来た。
「そうです!二人でいっぱい色々なものを見ましょう!私、アル様と二人ならどこでも大丈夫です」
「ソラ……!」
アル様にギュッと抱き締められた。もちろん私も抱き締め返した。そっと唇が重なる。強くなっていくアル様の力。反対に私の体の力が抜けていってしまう。
「ソラ、愛してる」
月明かりの中で何度も何度も交わす口づけ。
「私も愛しています、アル様」
アル様と私はその夜、寄り添いあって一緒に眠った。
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