35 城の対策室
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「そうか……そんなことが」
テオフィル王弟殿下は金色の眉をしかめて難しい顔をした。
「セルジュから話は聞いていたが、まさか貴族の令嬢ともあろう者達がそのようなことをするとは」
「信じていただけるのですか?」
意外だった。行方不明になった経緯を正直に話したんだけど、テオフィル王弟殿下は王族だから私の話なんて信じてくれないと思ってた。体の力が一気に抜けた。
魔獣を倒しながらお城に着いて、すぐに対策室というプレートの掛けられた部屋へ通された。部屋の中にはテオフィル王弟殿下とその護衛の騎士様とセルジュ様とクレール様がいらっしゃった。
「兄上、ソランジュ・フォートレル!無事だったのか!!」
セルジュ様をはじめ、皆さんアル様と私の無事をとても喜んでくれた。
「ソランジュ君。すまない」
アル様の婚約者候補は有力貴族の娘ばかりで、平民の私の証言だけでは処分は難しいとの見解だった。
「いえ、信じていただけるだけで嬉しいです」
王弟殿下に謝らせちゃった……。いいのかな。私は内心もの凄く動揺した。
「俺はあいつらを許すつもりはありません。庇うのなら王国も同罪とみなします」
アル様は厳しい表情で言い切った。
「滅多なことを言うな。誰が聞いているのか分からんのだぞ」
「気持ちは十分に分かりますが王家に対する反逆ともとられかねません。彼女の為にも言動には注意してください。兄上」
テオフィル殿下とセルジュ様はアル様の事を心配してくれてる。
「…………今は王都の問題を解決することが先決ですので、一旦保留にします」
アル様も同じように感じたのか、ため息をついた後そんな風に言った。
正直、殺されそうになったことは許せない。でも、やっぱり私は平民で向こうは貴族。この現実は大きいと感じていた。とても悔しいけど。
「まずは、今の王都の状況を説明をさせてくれ」
テオフィル殿下はセルジュ様に説目を促した。
「書面でも説明した通り、現在王都に西の森から幻霧が溢れてきている。それに伴い魔獣も出現している」
この部屋の窓からは王都が見渡せる。セルジュ様は心配そうに外を見た。
「我々もここへ来る道すがら魔獣に遭遇しました。魔法石の回収はエミリアン君達に任せてきました」
シュシュ先輩がエミリアン様の名前を出すとセルジュ様は苦い顔をした。
「……そうか。助かるよ。彼等はやる気はあるようだが、プライドが高い割には実力が伴ってなくてね……」
セルジュ様は乾いた笑いを浮かべた後、気を取り直したように咳払いをした。
「霧が発生した時は家などの建物の中にいれば魔獣に襲われることはない。当初、怪我人が続出したが、幸いなことに死亡者は出ていない。今は住居を持たない者は城や調査隊の所有する建物の中などに避難できるようにした。霧の発生は常ではなく、霧が無い場所では通常の生活が行えるようになっている」
「今の所、国民への被害は最小限に抑えられているということですね」
セルジュ様の説明にシュシュ先輩は安心したようだった。私もホッとした。リリアーヌやニコラは大丈夫みたいだ。アル様の手が肩に置かれた。
「良かったな」
そう言って笑ってくれたので、私も笑い返した。きっとアル様も心配だったんだろうな。
「ただし西の森の付近は未闇の地と同じ危険な状態だ。立ち入り禁止になっている。王都では調査隊や城の兵士、騎士が随時パトロールを行っている」
セルジュ様のお話では引退した調査隊のメンバーも自主的にパトロールを行ってるんだそうだ。
「では我々も王都で魔獣の討伐をすれば良いのですね?」
シュシュ先輩が尋ねると、テオフィル殿下は首を振った。
「否。我々は精鋭を募り、未闇の地へ入るつもりだ」
「!?」
え?どうして?今の未闇の地はとても危険なのに……!あの青い魔獣も命が惜しければ入って来るなって言ってた。
「畏れながら、殿下……」
シュシュ先輩はアル様と私が経験したことをテオフィル殿下達に説明してくれた。
「なるほど……。雲海郷の活性期か。やはり我々の推測は当たっていたようだな」
テオフィル王弟殿下はその青い目を輝かせた。王族は魔力を視ることができるという能力を持ってる。テオフィル王弟殿下はその能力が特に強いらしい。
「西の森の深部で大きな力が動いている。それに追い立てられるように霧や魔獣が森から溢れ出してきたのだと私は考えているんだ」
テオフィル殿下は何故がとても嬉しそう。
「君達の話で確信が持てたよ。アルベールとソランジュ君が遭遇したというその青い魔獣。それかそれと同等の存在がこの件を引き起こしているに違いない」
「…………ではその魔獣を倒さないと、この異変は収まらないと?」
セルジュ様は少し考え込んだ後、テオフィル殿下に尋ねる。
「倒すか、無理ならば未闇の地の深部へ追い返してしまうか、だな。そうしなけば収まるどころか、更に状況が悪くなるだろう」
「確かに。今後より強い魔獣が王都を襲い、王都を放棄することになるかもしれないですね」
王都を放棄……。思ったよりも大事になってきた。
「そこで、君達にも今回の作戦に参加してもらいたいんだ。君たちは強い。頼りになる!それに他にも各地から、優秀な者達が集まってくれている。この戦力ならどんな魔獣でも倒せるだろう」
私はあの青い魔獣の事を思い出して怖くなった。あんなものと戦って勝てるのだろうか……。私は無意識に自分を抱き締めていたみたい。アル様に肩を抱かれて気が付いた。
「無理無謀な行いをするつもりは無い。ダメだと思ったらすぐに退却するよ。とにかくこのままではこの王都を捨てなければならないかもしれない。それは避けたいんだ。君達にも是非協力して欲しい」
「少し、我々だけで話し合わせて下さい」
「もちろんだ。あまり時間は取れないが、納得のいくまで話し合ってくれ」
シュシュ先輩の言葉にテオフィル殿下は鷹揚に頷いて見せた。
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