33 決断
来ていただいてありがとうございます!
「さあ!たくさん食べてね!」
「お菓子もたくさん用意してあるよ」
私達が青星塔へ帰って来た夜。ニナさんとレアさんも私達の帰還を喜んでくれて、たくさんの料理を作ってくれた。詳しい事情は話すことが出来なかったんだけど、アル様と私の不在をとても心配してくれていたみたい。幻霧の発生中だったからお酒は出されなかったけど、みんなで食卓を囲んでとても楽しい夕食になった。
「またソラが作った菓子が食べたい」
テーブルの上のお菓子をつまみながら私の隣のアル様が呟いた。
「じゃあ、また今度何か作りますね」
「ああ」
優しく微笑むアル様を見て
「……ベタ惚れですね……」
うわあ、という顔でアル様を見てるバジル君。
「君だって変わらないだろう?バジル」
そこへシュシュ先輩が即座に反応した。
「え?」
「バジルだってよく私に甘えてくるだろう?」
「ちょ、シュシュ?何言って……」
え?今、シュシュ先輩の事、シュシュって呼んだ?あれ?シュシュ先輩とバジル君ってもしかして……。
「へえ~、そうなんだ。バジル君って」
これは後でバジル君に話を聞かないといけないかも。あ、シュシュ先輩にもね。
この後シュシュ先輩とお話しててバジル君とのことを聞こうとしたら、逆にアル様とのことを聞き返されて洗いざらい話すことになってしまった……。シュシュ先輩には敵わないや。でもどうやら、シュシュ先輩とバジル君は恋人同士になったみたい。たぶんだけど。
「二人とも疲労が溜まっているだろうから」
シュシュ先輩の気遣いで夕食(宴)は早めに終わって、各自部屋で休むことになった。
「お風呂に入れて、美味しいご飯が食べれられて、はあ、幸せ……。よし、できた!」
自分の部屋で破れたローブを繕った。さいわい破れた部分は目立たたないように繕うことが出来た。
「復元の魔法もあるんだけど、私はあまり得意じゃないんだよね」
新しいのを支給してくれるって言われたけど、一番最初に袖を通したこのローブをまだ使っていたかった。
「綺麗に直せたな。ソラは裁縫も得意なのか」
「小さい頃はよくリリアーヌが服を破いてて、母が繕っているのをよく見てたので。見よう見真似で覚えちゃいました」
って、あれ?アル様がベッドの上、私の隣に座ってローブの縫い目を見てる……?あれ?ここって私の部屋だよね?
「ええええっ!!ア、アル様?!なんでここに?ここ、私の部屋なんですけれど?!」
思わず大声を出してしまった。
「ああ、ソラには印をつけておいたから。またこんなことがあっては困る」
「印って……あ、あのゲートの魔法ですか?印って人にもつけられるんですね」
「ああ、俺はもうソラを見失わない」
アル様が私を抱き寄せた。
「あまりソラから離れていたくない」
アル様の切なげな声。確かに心配をかけてしまったのは申し訳なかったけれど、それでもこれは……。夜だし、私は薄い寝着だし、ベッドの上で二人きりって……。アル様の熱が伝わってきてすごく恥ずかしい……。幻霧の中では安心できた体温も、今はすごく緊張しちゃうよ……。
そのまま、ベッドに倒れこんだ。
「ソラが嫌なら何もしない。だから……」
アル様が私の上から見つめてる。アル様のことが嫌なんてことは無い、無いんだけど……、こ、心の準備が……!!
バタンとドアが開く。
「はい、そこまで!!」
シュシュ先輩が立ってた。
「魔法の反応があったから確認に来てみれば……。殿下は何をなさっているのかな?」
ああ、シュシュ先輩の額に青筋が……。
「何もしてない。一緒に寝ようと思っただけだ」
そ、そうなんだ……。ホッとしたような、残念なような……。
「……それで済むわけ無いでしょう?」
アル様はシュシュ先輩に怒られて、ちょっとしょんぼりした様子で帰って行った。塔内ではゲートの魔法は使用禁止になった。
そうだよね。恋人同士だもんね。そういうこともあるよね。…………。
私はその夜、疲れてるはずなのに中々寝付けなくて困った。
翌朝、シュシュ先輩が食堂のテーブルの上に一枚の書面を見つけて、大慌てで私達を会議室に呼び集めた。
「ああ、すみません。忘れてました」
王都からの書面を受け取ったバジル君はしれっとしてる。これはわざとかもしれない。
王都から転移の魔法陣で送られてきた書面には、セルジュ様のサインがあった。くしゃくしゃになったその書面にはやや乱れた文字で、王都に西の森から霧が溢れ、魔獣が出現するようになったと記されていた。
「緊急招集書?!な、大変じゃないか!」
「僕達にも王都へ戻って対処を手伝って欲しいとのことです」
「どうやら、他の地の調査隊員も呼び集められているようだね」
シュシュ先輩とバジル君が話し合ってる。
「しかし、一体何が起こってるんだ……」
「アル様、ソラ、今ね、各地の未闇の地で幻霧が消えない状態が続いているんですよ」
バジル君の説明に驚いて、アル様を見た。
「しかも、西の森では幻霧が溢れたのか……」
アル様が考え込んでる。たぶん思い当たったことは一緒だ。
「雲海郷の活性期……」
「ソラ?何の話だい?」
シュシュ先輩とバジル君に私が見たこと聞いたことについて話した。
「山のように大きな魔獣か」
「しかも人の言葉を話すなんて」
「君達、よく生きて帰れたね」
シュシュ先輩の顔が強張ってる。
「あの青い魔獣は、自分の領域に入られたことが嫌だったみたいです。私を食べるつもりはなかったみたいなんです」
私は安心させるように笑った。その前に物凄い水で押し流そうとしたのも、たぶん私達を排除するため。死なせようとは思ってなかったと思う。たぶん。
「私達は行かなければならないだろうね」
「西の森の調査隊の数は他のどの地よりも多いんですし、何なら兵士や騎士もいるんですから、僕達が行っても変わりはしないと思うんですけどねぇ」
バジル君は乗り気じゃないみたい。
「君達はどうする?」
王都にはまだ私達の帰還を知らせてない。一応行方不明のままだ。
アル様と私は顔を見合わせた。王都へ?大丈夫?でも私の頭には妹の顔が浮かんでた。あの子大丈夫かな。ニコラがいるからきっと無事だろうとは思うけれど。それに王都にはアル様がお世話になったお家の方もいらっしゃるはずだ。あのカフェのご夫妻も。働かせてもらってたパン屋さんも。
「見捨ててはおけない……か」
「はい!」
こうしてアル様と私もシュシュ先輩とバジル君と一緒に王都へ向かうことになった。
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