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星降りの谷 私、もう王都には戻りたくありません!  作者: ゆきあさ


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30/63

30 ひとときの

来ていただいてありがとうございます!



「ダ、ダメですっ!待ってくださいっ!アル様!そんなことを……」



ああ、ダメだ!アル様が黒馬の上から剣を大きく振りかぶってる!私は咄嗟に風の魔法を自分の足元に放った。飛び上がり、両手を広げてアル様と魔獣の間に上手く入り込めた。


「ソラ?」

アル様は驚いた顔もかっこいいなあ。なんて考えてる場合じゃないわ!せっかく話がまとまったのに、あの魔獣に攻撃したら今度こそ二人とも食べられちゃうかもしれないっ。私は必死に声を上げた。

「あの魔獣は大丈夫です!攻撃しないで!」

良かった。戸惑いながらもアル様は剣を下ろしてくれた。


ふっと風が止まる。あ、魔力が尽きた。そうだった。私、魔力あんまり残って無いんだった。落ちる。

「着地の事考えて無かったーっ…………」

落ちてく私をアル様と黒馬が受け止めてくれた。助かった……。

「あ、ありがとうございます。アルさ……」

言葉が終わらないうちに強く抱きしめられた。別の意味で息が苦しい。けど、嬉しい。私もアル様に抱き着いた。そしたら今度は口付けが降って来る。ちょっと待って!そろそろ呼吸が……。酸欠でくらくらしてきた……。


『……さっさと立ち去れ』


白けたような、呆れたような魔獣の声がする。驚いたアル様はやっと力を緩めてくれた。

「魔獣が喋った……?いや、頭の中に響いているのか……」

アル様は片手で頭を押さえてる。

「そうなんです。この魔獣さんは会話ができるんです。とても強いんですけど、私を食べずにいてくれるって」

「そうなのか。てっきり今にもソラを食べるつもりだと思って、最大魔力で攻撃しようとしてたよ」

良かった……止めてくれて。アル様と青い魔獣(良い魔獣 暫定)の大戦争が始まっちゃうところだった。


『だから、食わんと言っておるだろうが!!さっさと去れ!』


青い魔獣の声に怒りが含まれ始めた。これ以上怒らせるとまずいかもしれない。


「ありがとうございました。お邪魔しちゃってすみません」


私は青い魔獣に声をかけてアル様と一緒にその場を離れた。






青い魔獣が見えなくなった頃、黒馬とアル様と私は地面に降り立った。

「シエル、大丈夫かな……」

そう言った瞬間にどこからかいななきが聞こえてきて、霧の中から白い一角獣が現れた。

「良かった!無事で!」

私はシエルに抱きついた。

「ありがとう、シエル。ずっといてくれて」

いいだけすりすりしてもらって、魔力をちょっと食べさせて、やっと落ち着いた。シエルも私の事を心配しててくれたみたい。しばらくするとアル様の黒馬と遊び始めた。


「シエルはまだ幼いのかな?アル様の黒馬に遊んでもらってるみたい」

笑いながらアル様を振り返るとアル様に抱きしめられた。

「無事で良かった……。本当に」

安堵したような声を聞いて、やっと実感した。ああ、私、本当に助かったんだって。

「もう、アル様と会えないかと思いました……。迎えに来てくれてありがとうございます」


「あの巨大な魔獣の前にいたソラを見て、肝が冷えたよ」

「怖かった……」

色々思い出して、今さら体が震えてきた私にアル様はローブを着せかけてくれた。破れてしまってるけど、戻ってきて良かった。涙が溢れてきて止まらない。アル様の胸で泣き続けてしまった。

「すまなかった」

どうしてアル様が謝るの?私は首を振った。

「油断した私が悪いんです。アル様はちゃんと教えてくれたのに」

アル様は黙ったまま私を抱きしめ続けてくれた。



それから、少し休もうってことになって、近くの木の根元に二人で並んで座ることにした。

「そういえばこの辺りの木は普通ですね。霧の外で見るような木」

「ソラ、こちらへ」

先に座ったアル様に呼ばれて隣に座ろうとしたんだけど

「違う」

アル様が指差したのは、アル様の膝の上だった。

「……え?」

思考停止してるうちにアル様に腕を引かれて、赤ちゃんみたいに抱っこされてしまった。


「あ、あの、アル様?これはちょっと……」

「どうした?」

体の密着度が……。

「は、恥ずかしいです。それに重いでしょう?」

そう!これじゃアル様だって休めないと思うんだ。離れようとした私をアル様の腕が力強く引き留める。

「!」

私の肩、鎖骨の辺りにアル様が顔を埋めた。髪が当たってくすぐったい。

「少しだけ……」

「アル様……?」

「少しだけこのままで……」


不安……?


アル様も私と同じだった?同じように不安に思ってくれてた?会えなくなるかもしれないって、怖いって思ってくれてた?


不謹慎だけど嬉しいって思ってしまった。私はアル様の首に手を回してアル様の頭を抱き締めた。


「あったかい……」

「……うん」


私達はお互いの熱を感じながら、しばらくの間そうしてずっと寄り添いあっていた。



まだ危険が去った訳じゃない。みんなの所へ帰れた訳じゃない。それでも今だけは……。











ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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