27 たくらみ
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魔獣が現れた。
現れたのは前足だけがある大きな蛇の魔獣だ。この魔獣は覚えてる!動きはそれほど速くない。ブレスは無くて、危険なのは毒の牙と前足の鋭い爪。剣で対応できる。
「ソラっ!一体そっちへ行った!頼む!!」
「はいっ!任せて下さいっ」
アル様は前方から襲い掛かって来た蛇魔獣達を剣で一気に切り伏せていく。アル様の攻撃をよけて一体がこっちへ向かってきた。バジル君を狙ってる!私は何度か切りつけ、蛇魔獣を一体倒すことが出来た。
突然、シュシュ先輩のいる方から魔獣が数体飛び出してきた。剣の届く距離じゃない!防御魔法に弾かれた魔獣を雷魔法で倒した。やっぱり私には数の多い敵相手にはまだ剣での戦闘は早いみたい。剣をしまって魔法攻撃に切り替えた。左手のブレスレッドに魔力を集中する。ブレスレッドを中心に魔力の風が起こる。
「いかづちっ!」
複数の光が迸り、横から出現してきた魔獣達を一気に打ち滅ぼした。
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アルベールとソランジュは息の合った連携で魔獣を次々に倒していく。バジルは防御魔法と魔力強化の魔法を、シュシュテインは道案内の魔法と防御魔法をそれぞれ発動させている。
「あの方、学年二位とお聞きしましたけれどあの程度ですのね。剣の使い方がまだまだですわ」
ジュリエンヌはつまらなそうにあくびをかみ殺した。
「ソランジュ・フォートレルが実戦で剣を使うのは今日が初めてですよ」
セルジュはソランジュの戦いを見つめながら説明した。
「え?」
赤いローブの令嬢達は顔を見合わせて驚いている。
「彼女の基本戦闘のスタイルは後方からの魔法攻撃なのです。ほら、彼女の魔法は強く美しい」
セルジュの視線の先ではちょうどソランジュが雷の魔法でシュシュテインに襲い掛かろうとした魔獣達を一掃したところだった。
「…………」
「とても息があってる……。はぁ、ソランジュは美しいな……。あの様子を見て分かりませんか?貴女も諦めた方がいいですよ」
セルジュの言葉にやや憮然とするジュリエンヌ。
「……わたくしにもあの程度の事はできると思いますわ」
「兄上が貴女を選ぶことはあり得ないと思います」
セルジュは戦闘を見守りながら静かに告げた。
「王妃様とアルベール殿下のお母様の確執は存じ上げております。恐ろしい噂の事も」
ジュリエンヌは一度言葉を切ると夢見るように両手を胸の前で組んだ。
「けれどそんな噂は信じておりませんわ。アルベール殿下とわたくしとの結婚が決まればきっとそんな暗い空気も消え去って、王宮内も春のように明るくなると思いますの!」
(彼女の頭の中には花が咲いているのか?)
本気で相手の正気を疑うセルジュだった。
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近くにいた魔獣達を倒し終わってホッとしていると悲鳴が聞こえてきた。
「きゃあああ!」
誰かが魔獣に襲われてる?セルジュ様とクレール様、ジュリエンヌ様が魔獣と対峙してる。後ろにも魔獣が現れたんだ!他の三人の姿が見えないっ!噓でしょう?どうしてみんなから離れたの?アル様とは少し距離が離れてしまってる。今手が空いてるのは私だけだ。助けに行かなきゃ!
「待つんだ!ソラ!!」
シュシュ先輩の声が聞こえたけど、私は走り出した。
確か、フランセット様以外は攻撃魔法が使えるはずだ。フランセット様が道案内の魔法や防御魔法を担当してるはず。南の飛び地の調査隊チームの中では一番強いのだと聞いてる。だから大丈夫だよね?そんなことを考えながら、声のする方へ向かった。しばらく走ると濃い霧の中に佇む三人を見つけた。
「良かった!三人とも無事ですね?あれ?」
魔獣がいない?
「良かったわ!貴女が来てくださったのね」
ニコニコ笑ってるシルヴィ様が私の手首を掴んだ。
「こちらにいらして!こっちに魔法石を見つけたんですのよ」
もう片方の手をシモーヌ様が掴んで三人とも走り出した。もちろん私も一緒に走らざるを得ない。
「ちょっと待って下さい!あまりみんなから離れると防御魔法の範囲を外れてしまいます!」
「大丈夫ですわ!私達のローブは居場所を知らせてくれますもの!」
もうずいぶん遠くへ走って来てしまった。霧で周りの景色も見えない。
「ですから、わたくし達は大丈夫ですわ」
いきなり突き飛ばされた。フランセット様がバランスを崩した私に向かって魔法を放つ。私は立っていられずに倒れこんだ。
これは……拘束の魔法?そんな……人に向かって魔法を放つのは禁止されてるのに……
動けないし、声も出せない。拘束の魔法は魔獣に使うと一定時間動きを止めることが出来るけど、人間に使うと命の危険もあるかもしれない魔法だ。
「…………っ」
どういうこと?何でこんなことを……?
「貴女はアルベール殿下に相応しくないの」
「やっぱりアルベール殿下にはジュリエンヌ様が相応しいのよ」
「身の程知らずだわ」
言いながら彼女達は私のローブをはぎ取った。その行為の意味に気が付いてゾッとする。
「ここで反省なさるといいわ」
「あ、その魔法はしばらくすれば解けますわ。多分」
「頑張って帰っていらしてね。ではごきげんよう」
私は倒れたまま、クスクスと笑いながら去って行く三人を見送ることしかできなかった。
いくら私のことが邪魔だからってこんなことまでするんだ……。信じられない。
アル様……。
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