25 星の夜 星の朝
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✧本日8/8二つ目の投稿になります。ご注意ください。
「今日も剣の稽古をつけてもらえなかったな……」
私は満天の星空の下、青星塔の屋上にいた。
「青い星が多いから青星塔?」
アル様に選んでもらった剣に魔力を流す練習をしてた。なんだか眠れなくて、一人で部屋にいるのも嫌でここへ来ちゃったんだ。あれから二日。アル様と話すこともできなくてちょっと寂しかった。ずっとジュリエンヌ様達がアル様の傍にいたから。アル様は私の方を全然見なかった。本当ならこれが普通なんだよね。綺麗なお姫様に寄り添う王子様。でも……。
やっぱり嫌だ。アル様に触らないで。近づかないで……!
私の中の激しくて醜い感情……。こんな気持ち知らなかった。ちょっと前まではちゃんと色々分かってて、諦められるって思ってたのに……こんな……。
零れた涙をゴシゴシと拭った。
「こんなんじゃ、ダメだ。集中しなきゃ……」
幻霧の発生はすぐに起こるかもしれない。危険な仕事なんだから、できる限りの備えをしておかなきゃ。星空を見上げて深呼吸する。白銀の刀身に魔力を流す。属性を付与する。この流れをひたすら繰り返した。呼吸をするように自然にできるように。
「あ、途切れちゃった……ダメだなぁ、私」
「長く吐き出す息に合わせるといい」
後ろから剣を持つ手を握られた。背中があったかい。
「ア、アル様?!どうして……」
振り返ると至近距離にアル様の顔が……!一気に顔が熱くなる。
「昨夜もここにいた。ここ二日、ソラと話せなかったから」
恥ずかしくて離れようとしたら、そのまま抱きすくめられた。アル様の強い力に剣を落としそうになる。
「あ、あの、アル様……、離してください」
「嫌だ」
腕の力が強まった。
私はアル様の腕にそっと触れてみた。
どうして話しかけてくれなかったの?どうして私の方を見てくれなかったの?どうしてジュリエンヌ様達の傍にいたの?
言いたいことはあったけど、口から出たのは……。
「……………………寂しかったです」
アル様の腕の力が弱まった。
「ソラ……」
「他の女の子と一緒にいないで……!私から離れていかないで……!」
止まらない。涙も。
「ソラ!」
アル様が私の前に回り込んだ。
「私……アル様が好きです」
だから他の人を見ないで……
言いかけた私の言葉はアル様に塞がれた。唇に感じる確かな熱。私は目を閉じた。
アル様に抱き締められて、涙を拭われて、何度も口づけを受けた。どうしよう……私、もうアル様の事諦めるなんてできない。
二人で寄り添って座って話をした。あの時の続きを。
「俺の母は王妃に殺されたんだ」
アル様の言葉に一瞬頭の中が真っ白になった。
「証拠はない。だけど、茶会の時に王妃が俺にくれた飲み物を代わりに飲んだ母は、ある日突然倒れて帰らぬ人になった」
「そんな……」
「見舞いと称して病床を訪れた王妃の、あの醜い笑顔が忘れられない」
『まあ、お可哀そうに……。貴方もお体には気を付けてくださいね』
「そんな風に言って笑ってたよ」
アル様は吐き捨てるように言った。
「それから俺は何度か命を狙われることがあって、当時母の護衛をしてた騎士の元で暮らすことになったんだ」
それでアル様は王都で暮らしてたんだ。酷い。ずっと怖かったんだろうな……。
「泣かないで……ソラ」
アル様の腕の中で慰められてしまった。泣きたいのはきっとアル様なのに。
「十五歳の時に王宮に呼び戻された俺は、王宮に戻るつもりが無いと告げた。母を守らなかった父を許せなかったからだ。そんな俺に出された条件が聖晶石だった」
「国王様は、アル様を手放すつもりが無いんですね」
だって伝説級の魔法石を見つけてこいなんて、無理に決まってる。
「一人で何度かここで調査探索を行ったけど限界があった。シュシュテインは優秀だけど、攻撃魔法は
それほどでもなかった。だから他の未闇の地や学園へ人材を探しに行ったんだ」
「アル様は諦めなかったんですね」
私は星空を見上げて息を吸い込んだ。
「私も諦めません。アル様と一緒に頑張ります。……一生」
目を大きく見開いた後、真剣な顔で私を見つめるアル様。
「いいの?本当に?俺はもうソラを離してやれなくなる」
「はい」
「俺といるとソラの命も危ないかもしれない……」
「大丈夫です!私、戦闘バカで戦女神ですから」
私は笑って見せた。
「アル様と一緒にいられなくなる方が嫌です。だったら一緒に戦いたい」
私は剣の柄を握り締めた。
「ありがとう、ソラ」
そう言って私を抱きしめるアル様の目に、一瞬光るものが見えた気がした。
それからも色々な話をして、いつの間にか二人とも眠り込んでしまった。目を覚ますと夜明け前の空に明るく輝く星が輝いていた。
幻霧の発生が起こったのはその翌日の事だった。
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