24 候補者達
来ていただいてありがとうございます!
飛竜の群れが飛来した。
四頭の飛竜が青星塔の前に舞い降りてきた。
アル様、セルジュ様、クレール様、シュシュ先輩と私は何事かと慌てて青星塔の外へ出た。
「お久しぶりですわね!アルベール殿下!」
赤いローブを着た物凄い美少女が一頭の飛竜から降りて走り寄って来た。
白い肌、緩くウェーブがかかった銀色の髪は風にふわふわ揺れている。空色の瞳は軽く潤んでいて守ってあげたくなるような儚げな女の子だった。その子に続いて、同年代くらいの女の子達が三人も走ってくる。みんな同じ赤いローブを身に付けてる。という事はこの人達は南の飛び地の調査隊の人達?
「先日のテオフィル王弟殿下の交流会、わたくしも参加したかったですわ!」
「わたくし達もです!!」
きゃあきゃあと騒ぐ赤いローブの女の子達。アル様はあっという間に彼女達に取り囲まれてしまった。でもアル様は無表情のまま、ほとんど喋ってない。
「あら?アルベール殿下の頑ななお心が緩んで、笑顔もお見せになられてるとお聞きしましたのに!」
「わたくし達、いてもたっても居られずに来てしまいましたわ!」
「殿下の婚約者候補なのですからわたくし達にも見せてくださいませ!」
え?婚約者候補?この人達みんな?こんなに綺麗な女の子達が?
「シュシュテイン様ばかり殿下を独り占めなさっててズルイですわ!」
「ご一緒にドレスショップへも行かれたとか!」
「お茶会にもいらしてくださらないし!」
「このままじゃ、不公平ですもの!!」
「何なの?この騒ぎは……」
バジル君が眠たそうに私の隣に並んだ。
「……ふうん、ちゃんと渡したんだ…よしよし。そしてちゃんと受け取ったと。更によし」
なんて意味不明なことを呟いてる。
「そのことに関しては各家に通達が行っているはずだ。俺、いや、私は誰も選ぶつもりは無いと」
アル様は今までに聞いたことが無いくらい冷たい声で告げた。
「殿下ったら!国王陛下の御意思ですのよ」
アル様の意思は関係無いって軽く言われてしまった。
「ジュリエンヌ・ヴィクス嬢、そもそも誰の許可を得てここに来ているんだ?飛び地の調査はどうした?」
セルジュ様が少し苛ついた声で尋ねた。セルジュ様は真面目なんだよね。
「研修の許可を頂きましたの!ここで戦闘のお手本を見せていただこうと思いまして!なんでも結晶石が採れたのですって?是非見せていただきたいわ!とりあえず幻霧の発生までお世話になりますわ!」
ジュリエンヌ様と呼ばれた銀色の髪の美少女が無邪気な微笑みで鞄から丸めた用紙を取り出した。
「書類は正式なものだ……。叔父上、何を考えてるんだ」
セルジュ様は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
「さあ、青星塔の中を案内してくださいませ!殿下!」
「セルジュ殿下も!!」
南の飛び地の調査隊の人達はアル様とセルジュ様を取り囲んで青星塔の中へ入って行ってしまった。
「はあ、やかましいことだ。ごめんねソラ、バジル。あの銀髪の彼女はジュリエンヌ・ヴィクス。それから、シモーヌ・ルデュク嬢、フランセット・イヴェール嬢、シルヴィ・サロート嬢。見ての通り彼女達は南の飛び地の調査チームだ。ジュリエンヌ嬢は現王妃の姪に当たる方なんだ。昔からあんな風に自由奔放でね……」
シュシュ先輩は飛竜達を見送ってから、私とバジル君の背を押して青星塔の中へ戻った。
「交流会のドレスは殿下が選んだんだよ」
離れ際にシュシュ先輩から耳打ちされて驚いた。さっき言ってた一緒にドレスショップって……。
あのドレス、アル様が……。嬉しい……。
いきなり人数が増えることになったので、レアさんとニナさんを手伝って四人分の客室の準備をした。客室と言っても私とシュシュ先輩の部屋と同じ四階の空き部屋を掃除してベッドメイクをするだけだけど。
ちょうど準備が終わった時、シュシュ先輩に連れられてあの四人が部屋へ入って来た。
「とにかく、ここに滞在中は勝手な行動はしないでいただきたい」
「わかってますわ。ここの責任者はシュシュテイン様ですものね」
「承知しておりますわ」
「ごめんなさいね。突然で。あら?貴女は調査隊のメンバーなのよね?確か……ソランジュさん?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
私が挨拶をするとジュリエンヌ様はきょとんとした。
「え?よろしくはできないわよ?」
「え?」
「だって、貴女は平民なんでしょう?」
「……はい」
うわぁ久しぶりだ、この感覚。他の三人もそうですわよねってクスクスと笑い合ってる。
「ここに配属されたのは数合わせなのだし、実力も無いのに調査隊の一員として振舞うのは良くないわ」
綺麗にしたベッドにぽすんと座るジュリエンヌ様。座り心地が良くなかったみたい。顔をしかめてる。
「え?」
「それにあまり殿下達に近づきすぎてはいけないわ。雑用係としてわきまえた行動を取らないと、後で辛くなるのは貴女なのよ?」
人差し指を立てて片目を瞑るジュリエンヌ様。悪意は無いみたい。全くの善意で忠告してくれてるみたいだ。
「私は、シュシュテイン先輩の調査チームの戦闘員として働かせていただいております」
私は訂正させてもらった。
「何を仰ってるの?そんなはずは無いでしょう?学園の成績は最下位に近かったと聞いてるわ」
あ、もしかしてマリエットのことと勘違いしてる?そっか、マリエット、魔力はあるんだけどあんまり勉強熱心じゃなかったから……。
「それは……」
「ソラは学年二位の成績で卒業してるよ」
また訂正しようとしたらシュシュ先輩が先に説明してくれた。
「シュシュテイン様?何も嘘までついて彼女を庇わなくても……。貴女が身分を気にせず、誰にもお優しいのは存じておりますけれど」
ジュリエンヌ様が困ったようにシュシュ先輩に笑いかけた。
「庇うも何も、本当の事だよ。ソラは西の森への配属が決まっていたのを、アルベール第一王子殿下が直々に彼女を引き抜いて来たんだからね」
あ、なんかややこしいことになりそう……。
「なっ」
「アルベール殿下が……?」
「そんな……」
「じゃあ、あの噂は本当だったのね」
「アルベール殿下が笑顔を見せる女の子がいるって。後輩を可愛がってるって。貴女の事なの?」
「?アル様の笑顔なんて、みんな普通にむぐ」
シュシュ先輩の綺麗な細い指が私の口を塞いだ。なんで?
「ソラ、ちょっと黙ってね」
笑顔で威圧されたよ?どうしたの?シュシュ先輩。
「そんな事よりも本当の目的は何だい?君がこの地にただ見学にだけ来るとは思えないけど?」
シュシュ先輩が尋ねると、ジュリエンヌ様はすっと立ち上がった。
「……わたくし、アルベール殿下に隊長になっていただいて、一緒にチームを結成していただこうと思っていますの。その為に強くなったのです!次の幻霧発生でわたくしの実力を見ていただきたいわ!!そして、わたくしを婚約者に選んでいただいて、ゆくゆくは二人でこの未闇の地を制するのです!」
ジュリエンヌ様は力強く演説して、周りでは他の女の子達が拍手をしてる。この人達ってどういう関係性なの?
「はあ、面倒な……」
シュシュ先輩は額を押えてため息をついた。
貴族のご令嬢にしてはちょっと変わってるけど、アル様はこんなに綺麗な人にこんなに想われてるんだ……。私は胸のペンダントを握り締めた。
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