23 あなたのことを
来ていただいてありがとうございます!
「これがいいかもしれない」
「……は、はい……」
青星塔一階の会議室には壁一面に魔法道具を置いた棚がある。その中からアル様が選んでくれたのは白銀の細身の剣だった。
アル様、いつもと全然態度が変わらない……。昨日、す、す、好きって言われたよね?キスもされたよね?多分唇には触れてないけど、おでことほっぺにはされたよね?
あの後、何とか立ち上がって根性でお風呂に入って、覚悟決めて食堂まで下りた。だけどアル様と何故かバジル君は遅れて食堂へやって来て、二人で何か話し込んでた。私はセルジュ様にずっと話しかけられてて夕食もあまり食べられなくて、思い出してしまって夜もあまり良く眠れなかったんだけどな……。
そして朝起きた時、もしかして夢だったんじゃないかって思った。今も態度の変わらないアル様に、都合の良い夢をみたんだって思い始めてきた。それか、冗談だったとか……。
「この剣には魔法石ははまってないが、刀身自体が魔法石と似た金属で出来ている。ソラのブレスレッドと同じように魔法を媒介してくれるだろう。自分の腕の延長のように魔力を流すんだ」
「はい。分かりました」
少しずつ悲しい気持ちになってしまう。
「今日からはこれで訓練を行う」
「はい」
どうしよう。涙が出そう。
「……それで」
「はい」
「…………」
「アル様?」
「結婚してほしいんだ。俺では駄目だろうか?」
「へ?」
我ながら間抜けな声が出たと思う。今、求婚された?何?この流れ。思わずアル様を見上げた。今日はアル様の顔をちゃんと見てないことに今更気が付いた。
あ、アル様顔真っ赤……。もしかしてずっと?
「昨夜は言い逃げしてすまなかった。許可なく触れたことも。けど、どうしても約束が欲しい。ソラとの未来の約束が」
アル様は私の手を取って口づけた。夢とか冗談じゃなかったんだ。そしてセルジュ様から庇ってくれるための嘘でもない。
嬉しい。私もアル様が好きです。そう言いたかった。でも結婚って……。
「お気持ちは嬉しいです。でも、私はただの平民で、王子様のアル様とは身分が釣り合いません」
俯いた私の頬にアル様の手が触れた。見上げたアル様の目はまっすく私を見つめていた。
「それは問題にならない。俺は元々事情があって市井で育って来た。この先も王宮に留まるつもりはない。父である国王との約束で、条件を満たせば王籍を抜けられることになってる」
「王籍を抜ける?どうしてそんな……王子様なのに」
「俺は、王族や貴族が嫌いだ。ずっとあの場所から離れたいと思ってた」
険しい表情のアル様。知らなかったアル様の気持ち。そういえば私はアル様の事何も知らない。
「本当は、一人で生きていくつもりだった。誰にも迷惑をかけないように。けど君を見つけてしまった」
アル様は眩しそうに目を細めて私を見てる。
「俺は強い魔法使いを探していた。すまない。最初は俺の目的のために利用しようと思っていた」
アル様は悲し気に笑って私を見た。
「けれど、美しい魔力の光……。目が離せなかった。生き生きと魔獣を倒す姿は素晴らしかった」
そ、それは……!違うんです!エミリアン様のチームは私しか魔法戦闘ができなくて、いつも全力でやらざるを得なくて!決して魔獣を倒すのが楽しかったわけでは!
「まるで戦女神のようだった」
「戦女神……」
バジル君にも戦闘バカって言われたっけ……。私ってそういう印象なんだ。なんか複雑な気持ちなんだけど、アル様がそういう私をいいって言ってくれるなら、いいのかな?
「ソラが貴族達の中で頑張ってるのを見て、もう自分でも止められなくなった。すぐにソラをこの落星の谷に呼び寄せる手続きをした。病弱な妹さんについてはこちらで手厚く保護させてもらう予定だったんだ。行き違いで通達が届かなかったようで申し訳なかった」
「いえ!妹の事は大丈夫です。以前もお話したように、結婚が決まりましたし……」
私は要らないって言われちゃったしね。
「アル様はどうしてそんなに強い人を探してたんですか?」
「俺の願いを叶えるためだ」
「願い……、あ!国王様の条件?」
「ああ。父からの条件は聖晶石を見つける事」
「せ、聖晶石ですか?!」
あのレア中のレアの魔法石?そんなもの見つかるの?
「城にあるという唯一の聖晶石はここで見つけられたものなんだ。だから俺はここへ来た」
そうだったんだ。それで王子様なのにここにいるんだ。それで王子様なのにあんなに強いんだ。
「俺は自由を勝ち取るために必ず聖晶石を見つけてみせる」
「これを……」
アル様はそう言って私の首に両手を回した。
「ペンダント?」
私の胸には紫がかった青い石が光ってる。透き通った結晶石の中に青紫色の光が灯っているよう。
「守り石だ。身に付けていてほしい。昨夜バジルに頼んで作ってもらった。……本当はもっとゆっくり距離を縮めていくつもりだった。けどそうも言ってはいられなくなった」
「綺麗……」
「俺には面倒ごとが多いから……。断ってはいるが、その、婚約者候補もいる」
アル様、凄く嫌そう。
「あ、シュシュ先輩も言ってましたね」
王子様だと結婚も政治に関係してくるんだろうな……。
「急かせるつもりは無いんだが、できれば返事が欲しい。なるべく早く。先程も言ったが、俺には面倒ごとが多い。ソラを危険な目に合わせてしまうかもしれない。それでも俺はソラを諦めたくない。ソラと一緒に生きていきたい」
私が知ってるアル様の事。とても強い事。甘いお菓子が好きな事。無表情な事も多いけど笑顔が可愛いこと。戦う姿が綺麗な事。剣を持つ姿がカッコいい事。そしてとても優しい事。
あれ?私アル様の戦う姿が好きなのかな?やっぱり戦闘バカなの?
「あの、アル様……私アル様の事もっと知りたいです。聴いてもいいですか?」
私も一歩踏み出してみよう。平民とか王族とかは一度ナシにして。アル様の事、もっと知りたい。
「ああ、俺もソラに俺の事をもっと知ってほしい。俺は……」
突然、風を切る音が響いた。
四頭の飛竜が落星の谷に舞い降りてきた。
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