2 落星の谷へ
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本日二話目の投稿です
よろしくお願いします
「婚約者を親友に盗られてしまったんですって。お可哀そうに」
「落星の谷ってあんな最果ての地に?……実質島流し……、学年二位なのに?」
「え?親友の体を慮って、勤務地を交換したんでしょ?お優しい事ね」
「本当に。私には真似できないわ。絶対に嫌ですもの」
「でも、マリエットさんも凄いわよね?親友の婚約者を寝……」
「しっ!嫌ですわ、はしたない……」
「さすが平民は品性がありませんわねぇ」
「でも、平民には相応しいかもしれませんわ」
何故か私とエミリアン様との婚約解消が知れ渡っていた。正式な書類が届いたのは昨日なのに噂って早いのね。魔法学園の卒業があと三日で良かった。ずっとこんな風に聞こえよがしに陰口をたたかれるのはキツイもの。
卒業式を控えて最終学年の私達は授業は無い。でも毎日妹リリアーヌの恋人の二コラが家に入り浸るようになってて、何だか家にも居づらい。だから私は図書棟のお気に入りの場所で本を読んで過ごしていた。人があまり来ない穴場スポットがあって、私は魔法学園での三年間よくここで過ごしていた。今日はこれから私が行く「落星の谷」について調べておこうと思ったから。でもあまり関係する文献が無い。
「王都の東の果てにある場所。全ての未闇の地の中で最も調査が進んでない不明の地。これからの調査が待たれる……か。大体書いてあることは一緒ね」
私はため息をついた。あまり行きたがる人もいないし、調査隊として派遣されてもすぐにやめてしまう人が多くて調査が中々進まない場所なんだろう。
開いたページに影が差した。顔を上げるとそこには今、一番会いたくない人の一人が立っていた。少し暗めの図書棟の中で輝く金色の髪が眩しくて鬱陶しい。
「やあ、お互いやっと卒業だな」
「……セルジュ第三王子殿下におかれましてはご機嫌麗しく……」
私は本を閉じて立ち上がった。私の丁寧な挨拶に不満げな顔をする第三王子。
「学園内ではそのような挨拶は不要だと何度も伝えたが、最後まで君は変わらなかったな。…………顔色が悪い。堪えたようだな。婚約の解消、それに最果ての地での勤務とはね……」
ため息をついて空色の瞳を細め、沈痛な面持ちをする第三王子。彼は美形なのでいつもならこんな表情をすれば女子生徒達の黄色い悲鳴が上がる。けれど、残念ながらここには私しかいないのでそんな声は当然上がらない。何故なら私はこの人が大嫌いだから。なんて白々しいのかしら。いい気味だって思ってるくせに。王家の命令なのよ?あんたの差し金なんじゃないの?あ、絶対そうだ!この三年間ずっと絡まれて、嫌味を言われてばかりだったもの。
「ま、まあ、女の分際でこの僕よりも成績が上位なんて目立ちすぎたんだろう。これに懲りて男を魔法戦で余裕で負かすような真似はしないことだな!」
「…………」
ほら、こんな風にね。
「そ、そうだ!!婚約者のあてが無いのなら、紹介してやってもいいぞ。どうせ君には恋人なんてできないだろう?でも君のその魔力には魅力がある。野に放つのは惜しい。……例えば、その……僕……」
何故か赤い顔を背けて黙ってしまった第三王子に心の中で思いっきり舌を出した。
こんな奴に負けない。成績で負けなかった私は偉いわよ!手を握りしめ、笑顔をつくった。
「私の婚約についてはどうぞご心配なく!あてはありますので!そして勤務地に貴賤は無いかと存じます。お話がそれだけでしたら、御前失礼いたします」
嘘だった。婚約のあてなんてない。でも別に貴族じゃないんだから婚約や結婚なんて無理にしなくていいもの。元々自分の結婚なんて考えてなかった。妹の、リリアーヌを養うことで頭がいっぱいだったから。魔法学園に無理に入ったのもその後の就職に有利だからだし……。なんか無駄になったっぽいけど。勤務地についてはちょっと負け惜しみだけど、顔になんか出さないんだから!
「……なっ、あてって……!」
そうよ!三年間ずっとこうやって嫌味を言ってきたこの王子とも、もう会うことは無いと思うと、僻地勤務も悪くないかもね。私は話し続けようとする王子を無視して図書棟を出た。
「あ、おい!ちょっと待て!」
魔法学園にいる間はちょっとくらい無礼でも不敬罪にならないらしいから本当に良かったわ。
卒業式の後、妹の婚約者のニコラとその家族に挨拶をしたり、学園の休みの間なんかに働かせてもらってたパン屋さんにご挨拶をしたり、荷造りをしたりと忙しくしてあっという間に七日が過ぎ、私は王国東方の最果ての地、落星の谷へ出発したのだった。
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