18 異変 続
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『このままだとちょっと困るなぁ』
エミリアンは落星の谷の調査チームの戦闘を見ながらテオフィルの言葉を思い出していた。
(何なんだよ、あいつら。何であんな強そうな魔獣をサクサク倒していくんだよ!これじゃあまるで僕達がさぼってるみたいじゃないか)
昨日の探索調査では魔獣を一体も倒せずに終わった。魔獣と遭遇しなかったと報告したけれど、信じて貰えてないようだった。確かにそれは嘘だったが、強そうな魔獣だったからメンバーの安全を優先しただけだ。そうだ!勇敢と蛮勇は違うんだ!エミリアンは自分を納得させると、目隠しの魔法の範囲内からそっと抜けていった。
(僕達だってやればできる。はぐれた弱い魔獣を見つけて倒せば魔法石の一つや二つくらい……!)
「エミリアン様?どうなさったの?どちらへ行かれるのですか?」
振り向くとマリエットや他のメンバーがついて来てた。
「僕達も魔獣を倒しに行こう。彼らだけに任せておくのは良くない」
「エミリアン様、ご立派ですわ」
ほぅ、とわざとらしいくらいに頬を染めるマリエット。しかし他のメンバーは弱く反対した。
「王弟殿下からの指示は待機なので……」
しかしエミリアンにじろりと睨まれ黙ってしまった。結局みんなで集団からそっと離れていった。
「何だ……これは……」
エミリアン達の前には彼らが見たことのないような大きな蜻蛉型の魔獣が出現していた。エミリアンは震えながら悲鳴を上げて逃げ出した。仲間を置いて。魔獣はエミリアンを追いかけてくる。
「うわああああああっ!」
「待って!エミリアン様っ!」
逃げ出したエミリアンを追って仲間達も走り出す。しかしエミリアン達の後ろからはもう一体の魔獣が現れて挟み撃ちの形になってしまった。
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私とアル様、そしてセルジュ様は声のする方へ向かった。クレール様もついて来ている。ピリピリする感覚が強まっていく。ほどなくして大きな魔獣達に挟まれているエミリアン様達を見つけた。
「どうしてこんな事になってるんだ?」
セルジュ様は不思議そうにしてる。
今にもエミリアン様に向かって炎が吐き出されそうになってる。まだ魔法が届く距離じゃない。
「間に合わない……!シエル!お願いっ!!」
私は一角獣を呼んだ。
シエルはすぐに現れて魔獣に体当たりしてくれた。魔獣の炎のブレスは明後日の方へ向かって吐き出された。間一髪だった。
「エミリアン様!今のうちに!」
「星獣、だと……?」
声を掛けたけど放心状態で腰を抜かしてる。
「シエルっその人を離れた場所へ連れて行って!」
「うわっ何を……!」
シエルは嫌そうにエミリアン様の襟をくわえると走り出した。
後ろからマリエット達を追いかけてきてた魔獣はアル様とセルジュ様が相手をして倒しかけていた。アル様の黒い翼馬もいつの間にか現れていて、マリエット達を守りつつ避難させている。
私はありったけの力をこめて水魔法を目の前の魔獣に叩き込んだ。すぐに戻って来たシエルも手伝ってくれて大きな魔獣を倒すことが出来た。これが近くにいたからピリピリしてたんだ。でももう、大丈夫みたい。さすがにこれ以上の戦闘は無理だ。
シュシュ先輩とバジル君も追いついて来ていた。
「やあ、お疲れ!何だか大変だったね」
「待機の指示を無視して勝手な行動をとってさぁ……。あんな奴ら助けなくても良かったのに……」
「バジル君ってば……」
それにしてもエミリアン様達、なんで単独で動いてたんだろう……?はぐれたの?
「シエルありがとうね」
すりすりしてくるシエルの首をギュッと抱きしめて、魔力を食べさせた。シエルは喜んでいなないて霧の向こうへ走り去っていった。
「ほう!君も星獣を従えているのか!大したものだな!!」
テオフィル王弟殿下は他の調査隊の人達に森の外へ出るように指示した後に、私達の所へやって来た。
「へえ!魔晶石だ。これは結構質がいいな!!」
バジル君は魔獣が落とした二つの大きな石を嬉しそうに鑑定している。
「魔晶石だって?!久しぶりだな。これは素晴らしい!!」
テオフィル王弟殿下はバジル君の手元を覗き込んで目を輝かせた。
「叔父上、早く退却の指示を!皆疲弊していますし、また魔獣が現れたら今度は厳しいかもしれません」
セルジュ様が進言するとテオフィル王弟殿下はちょっと慌てたようだった。
「おお!そうだな。すまん、すまん!」
やっと帰れる……。私はほっと息をついたのだった。
「一人でよく頑張ったな。強くなった」
肩を叩かれて見上げるとアル様が隣に立っていた。
「はい!シエルも手伝ってくれたので。何とか倒せて良かったです」
アル様に褒められた……!嬉しい。笑って答えるとアル様も笑い返してくれた。
無事にみんなで森の外へ出ると、先に逃げていたマリエットが駆け寄って来た。
「セルジュ殿下っ!、アルベール殿下っ!助けて下さってありがとうございます!私、とても怖かったですわ!!」
マリエットは二人に抱きつこうとしたけど、あえなくかわされてしまった。
また私を睨んでるけど、知らないよ……。
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