14 カフェと買い物
来ていただいてありがとうございます!
生まれ育った家を出て王都を歩いた。自分の真下の影を見ながら。荷物はそんなに多くない。まさか持ち物を売られてるとは思わなかった。着替えの服は家のを持っていこうと思ってたからどうしよう……。
「西の森の調査隊の寮を予約しておいて良かった。まさかこんな事になるとは思わなかったけど」
リリアーヌと一緒に外でお昼を食べようと思ってたから、入寮の予約は夕方にしてある。今から入れないかダメ元で聞いてみようかな。とりあえず、西の森の調査隊の寮に向かうことにした。
「お昼ご飯どうしよ……」
周囲のお店を見てみるけど、あまり外でご飯を食べたことが無くて良く分からなかった。あまり食べる気にもならないからいいかな。
「ソラ……?」
「え、アル様?」
寮の近くを歩いていたら思いがけない人がいた。
「どうしたんですか?そんな荷物なんて持って」
「ここに入るから」
「え?アル様はお城へ帰るんじゃないんですか?」
「帰らない。仕事だから。城は遠くて不便だ」
そうなんだ。寮で一緒。嬉しい。暗くなった気持ちがふわっと明るくなった。私ってやっぱりげんきんだ。
「ソラ、昼食は?」
「あ、いえ、まだ」
「そうか、じゃあ、行こう」
「え?」
アル様は寮の受付で荷物を預かってもらうように手配して私を街へ連れ出した。
「行きたい店はあるか?」
「えっと、私あまり外食ってしたこと無くて。良く分からないんです。すみません」
節約してたから……。こういうのがリリアーヌに嫌がられるところなのかな。
「謝らなくていい。じゃあ何か食べたいものはあるか?」
「ちょっと暑いのでさっぱりしたものを……」
アル様と一緒にご飯……!嬉しいけどそれほど食欲は無かった。
「分かった」
アル様は私の手を引いて連れて行ってくれたのは、王都でも下町の小さなカフェだった。店先には可愛い花を咲かせた花壇とハンギングバスケット。
「可愛いお店」
アル様、誰かとここへ来たことあるのかな?
「いらっしゃいませ」
店内にいたのは小柄なおばあさんだった。白髪をまとめていて可愛らしいレースをあしらった白いエプロンをつけてる。
「あらあらあらぁ!アル君久しぶりねぇ。随分可愛らしいお嬢さんを連れて来てくれたのね。恋人かしら」
パチンとウインク。性格も可愛らしい人みたい。
「え?いえ、あの」
「婚約者だ」
「ええ?!」
それは嘘設定ですよね?肩を抱かれて驚いて見上げるとアル様は私を見ていた。アル様は真面目だわ。セルジュ様がいない場所でも設定を崩さないのね。
「俺はそのつもりだから」
「あらあら、そうなの!仲良しでいいわねぇ。さあ、座って座って」
昼食時には少し遅いこともあってか席は半分くらい埋まってた。アル様と私は窓辺の席に座った。
「ご注文は?」
カフェのおばあさんに聞かれて慌ててメニューカードを見た。どうしよう。困っているとアル様が声をかけてくれた。
「俺に任せてもらえるか?」
「はい。お願いします」
「サマーサンドと冷製ポタージュを頼む。二つずつだ。それからレインドロップベリーのジュースを」
「かしこまりました」
っておばあさんはにっこり笑った。
しばらくして料理が届いたけれど、どれもさっぱりしていて美味しかった。サマーサンドは野菜と淡白な肉のサンドイッチで、酸味の効いたソースが入っていた。冷たいポタージュスープものど越しが良かった。食欲無いなって思ってたけど、ほとんど食べることが出来た。
「美味しかったです。連れて来てくれてありがとうございます。アル様」
アル様の瞳のような色のジュースを飲みながら、店の中を見回した。ドライフラワーが飾ってあったり、棚に置いてある調味料の入った小瓶も可愛い。こういうお家に住みたいかも。
「何があった?」
「え?」
「元気が無い」
「そんなことは……」
「家で何かあったんだろう?」
どうして分かるの?一応寮に入る前に家に帰ることは伝えてあったけれど。ちょっと泣きそうになった。恥ずかしかったけど、アル様に全部話してしまった。本当は誰かに聞いて欲しかったんだと思う。アル様の優しさに甘えてしまった。
「服屋に行こう」
「え?」
「着替えがなくては困るだろう」
アル様はそう言うと食事の代金を支払って店を出た。
「あの、アル様お金を」
払おうとしたけど、無言で断られてしまった。
「ごちそうさまでした」
あ、頬が緩んだ気がする。それから服飾店に連れて行ってもらっていくつか服を選んだ。あ、こっちはちゃんと自分で支払ったよ。アル様は少し不満そうだったけどね。
「あ、これ可愛い……」
綺麗な青い石の付いた髪飾りに目が止まった。でも、あまりこういうものは必要じゃないなって思って買うのはやめた。
夕暮れ時になってそろそろ入寮の時間が迫って来た。あの後、公園の東屋で一休みしてから寮までアル様と一緒に歩いた。公園ではアル様が冷たいお茶を買ってきてくれた。今日はずっと一緒にいられて凄く楽しかった。
「ソラ……これを」
「これは……え?あ、これ」
アル様が手渡してくれたのはあの髪飾りだった。
「ソラに似合うと思った」
「私に……?いただいていいんですか?」
「本当はもっと……」
「え?」
「いや」
アル様は私の手の上から髪飾りを取ると髪に付けてくれた。なんだか恋人同士みたいで嬉しい。今だけ、ちょっとだけそういう気分に浸ってしまおう。
「ありがとうございます。大切にします」
アル様は優しいから、私を慰めてくれただけなんだろうな。それでも私にとっては初めて家族以外の人からもらった贈り物だ。本当に大切な大切な宝物になった。
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