盗賊……盗賊?
魔王討伐の旅の途中。野原で休憩を取っていた勇者一行。
視界は広く、見張りの必要もないと羽を伸ばす四人。
温かい日差しにウトウトし始める、穏やかな午後。こんな日もあっていいのだ。
と、そんな中、勇者がため息をついた。
「はぁ……」
「おや、どうしたんですかい? 勇者さん」
「ん、そう言えば今日はちょっと元気ないわね」
「肉でも食ったらどうだ!? がっはっは!」
「……僧侶」
「うん?」
「戦士」
「おう?」
「……盗賊」
「へえ? なんでしょう?」
「盗賊……盗賊! 勇者のパーティメンバーなのに盗賊!? 犯罪者じゃないか!」
「え、え、ええ!? そんな、急に何を言い出すんですかい勇者さん!」
「そうよ! 仲間なのに犯罪者呼ばわりはひどいわ!」
「そうだぞ、勇者! そもそも今更なんだって話だ!」
「いや、積もり積もっての今なんだよ!
旅の途中、村だの町だのに立ち寄ることあるだろう。
村長に自己紹介する時に変な空気が流れるのは、いつもコイツが名乗る時なんだよ!」
「あっしは別にただ『盗賊です』って」
「それなんだよ! 『えっ』て顔されるだろどこ行っても!
んで、その後みんな自分の服のポケットを触るんだ。
あれ多分、財布を気にしてるんだよ!」
「そんなの考えすぎよ」
「そうだぞ、だとしても仲間なんだから俺たちは味方でいないと」
「そうですよ、それに警戒されてようが関係ありませんもん。素人が」
「おおい、今、良くない目をしたぞ……。
あと、おまえ、その目。たまに俺に向けるよな?
ダンジョンで宝を手にしたときとか、財布を出したときとか」
「気のせいよ。ねえ?」
「ああ、だとしても職業病みたいなものだろう。実害はないさ」
「流石にあっしも貴重な宝とかすぐにバレそうな物は横流ししませんよ、ははははは」
「おまえ……たまに薬草の数とか、なんなら財布の中のお金が減ってるのも」
「ちょっと勇者! それ以上はやめなさいよ!」
「そうだぞ! 仲間を疑うのか!」
「そうですよ、あっしは仲間の財布に手をつけるような間抜けじゃありません!」
「含みがある言い方を……。それにたまに魔物を倒した時に落とすお金が
少なかったりするんだけど、全部それ、お前がその近くにいる時に……ん?」
「どうしたの?」
「あれ? そもそもなんで魔物を倒すとお金が落ちるんだ? え、怖。変。
んん? 変と言えば町や村の人も同じような話しかしないし
それに、んんん? 戦いだって敵が攻撃を待ってたり
逆にこっちが敵の攻撃を待ったり……あれ、あれえ?
王様だって魔王を倒して来いっていうのに初期投資がしょぼい……。
今だって、俺たちどれくらい休憩している?
かなり時間が経ったはずなのに太陽の位置はそのまま。
それに、なぜか先へ進む気がしないのは一体……。
なんか、この世界って変……ん、あれ?
みんなどうしたんだ? なんで黙っているんだ?
お、おい、何か言ってくれよ……おい、おい!」
「……また駄目ですかね」
「そうね、替え時ね」
「ああ、そうだな。向こうには悪いがセーブデータを消そう」
「お、おい、なんだよ、おい……やめ」
――ねえ、ねえ
「ん……」
「ねえ、ねえ、大丈夫? 勇者、うなされてたわよ」
「え……僧侶……ああ、夢……か……」
「はははっ! 酷い顔だな勇者よ! どんな夢を見た!?」
「ああ、戦士……忘れちゃったよ……でも大事な気が、うう……」
「どうしたんですかい? 勇者さん」
「ああ、盗賊……盗賊?」