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勇者魔王短編作品

魔神復活を阻止せよと命じられた勇者、「こういうのってどうせ阻止できないし、いっそ復活を手伝いません?」と王様に提案する

 グラム王国王宮に、勇者ダースが呼び出される。


「陛下、勇者ダース参上いたしました」


 ひざまずく勇者に、玉座に座る国王ブロッケン3世は問いかける。


「勇者よ、『ザラーム教団』を知っておるか?」


「はい、太古の魔神ザラームを崇める教団ですね」


 ブロッケンはうなずくと、


「実はあの教団でおかしな動きが起きているのだ。なんと魔神ザラームを復活させ、この世の破壊を目論んでいるらしい」


「なんですって!?」


 グラム王国にも信仰の自由はあり、平和的、形式的に活動している分にはザラーム教団も存続を認められていた。しかし、魔神復活に向けて準備を進めているとなると、話は違ってくる。


「相手が宗教団体なので大規模に軍を出動させるのは難しい。また、大神官ゴルザムを始め、信徒たちも侮れぬ力を持っておる。そこで勇者であるおぬしの力を借りたいのだ。どうかザラーム教団に乗り込み、大神官を討ち、魔神復活を阻止してくれ!」


「……」


 ダースからの返事がない。


「ゆ、勇者?」


 ようやくダースが口を開く。


「こういうのってだいたい阻止できないんですよね」


 思わぬことを言い出した。


「何をいっておるのだ?」


「俺よく小説を読むんですけど、こういう魔王の復活やら魔神の復活やらって絶対阻止できないんですよね。いくら主人公が頑張っても結局復活しちゃうんですよ」


「は?」


「だから阻止しようとするだけ無駄かなぁって」


「何を言うか! 魔神ザラームが復活すればこの国……いや世界そのものが滅びかねんのだぞ! 絶対に阻止しなければ!」


「でもさっき言ったように小説なんかですと絶対阻止できませんし」


「小説と現実をごっちゃにするな!」


 もっともなブロッケンの言葉である。

 しかし、ダースはあまり気にせず続ける。


「それに現実問題、阻止は難しいと思いますよ」


「どうしてそう思う?」


「まず、陛下が教団のそんな情報を掴めたということは、教団が魔神復活に向けての具体的なプロセスを見出したに違いありません。今更どう動いても、魔神復活は食い止められない可能性が高いですよ」


「うぐ……」


 家がシロアリに食われていたとして、シロアリに気づいた頃にはもう手遅れになっていることも多い。自覚症状が出てからでは遅い。ダースが言いたいのはそういうことであった。


「それにここで教団と争って下手に労力を使うより、復活するであろう魔神に備えて戦力を温存していた方が賢いといえます」


「なんだかおぬしの意見に理があるような気がしてきた……」


「そこで提案です」


「む?」


「いっそ我々も魔神復活を手伝いませんか?」


「な、なんだとぉ!?」


 ブロッケンが叫ぶ。


「百歩譲って魔神復活阻止を諦めるのはいいとして、復活を手伝ってどうするのだ! テロ組織が武器を作っているのを手伝うようなものではないか!」


「しかし、このままいつ魔神が復活するのか待っていても不安が募るだけです。ならばいっそ俺たちが手伝うんです。そうすれば魔神がいつ復活するかも分かりますし、対策も立てやすくなると思うんですが」


「うむむ……」


 話を聞いているうちにそうかもしれない、と思えてきたブロッケン。


「おぬしの意見取り入れよう。どうすればいい?」


「ザラーム教団の本拠地は掴めてますか?」


「もちろんだ」


「では俺と陛下で、そこに行きましょう!」


「余も行くのか!?」


「当然でしょう。国の一大事なんですから。俺一人に任せようって方がおかしいですよ」


「それもそうか……」


 こうして勇者と国王のコンビはザラーム教団の本拠地に出発した。



***



 ザラーム教団は王国の片隅にひっそりと神殿を建てており、そこでリーダーである大神官ゴルザムを中心に魔神復活のための祈りを捧げていた。


「ザラ~ム、ザラ~ム」


 不気味な装飾を施された祭壇に向かって祈りを唱える大勢の信者らの姿に、満足そうにうなずくゴルザム。


「ククク、魔神の鼓動が早くなっているのを感じる……復活の日は近いぞ!」


 そこへ信者の一人が飛び込んできた。


「大神官様! 大変です!」


「何事だ」


「国王ブロッケンと勇者ダースがこの神殿にやってきました!」


「なんだと!? くっ、魔神復活の研究で大勢を動員したから情報が漏れていたか……。だが、安心しろ。今更魔神復活は阻止できん!」


「そ、それが……」


「?」


「二人とも、『自分たちも入信して魔神復活を手伝いたい』と言ってまして……」


「えええ!?」


 国を守るはずの勇者と王が魔神復活を手伝うとは。

 とりあえずダースとブロッケンを出迎えるゴルザム。


「あなた方お二人、魔神復活を手伝いたいと?」


「はい!」

「うむ!」


 元気よく返事する二人。


「どういうことです? あなた方の立場なら復活を阻止しようとするはずだが」


「そりゃもう、あなた方の教えに感銘を受けて……」とダース。


「そうそう!」笑顔のブロッケン。


 白々しい答えだったが、魔神復活にはまだ人手が必要で、一人でも祈りを捧げる信者を増やしたい事情もある。断る理由もなかった。


「いいでしょう、手伝って下さい」


「ありがとうございます!」


 二人はゴルザムに礼を言い、ザラーム教団に加わった。



***



 神殿内の祭壇まで案内され、先輩信者に祈り方を教えてもらう。


「まず地面に膝をついて頭までひれ伏して、その後両手を上げつつ上体を起こして、『ザラ~ム、ザラ~ム』と唱えるのです」


「なるほど。そこまで複雑じゃないな」うなずくダース。


 しかし、ブロッケンは不満そうである。


「陛下、どうしました?」


「国王である余がこんなことをせねばならんのか?」


「神殿まで来て、今更何を言ってるんですか。さ、やりますよ!」


「むう……仕方あるまい」


 こうして大勢の信者に混じって、二人も祈りを捧げるようになった。


「ザラ~ム、ザラ~ム」


 ダースの祈りをゴルザムが褒め称える。


「なかなかキレがいいですよ、勇者殿」


「こりゃどうも」


 一方、ブロッケンは――


「ザラーム、ザラーム……」


「ちょっと! ちゃんと唱えて下さい! 熱意が足りませんよ、熱意が!」


 ゴルザムに叱られてしまう。


「うぐぅ……余は国王なのに……」


「たとえ王様でもここでは一信者にすぎません。さ、魔神に祈りを捧げましょう」


 一生懸命祈りを捧げる二人。


「ザラ~ム、ザラ~ム」


「ザラ~ム、ザラ~ム」


 二人とも他の信者と遜色ない祈りを捧げられるようになってきた。

 それどころか――


「勇者よ」


「なんですか陛下?」


「なんか……ちょっと楽しくなってきたかも」


「あ、分かります! このリズムが癖になってきたっていうか……」


「それに皆で一つのことに取り組むこの一体感がヤミツキになるな!」


 いつしか二人は魔神復活の祈りにハマり出していた。

 一定のリズムでいかにキレのいい祈りをできるか、競い出すようにすらなっていた。


 ゴルザムもそんな二人を見て、


「あの二人の祈り、やたらキレがいいな……」


 と感心するのだった。


 ザラーム教団は祈りを捧げ続けた。


 しかし、ずっと寝ずに祈るわけにはいかない。時には休息も必要である。


「じゃあ休憩ー!」


 ゴルザムの合図で祈りが中断される。

 しかし、休憩しようとしない者たちもいた。

 ダースとブロッケンである。


 合図を無視してひたすら祈りを捧げている。


「ザラ~ム、ザラ~ム」

「ザラ~ム、ザラ~ム」


 眉をひそめるゴルザム。


「ちょっと二人とも」


「なんだ?」ダースとブロッケンが顔を上げる。


「休憩の時はちゃんと休んでくれないと困りますよ」


「あ!?」二人が同時にゴルザムを睨んだ。


「ひっ!?」


「本当に魔神復活を願うなら休憩なんざせず祈るべきだろうが!」怒鳴るダース。


「あう……」


「その通り! 余たちは休憩なんか取らんぞ!」ブロッケンも激怒している。


「すみませんでした……」


 ゴルザムも引き下がるしかなかった。


 そして、二人の熱意は他の信者たちにも伝染していくことになる。


「あの人たち休まずに祈ってるな……」

「すげえ……」

「俺たちも見習わなきゃ!」


 だんだんと休憩を取らない信者も多くなってきた。いつの間にかダースとブロッケンの祈りが手本とされるようになり、祈りにもキレが増していく。

 さらに、もっと大勢に祈らせようと布教活動も進む。

 勇者と国王が祈っているならと国民は続々とザラーム教団に入ってきた。

 いつしか信徒の数は神殿に入りきらないほどとなり、魔神が眠る祭壇の周囲には何十万の人々が集まるようになった。


 この様子を見て、ゴルザムは涙する。


「へへ……みんな無茶しやがって」



***



 勇者らが入信してから一ヶ月が過ぎた。


 最初に気づいたのはダースだった。


「……ん?」


 少し遅れてブロッケンも気づく。


「あれは……」


 祭壇が暗黒の瘴気を帯びている。


 ゴルザムも目を見開く。


「おおっ……! 魔神ザラームが復活する……!」


 魔神復活を待ち望んでいた信者たちにより祭壇周辺は大盛り上がりとなった。


「ザラーム! ザラーム! ザラーム! ザラーム!」


 ザラームコールが鳴りやまない。


 やがて、祭壇の真上に魔神ザラームが具現化する。


「フハハハハ……」


 その姿は魔神の名に相応しい禍々しいものであった。


「我は魔神ザラームなり……」


 復活を果たしたザラームはまず目を丸くする。


「え、こんなに大勢……?」


 自分を囲む無数の信者に驚いていた。

 しかも、みんなが笑顔で自分を迎えている。

 太古の昔、恐れられ、忌み嫌われ、封印されたはずの自分を――


「復活おめでとうございます!」

「ザラーム様、おめでとう!」

「いよっ、待ってました!」


 信者たちから贈られる温かい言葉の数々。

 自分を「世界を破壊する道具」として見ているのではない。心から歓迎されているのが分かった。

 ザラームは面食らったが、それ以上に嬉しかった。


「ありがとう……みんな……!」


 ふと、ザラームは自分の目から熱いものがこぼれたことに気づく。


「これは……涙?」


 自身の指についた涙をペロリと舐める。


「涙って……こんな味だったんだ……」


 そんなザラームに、信者たちを代表してゴルザム、ダース、ブロッケンが歩み寄る。


「大神官のゴルザムです。おめでとうございます、ザラーム様!」


「勇者ダースだ。あなたのおかげで祈る楽しさに目覚めた。ありがとう」


「グラム王国国王としておぬしの復活を祝わせてもらうぞ」


 皆の笑顔に囲まれ、ザラームの体が光り輝く。


「私の体が……!?」


 禍々しかったザラームの体が美しく神々しいものに変貌する。


「これが……ザラームの真の姿!?」驚くダース。


「そうだった、私は太古の昔“聖神ザラーム”だった。しかし、私を道具としか見なさない人間たちに嫌気が差し、私は人類に背を向けた。やがて、私は魔神に変貌してしまったのだ」


「そんなことがあったのですか……」


 ザラームの真実はゴルザムすら知らなかったようだ。


「安心してくれ、聖神ザラームよ。もうおぬしを道具呼ばわりなどさせん。我々人間はおぬしを崇めつつ、自分の足で生きていく!」


 ブロッケンの言葉にザラームはにっこりと微笑んだ。


「少し眠っている間に人間もだいぶ大きくなったようですね……分かりました、私は聖神としてあなた方を見守ることにしましょう。しかし、どうしても人類の力が及ばない災厄が訪れた時は手を貸しましょう」


 天に上っていくザラームに、人々はザラームコールを送り続けた。


「ザラーム! ザラーム! ザラーム! ザラーム! ザラーム!」


 ダースは空を見上げながらぽつりとつぶやいた。


「ザラーム……幸せにな」



***



 こうして世界は平和になった。


 聖神ザラームに頼らないという王の宣言。しかし、いつも聖神は見守ってくれている。

 この二つの事実が国民に活力を与え、グラム王国に大きな発展をもたらした。

 専門家の中には「これこそがザラームのもたらす恩恵」と評する者もいた。


 さて、魔神ザラーム騒動を解決した勇者ダースと国王ブロッケン、王宮で語り合う。


「このたびはお疲れ様でした、陛下」


「おぬしもな、勇者」


 ブロッケンはダースの功績を褒め称える。


「今回の件、おぬしの案を採用したおかげで我が国に平和がもたらされた。本当に感謝している」


「ありがとうございます。陛下への更なる忠誠を誓います」


 ダースは騒動を振り返るようにふと目を細めた。


「それにしても……」


「ん?」


「俺たちが二人とも、一ヶ月も神殿で祈りを捧げても問題ないような“ヒマ人”でよかったですね」


「それを言うな」






お読み下さりありがとうございました。

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ザラーム…………悪そうな名前なのに聖神だったのか。 まあ、悪魔や堕天使が別の宗教では神、っていうのはリアルでもよくある事だから、ちょっといじけて魔神になる神がいてもおかしくはないな。 それにしても、勇…
[一言] いいなぁ……神。 ネタの発想がすごいし、ラストに行きつくまでのプロセスも面白い。 何よりオチもきっちり決まっていて、完璧な作品と言っていいですねぇ。 勇者と王様が本気で祈りだしたり、涙の味…
[良い点] みんな幸せ♡ ざら〜む!ざら〜む! [一言] 勇者は特殊戦力だからこそ時間の自由もあった、とか 国王も実はほぼ引き継ぎ完了していて、最後のおおしごとで魔神の件をケリつけてから子供に王の座…
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