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日の昇る海へ
「待ってください。一緒に行きますから」
朝子を追って、車椅子の宵がミニバンで海岸に運ばれてきた。無理を言って乗ってきたのであろう、明が、ミニバンの中から「兄ちゃん何処に行くんだよ」と心配顔で見守っている。
「貴方は良き宮司となって島とお宮をお守りなさい」
そう弟に別れを告げた宵自身も、ケガレで真っ黒く見えるくらい、冒されていた。
「どうせ僕はもう長くは生きられません。一緒に行きましょう。流し雛は、男雛と女雛が共に災厄を流すためのものなんですよ。まあ、うちの母はそれを怖がって島外へ逃げてしまったんですけれどね」
霊体の朝子と車椅子の宵は手を繋ぎ、ゆっくりと海に向かった。
折しも、波の穏やかになった島に、物資や軽油が船便で運び込まれるところだった。
ミニバンの中で弟が何か叫んでいる。宵は振り返らずに、朝子と繋いだ手に力を込めた。
「吉兆ですね。ほら、朝日があんなに綺麗ですよ」
二人の姿は静かに朝焼けに溶けていった。
朝焼けに始まり朝焼けに終わる物語でした。
お目通しくださった皆様(もしいらしたら)有難うございます。