レシピ4 小さめのピンチを加えて煮こみます
「だいぶ険しいルートで行くんだな、お前んちの畑」
生い茂る背の高い草木を払い除けながら、イエーガーが文句を言う。少しだけ息があがっていた。
「まあね、うちの畑の薬草を見てレシピを分析しようとするやつが来たら困るから。
ねえ、ところであんたの家の畑って、どのへんにあるの?」
イエーガーがつまづいてよろけた。
「お前な。その会話の流れで俺が口を割ると思うか?」
「ええ、まあ……」
シャルトリューズが言い返そうとしたのを、イエーガーが手振りで黙らせた。
そして緊張感のある視線であたりの気配をうかがい始める。
ガサガサ!
藪の中から突然、獣が姿を現した。
シャルトリューズたちを威嚇するように低く唸り声を上げている。
「ふん、俺の出番だな。下がってなシャルトリューズ。すぐに退治してやるよ」
イエーガーが背負っていた棍棒に手をかけた。しかしシャルトリューズは、すぐにそれを制した。
「下がるのはあんたの方よイエーガー。あれは有蹄目シシーノ科に属するピッペリーよ。
刺激したら仲間を呼ぶわ。それに攻撃して人間を恨むようになったら、毎日ここを通るたびに攻撃してくるようになっちゃうでしょ。
有蹄目シシーノ科の中でもピッペリーは特に知能が高く、人間の顔を識別できると言われているのよ、知らないの?」
「知らねえよ。お前が詳しすぎだろ」
「つまり知能の高さを逆手に取って、私たちには近づかない方がいいって教えてあげればいいの。
有蹄目シシーノ科の中でも、ピッペリーは特に知能が高く、人間の顔を識別できると言われているから」
「お前、あいつの知能褒めすぎ。
だから俺があいつを徹底的に痛めつければいいんだろ? 二度と人間に盾突かないようにさ。任せろよ」
イエーガーを無視したシャルトリューズは、ため息をつきながらカバンから瓶を取り出した。そして、瓶の中に入っている液体を自分に振りかける。
一瞬にして周囲に悪臭が漂った。
あまりにも強烈な悪臭に、隣にいたイエーガーが鼻を押さえて後ずさった。
「さあどうかしらピッペリー? 私に近づけるかしら? 近づけないわよね? あなたは私にこれ以上近づけないはずよ」
シャルトリューズは両手を広げて、有蹄目シシーノ科の中でも特に知能が高いと言われるピッペリーに向かってジリジリと近づいていく。
ピッペリーはその迫力に気圧されるように、下がっていく。
知能の高いピッペリーは、気づいたのかもしれない。
この人間の女は危険だということに――。