レシピ3 鈍感スパイスを少々と……
「まさかあんたが天罰とか信じてるなんて思わなかったわ」
山を登りながら、シャルトリューズはイエーガーを横目でうかがった。
どちらかというと関わりたくないタイプの男だったが、一応は男の風上には置いておけるくらいなやつだったということが分かった。
シャルトリューズの中で、イエーガーの評価が少しだけ上がった。
シャルトリューズの視線を、心底めんどくさそうに受け止めたイエーガーは、しばらく言い淀んだあと、小さな声でつぶやいた。
「お前みたいな女でも、やっぱ兄貴みたいな男がいいんだな……」
シャルトリューズは眉をひそめた。
「なんのこと?」
「山に入る相手選びで真っ先に兄貴を候補に挙げたってことだろ? あーあ、女ってのは嫌だね。
どいつもこいつも結局は見た目ばっかりだ。兄貴が家で毎日鏡見ながら化粧品塗ったくってる気色悪い姿見せてやりてえよ。あれのどこがいいんだか理解できねえな」
「あらそう? 向上心があるって素敵なことだと思うわ。
ガリアーノは自分の長所である顔面を鍛えるために日夜努力してるってことでしょ? 努力しないで嘆いてばかりいる人よりも、私は好きよ」
「……ああそうかよ、でも残念だったな。
兄貴は今日のデートで、お前の親父さんが作った【絶倫薬草酒ゴールドDX・黒ヤモリ】を持って出かけたからな。いくらお前が兄貴に惚れてても、順番が回ってくるのはずいぶんと先だと思うぜ」
意地の悪い笑みを浮かべたイエーガーを、シャルトリューズは冷めた表情で見返した。
「あらそう。ねえ、ところで実はその商品、新製品が出たのよ。【絶倫無双薬草酒EX・黒蝮】っていうの。
ちなみに持続効果は従来品の約12.8%アップよ(当社比)。お兄様にぜひお試しくださいって伝えておいてくれる? できれば比較データが欲しいから両方試して感想教えてって伝言頼めるかしら?」
「…………宣伝すんじゃねえよ。お前、女だろ? 考えろよ、いろいろと。
……なんだよ、お前……兄貴に惚れてんじゃねえのかよ」
探るような視線でうかがうイエーガーに向かって、シャルトリューズは肩をすくめた。
「別に。ただガリアーノと今よりももっと仲良くなったら、あんたの家の薬草酒の調合レシピを見せてもらえたりするんじゃないのかなあって……」
「……レシピは門外不出だ。家族以外の人間に見せるわけないだろ」
睨むイエーガーなどどこ吹く風といった様子で、シャルトリューズは小さく嘆息した。そんなことは想定の範囲内だ。
「やっぱだめかぁ。
味見で8割は見当がついたんだけど、あと2割が微妙なのよね。もうちょっとで完コピ商品が作れそうなんだけど」
「もう絶対うちの商品をお前には売るなって言っとく」
イエーガーが呆れたように、大きなため息を吐きながらぼやいた。