這い寄れ!焼きそばパンくん・1
花さん、怒る!
でも、まだ本気出してない!
食べ物の怨みは恐ろしいのよ~
ヤマト高校の学生食堂は『安い・早い・うまい・お腹満足』という、食べ盛りな年頃には有り難いメニューばかりである。
もちろん、少食派のためのハーフサイズとシェア用の小鉢&小皿、大盛りや特盛りもある。
厳しい校則のないヤマト高校だが、学生食堂には『注文したメニューは必ず完食するべし』という、達筆な文字で書かれた張り紙がある。
この張り紙を入学直後に見た花さんは、「あの忍術学園と同じなのか…うっかり残すと危険だな、命が」と思ったのである。
(違う)
学生食堂では地元メーカーの菓子パンも販売しているが、惣菜パンの具材は通称:おやっさん(主任調理師)が作っているので、出来立てアツアツが食べられるのだ。
しかも、ソース等を独自に配合しているので市販のものより美味しいのだが、通常メニューの『ついで』で作っているため、販売数が10~30個とランダム。
特に焼きそばパンは毎日完売する人気メニューである。
◆◇◆◇◆◇◆
「うああっ!!!」
友人たちと教室で昼食中の花さんから悲鳴が上がった。
花さんの足元には食べかけの焼きそばパン、まだ半分しか食べていない焼きそばパン、さっきまで挟まれた焼きそばで膨らんでいた焼きそばパンが、思いっきり踏みつけられた無惨な姿の焼きそばパンに変わり果てて、力無く横たわっている焼きそばパン。
「うっわ!なんだコレ!?こんなの踏んだら靴 汚れるだろ!?落とすなよバカ」
「うるせぇーーっ!!!バカはテメェだろが、この兵六玉がぁーー!!!」
「!?!?!?」
「人がメシ食ってる横でバカ躍りしてるバカがオレをバカ呼ばわりしてんじゃねぇ!!!」
「!?!?!?」
「この焼きそばパン、どう始末つけてくれるってんだ?あ"ぁ"?今すぐ学食まで行って来んかいボケナスがぁ!!!」
「ひぃっ!?!?」
和やかな雰囲気から一変、椅子が倒れる勢いで立ち上りながら、男子に怒りのシャウトする花さん。
普段からお調子者な男子はもちろん、教室に居た生徒たち全員ドン引きなのに、花さんと昼食中の友人たちは何事も無いように平然としている。
…何事も無いように…平然と…
花さんの椅子が倒れないように素早く支えて、座りやすい位置に置き直したり…
もしもの反撃に備えて、飲みかけで蓋の開いたペットボトルのお茶を確保したり…
男子を助けようと近付いて来る、勘違い恋愛脳な女子を威圧して足止めしたり…
…そう、『友人』だからこそ、平然としている…
そして花さんの、江戸っ子とナニワのヤ○ザが混ざったシャウトに誰もツッコまないのも、『友人』だから…
◇◆◇◆◇◆◇
男子が走り去ると同時に、すん…っと静かに着席した花さん。
「久々の大魔神降臨だねぇ」
「降臨だと『中の人』が別人にチェンジでしょ?『封印が解けた』じゃない?」
「封印って…じゃあクロキっちゃんには、超古代文明の何か凄いロボとか動かす装置が埋め込まれてんの?」
「一言一句 間違えずに呪文を唱えたら出てくる扉から、何か凄い僕が出てくるのかもよ」
「…アンタら、よくもまぁ私のことを謎のオーパーツにして好き勝手言うわ…『ム○』の編集部かっ」
通常モード?に復活した花さんのツッコミに、ニマニマとした笑顔を返す友人たち。
面と向かって心配したり、お礼を言うのが照れ臭いのは、乙女だから(一応)
「さて…あのバカ、素直に戻って来るかな…?」
焼きそばパン:150円
コロッケパン:120円
キツネうどん(並):180円
カレーライス(並):250円
その他の張り紙
『残していいのは多かったつゆ汁と挨拶 注意:つゆ汁・ご飯・付け合せの野菜は減らせます』
「お残しは赦しまへんで!」と、どこまでも追いかけてきて説教する学校最強な食堂のおばちゃんはいませんでしたが、翌日から「残してた子、今日も残すの?」と調理師の皆さんから言われる罰ゲームが続きます。