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4/記録係

 僕は弓を消すと、改めて尋ねた。


「あの、神父様。僕は、その……これからどうなるんですか?」


 弓を返せない以上は僕がこの弓を持っているしかない。


 けれどこの弓は教会のものなのだ。


 そうなると教会は僕を監視下に置こうとするだろう。教会側からすれば、まさか僕みたいな一介の冒険者に神器を預けて放置なんてできないだろうし。


 下手をすれば神器ごと教会に閉じ込められてしまったりするのでは。


 なんて思っていたんだけど――


「いいえ。我々はカイ君の行動を制限するつもりはありませんよ」

「へ?」


 どういう意味だろう。


「神の導きは我々には理解のしがたいものです。ですから、何もしないというのが教会側のスタンスになります」

「でも、例えば僕がこの弓を持ち逃げしたり、壊しちゃったりしたら困りますよね」

「それならそれでいいのです。それが神の意思ということですから」

「ええ……」


 そんな曖昧な理由で大切な弓を僕なんかに預けていいのかなあ。


「弓の担い手に大量の監視をつけて大変なことになった記録がありますからね……」

「そ、そうなんですか」


 どこか遠い目で神父様がそんなことを言う。何があったんだ一体。


 まあ、監視がついたり行動が制限されたりしないなら、僕としてはありがたいけど。


「じゃあ、僕は今まで通りに冒険者として活動していていいんですか?」

「ええ、もちろんです。……基本的には」

「……基本的には?」


 何だか含みのある言い方だ。やっぱり何か行動に制限がつくんだろうか?


「先ほども申し上げた通り、カイ君には自由に動いてもらって構いません。ですが、我々は『ラルグリスの弓』の軌跡について記録しておく必要があるのです。後世のために」


 そう言って神父様は視線をエルフィさんに向けた。


「ですので――聖女エルフィ」

「は、はい」

「あなたに指令を与えます。

 あなたは今日より一時的に還俗し、カイ君に同行しなさい。そして弓のたどった道筋を詳細に記録し教会に報告するのです」


 エルフィさんはゆっくり尋ねた。


「……それはつまり、聖女ではなく、ただのエルフィとしてカイさんに同行しろと?」

「修道女の戒律は、冒険者の彼に同行するには枷になってしまいますからね」

「……宿も?」

「相部屋であればなおよろしい」


 僕とエルフィさんは慌てて立ち上がった。


「そ……そんなことできるわけないでしょう! エルフィさんは女の子ですよ!? それを僕みたいな冒険者と同じ宿に泊まらせるなんて、エルフィさんは嫌に決まってます!」

「そ、そうです! 私なんかと一緒ではカイさんにご迷惑がかかってしまいます!」


 それを聞いた神父様は、ふむ、と顎に手を当てて僕を見る。


「では、カイ君。きみはエルフィが同行することに反対ですか?」

「それは……」


 反対なんてするわけがない。

 エルフィさんは可愛いし優しいし、こんな人と一緒にいられるなんて嬉しいに決まってる。男性なら百人が百人そう言うだろう。


「……いえ、僕は反対なんて」


 次に神父様はエルフィさんのほうを向いた。


「では、エルフィ。あなたはカイ君に同行するのは嫌ですか?」

「いえっ、むしろすっごく嬉し――じゃなくて! 嫌だなんて思いません!」

「では、二人とも賛成ということでよろしいですね」

「「……」」


 あれ? いつの間にか話終わってない?


「エルフィは回復魔術が使えます。冒険者としての活動のお役に立つでしょう」


 神父様はそんなことを言うけど……


「エルフィさんはいいんですか? 僕なんかと一緒で」

「私は……カイさんさえ、よければ」

「――、」


 目を伏せながらそんなことを言ってくるエルフィさんは、正直に言って直視できないほど可愛かった。


 こんな人と一緒にいられるなんて幸せすぎないか僕。


 エルフィさんがいいなら僕としては大歓迎だ。


 可愛いのを除くとしても、神父様の言った通りエルフィさんは『神官』の職業なので回復魔術を使うことができる。冒険者としてパーティを組むなら願ってもない相手だ。


「さて、では話を戻しましょうか。弓の扱いについてですが、先ほども言ったようにカイ君に一任します。これまで通りに好きに過ごしていただいて構いません。エルフィはこれから出立の準備ですね」


 僕とエルフィさんはそれぞれ頷く。


「エルフィの準備にはそれなりに時間がかかるでしょう。カイ君、それまでここで待ちますか?」


 神父様が僕に向かって尋ねてくる。


 うーん、どうしよう。待っていてもいいけど……


「いえ、行くところがあるので。エルフィさんは準備が終ったらそこに来てもらってもいいですか?」

「はい。どこに行けばいいですか?」


 僕は言った。


「商業区の『ベネット武具店』に。この弓の鑑定をしておきたいので」

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