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18/氷竜

「おいっ、回り込め!」

「くたばりやがれぇええええええええ!」


 冒険者二人が飛竜に攻撃をしかける。


 どちらも前衛職のようで、武器はそれぞれ片手剣と大剣だ。


 レベルもかなり高いようで、二人がかりの連携は完璧に見えた。


 それを、飛竜はあっさりと打ち破る。


『グルォオオオオオオオオオオオオオオッ!』

「「ぎゃああああああああああ!?」」


 冒険者二人はあっさり吹き飛ばされた。

 それは飛竜の直接攻撃によってではなく――


「こ、氷の槍……!?」

「氷属性の魔術……どうりでさっきから冷気が漂ってくるわけだね」


 物陰に潜んで様子をうかがいつつ、エルフィと揃って僕は目を見開いた。


 飛竜は氷の槍を何十本も撃ちだして、冒険者たちを迎撃したのだ。


 というか魔術を使う竜って、相当強い個体なんじゃ……?

 普通、竜は爪や牙の攻撃や炎のブレスを吐くくらいのはずなのに。


「げほっ、いてぇ、体がいてぇえええええ」

「く、くそっ……何だよこの竜、何でこんなに強いんだよ!」


 冒険者の二人組は立ち上がることもできずに喚いている。


 まずい。このままじゃ彼らはやられてしまう。


「エルフィは隠れてて!」

「カイさん!」


 僕は物陰から飛び出し、『ラルグリスの弓』を構えて冒険者たちを庇うように立つ。


 顔も名前も知らない冒険者たちだけど、見殺しにするのは夢見が悪すぎる。


「な、何だお前!」

「助けてくれんのか!?」

「下がっていてください! さっきの氷の槍が来たら庇いきれません!」

「「わ、わかった!」」


 背後の冒険者たちに叫ぶと、彼らは慌てて距離を取る。

 【障壁】では広範囲は防御できないので彼らには離れていてもらうしかない。


 僕は飛竜と睨み合う。

 突然現れた僕に、その飛竜のとった行動は――



『グルゥウ……』



(……後ろに下がった?)


 低く唸りながら、後退することだった。


 その行動の意味がわからず警戒する。


 普通ならここは攻撃してくるはずだ。

 獲物の前に立つ僕を排除して、さっきまで戦っていた冒険者たちを仕留めようとするはず。


 なのに、前方の飛竜はなぜか動こうとしない。

 まるで戦うことを望んでいないかのように。


『――、』


 しばらく睨み合ったあと、飛竜は翼を広げた。

 そしてそのまま飛び去っていく。


「何だ? 逃げてったぞ」

「た、助かった……」


 冒険者たちが口々にそんなことを言う中。


「………………、」


 僕は思い切り眉根を寄せた。

 考え込んでいる僕に、エルフィがぱたぱたと駆け寄ってくる。


「カイさん、怪我はありませんか!?」

「……うん、大丈夫。それよりエルフィはあの人たちの治療をしてあげてくれる?」

「わかりました」

「僕はちょっと、あの竜を追いかけてくる」

「……え? ちょっ、カイさん!?」


 エルフィをその場に置いて僕は飛竜の去って行った方角に駆け出す。


 頭にあるのはさっきの飛竜の様子だ。


 あれだけの強さがありながら冒険者たちを殺さず、獲物を庇った僕を攻撃しなかった。


 ただの凶暴な魔物とは明らかに違う。

 普通の魔物なら手負いの獲物を逃したりしない。


 何より、飛び去っていく直前の瞳の『揺れ』。


(……まるで何かに怯えているみたいだった)


 勘のようなものだけど、どうにも気になる。


 しばらく追跡すると、飛竜はやがて地面に下りた。

 着地地点に向かうと、そこにはさっきの飛竜が佇んでいる。


『グルルッ……』


 後を追ってきた僕に、威嚇するように竜が唸る。

 けれどやっぱり敵意は感じられない。


「えっと……大丈夫。酷いことはしないから」

『グルゥッ』

「僕は敵じゃないよ。だからお落ち着いて」

『……』


 『ラルグリスの弓』も実体化させずに僕が語りかける。


 僕の言葉を理解したのかはわからないけど、飛竜はその場に大人しくうずくまった。


 飛竜は困惑しているようだった。


 だろうね。

 というか僕自身困惑してる。

 何で僕は魔物に歩み寄ろうとしてるんだろう……?


 けど、どうしてもこの飛竜がただの魔物には見えないのだ。


 むしろ迷子の子供のような雰囲気を感じる。


「きみは何かしたいことがあるの? 行きたい場所があるとか? ……って、言っても伝わらないよね」


 どうしようかなあ。


 気になって追いかけたはいいけど、どうするか具体的には何も考えてなかった。


 僕が悩んでいると、飛竜が短く吠え始めた。


『ガウッ、グルゥッ』

「え、な、何? 何か伝えようとしてる?」

『グルルゥ……』 


 何事か唸り、もどかしそうに頭をぶんぶん振る飛竜。


 その後しばらく、飛竜は懸命に何か伝えようとしていた。

 けれどまったく意思疎通できないことに業を煮やしたのか――妙なことを始めた。


「え? あの、きみ何で光ってるの……?」


 飛竜の全身が光に包まれる。


 何が起こっているのかわからず硬直していると、やがて飛竜はその姿を変え始めた。


「……え?」


 光が収まった時、そこにいたのは小柄な人間の少女だった。


 長い青髪と気の強そうな目が特徴的な、十歳くらいの女の子だ。

 服は何も身に着けておらず、真っ白な肌を申し訳程度に髪が隠している。


(竜が女の子になった……!?)


 何これ!? そんな話聞いたことないんだけど!?


「き、きみは一体……」


 驚愕する僕に、さっきまで飛竜だったはずの少女が言う。


「……助けて」

「た、助ける? 何を?」

「お願い、ララを助けて! まだあいつらに捕まってるの。あたしだけじゃ助けられない……!」


 さっきまで竜だったはずの少女は切迫した様子でそう告げるのだった。


「……」


 …………。

 …………、ララって、誰……?


 というかこの状況を誰か説明してほしい。

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