プロローグ/パーティ追放
「これからは『魔術師』のこいつがうちのパーティに入る。だからカイ、お前は今日でお別れだ」
パーティリーダーのアレスが言い放った台詞に、頭が真っ白になる。
「お別れって……僕にパーティを抜けろってこと?」
「それ以外に何があるんだよ」
場所はパーティで借りている宿の一室。
パーティメンバーも全員いる。
アレスの隣にはローブ姿の見慣れない男が立っていた。
おそらく彼が新しく加入する『魔術師』なんだろう。
アレスはその男の肩に手を置きながら、嘲るように言った。
「『魔術師』が仲間になるんだ。下位互換の『狩人』を置いてやる理由もねえだろ?」
冒険者は全員、ギルドに登録する際『職業』を得る。
その職業によって戦い方が変わってくる。
僕の職業は『狩人』。
つまり弓使いだ。
弓矢で遠くの敵を的確に射抜く――なんて言えば聞こえはいいけど、実際は一番のハズレ職。
矢が尽きたら何もできないし、攻撃力も低いので、同じ遠距離攻撃が得意な『魔術師』の劣化版と馬鹿にされている。
『魔術師』がパーティに入るなら『狩人』の僕がいらなくなるというのは……悔しいけど、その通りだ。
(けど……だからって、こんなにあっさり切り捨てられるなんて)
僕は不遇職だからこそ、そんな自分を仲間にしてくれたアレスたちに感謝していた。
だから役に立とうと頑張ったし、結果も出してきたつもりだ。
自分で言うのもなんだけど、僕がいなかったら失敗していた依頼はいくつもあったというのに。
「……アレス。僕たちは仲間じゃなかったの?」
僕が言うと、アレスは馬鹿にするように笑った。
「仲間? ははっ、まだ気付かないのか。お前は最初からただのつなぎだったんだよ。『魔術師』が見つかるまでの代替品だ」
「……え?」
一瞬、何を言われたかわからなかった。
「『魔術師』が見つかった今となっちゃ用済みってわけだ。なあ、みんな?」
アレスは同意を求めるように周囲を見回す。
アレス以外の仲間たちは……唖然とする僕を見て、失笑していた。
『今まで気付いてなかったのか?』
『ほんと察しが悪いですよね、この人』
『俺たちと対等なつもりだったのか。『狩人』の分際で』
心無い言葉に心を抉られる。
つなぎ。代替品。……僕は彼らにとってそんな存在だったのか。
「それに、最近のお前はロクに役に立たねーからなあ。魔物との戦いは俺たちの奥に引っ込んで見てるだけ。追い出されて当然だろ?」
「なっ」
アレスの言葉に僕は唖然とした。
「それはアレスたち前衛が好き勝手に攻めるからじゃないか! 射線も空けてくれないのに、どうやって援護しろっていうんだ!」
アレスたち前衛陣はそれぞれ勝手に動く。
前衛が勝手だと困るのは後衛だ。
彼らは僕が敵を狙っていても、平気で射線を横切ってくる。
そんな状態で積極的な援護射撃なんてできるわけがない。
「足手まといが一丁前に口を利くんじゃねえ! 俺たちに寄生してるだけのくせに!」
「違う! 少しは僕の話も聞いて――」
「優しくしてりゃあつけ上がりやがって。お前はもういらねえんだよ! わかったらさっさと失せろ!」
どん、とアレスに突き飛ばされる。
『力』のステータスに職業補正のあるアレスの攻撃に耐えきれるはずもなく、僕は無様に尻餅をついた。
そんな僕を見ても、他の仲間たちは興味なさそうな目を向けてくるだけだった。
頼りになる年長の『戦士』も、頭の切れる眼鏡の『神官』も、寡黙な『盗賊』も。
僕が仲間だと思っていた彼らは、誰一人、僕を庇おうとはしなかった。
(……ああ、これはもう駄目だ)
僕はどうやら本当に、彼らにとって仲間でも何でもなかったらしい。
僕はよろよろと立ち上がり、こう言った。
「……わかった。僕はバーティを抜ける」
「弓矢も置いてけ。それは俺らの稼ぎで買ったようなもんだからな」
「……ああ」
僕は言われるがまま唯一の武器である弓矢をその場に置き、部屋を出た。
こうして僕は所属していた冒険者パーティを追放されたのだった。
新連載です。
不遇職『弓使い』の逆転人生、楽しんでいただけると嬉しいです。