05 仲間になりたそうにこっちを見ている、かも
開かれた道。
可能性の提示。
――すべてを求めよ、己の欲望のままに。
――生きとし生けるものを従える万夫の力を。
――高らかに宣言せよ!
「の、ぞ、ぅう!?」
ぐるおおおおお!!!
「ひぃっ!――」
あまりの風圧に二人押し倒される。
攻撃したことでさらに刺激したのか、ドラゴンもどきの雄叫びはさらに激しくなった。
「つぅー――」世亜は腕を立てて何とか起き上がる。
しかし留美は倒れたままだった。
気を失っている訳ではなさそうだが、つないでいる手を痛いくらい握りしめている。
――チャンスだったのに、すべて消えた……。
握りしめた手は、先ほどまで感じていた強い力を完全に逃してしまっていた。
――私達はちっぽけだったんだ。
世亜はそんなことを思っていた。
「あのとき、世界征服できるって本気で思った。私達の力は通用するんだって。
でも現実は違ったみたい、世界って広いね留美ちゃん――」
見上げる先にはしっかりとこちらを見据える大きな目があった。
あれだけ走っても、その距離はこの怪物の一歩にも及ばない。
もう一度留美の方を向いた時、世亜はおかしなものを見た。
溢れる草の一部がぽっかりと空いてるような。
立ち上がって、しっかりとその部分を見ると明らかに何もない空間があった。
「留美ちゃん、あっちにいくよ!」
いまだに伏したままの留美を無理やり起き上がらせて、世亜達二人はもう一度走り出した。
留美はその間も俯いたまま。もうすべてを諦めた顔だった。
しかし世亜は違った。
何もないことしか確認できなかった。しかしずっと草しかなかった場所に、それすらないところがあれば、何かある可能性があると思えた。
そこは定期的に刈り取られているのか、背の低い草しかなく、その中央には穴が開いていた。
まるで何かの入り口のようだった。
「留美ちゃん、ここ入って大丈夫だと思う?」
「たぶん――毒性の反応は何もないよ――」
白色の球体が明滅して、留美はそう弱弱しく言った。
世亜は振り返ると、警戒しているのかドラゴンもどきは、こちらを睨みつけたまま唸り声を響かせていた。
「――入るよ」
*
光なんてあっという間に届かなくなった。
時折留美のエネルギー庫が明滅してわずかな光を生み出すけど、ほとんど暗がりなのは変わらない。
壁は固められてはいるが、土の壁でしかなく、大きな地震でも起きれば潰れてしまいそうだった。
下っていくほどに徐々に空気が冷えていく、濡れそぼったパジャマと髪が張り付き、どんどん体温を奪っていく。
「――落ち着けそうなところに出たら、乾かすね」
パジャマどころか髪すら乾かす余裕なんてなかったから、ようやく落ち着ける状況になってきた留美は、そう言った。
しばらく進むと四畳半くらいの狭い空間にでた。
地下4階か、5階分くらい下った先の空間。
二人はここで小休憩することにした。
不思議なことにここに逃げ込んでからというものドラゴンもどきからの攻撃というものが何もなかった。
足踏み一つでも大地震が起こっていたのに、その予兆すらなかった。
「世亜ちゃんこっちに来て、パジャマも脱いで」
そういうと、留美はパジャマと下着も脱いで、横に置いた。
「二人っきりの暗がり、遭難して体が冷えて、裸にってエッチだね留美ちゃん!」
「ここには突っ込んであげられる棒もないからあきらめて」
「留美ちゃんの指でもいいよ?」
「石鹸ないから嫌」
「ひどーい」
そんなことを言いながら世亜も脱いで、留美のパジャマの横に置いた。
「背中向けて、髪から乾かすから」
「はーい」
ブウォーっと温かい風が髪にあたる。
3つの光体が明滅しながら世亜の髪、留美の髪、パジャマと下着を乾かしていった。
*
それから30分くらい二人は座り続けていた。
元のパジャマに着替えた二人隣同士肩をくっつけて座っていた。
「ごめんね――」
「はへ?」
ぼーっとしすぎていた世亜は、留美の突然の謝罪に反応できなかった。
「私がもっと強ければこんなことにはならなかったから」
「それ、私がエネルギー庫を持ってればもっと何とかなったって嫌味?」
「ちがっ!」
「知ってるー」
慌てて否定する留美に、世亜はにっこりと笑顔で返した。
「ちゃんと知ってるから、勝手に追い込まれないで。今生きてるし、それで十分だよ」
「――うん」
――暗すぎて留美ちゃんの顔も見えないけど。
「大丈夫っていってるでしょー!」
的確に留美の頭をつかむとぐるぐると揺さぶった。
「!!?世亜ちゃんそれやめてぇー!!」
「ちゃんと反省しない留美ちゃんがわるーい!」
そういってせっかく乾かした留美の髪がぐしゃぐしゃにした。
二人がそうやって話をしていると、ズザっと奥から物音が聞こえた。
「――なにかいるね」
世亜はそう言って9つの光体を光らせた。
そこに現れたのは裸の女の子だった。
病的な青白い肌に傷んだ髪は少年のように短く、とても細い身体をしていた。
二人は慌てて女の子に近づいた。
「大丈夫?何があったの?」
「裸のままじゃいくら何でも。私のパジャマだけど着て」
留美がパジャマを脱ぐと世亜がそれを着せてあげた。
女の子はなすが儘に、ぼーっと光を見ていた。何を考えているのか、何も考えていないのか。
やがて光がゆっくり消えた。
「――ぁ」
今度は先ほどよりも弱く3つだけ光らせる。
その光を追って女の子はまたぼーっとそれを眺めている。
このあたりには電気というものがまだ浸透していないのかもしれない。それなら地下にある光が珍しいのもわかる。
「私は世亜、こっちは留美ちゃん、私たちさっきここに来たんだけど、君の名前おしえてくれないかな?」
女の子は世亜の顔を見た。
「……………………」
何を見ているのか、目が合っているはずなのに目を見ていないような視線に、言いようのない不安が宿る。
――この子はなんでこんな姿でこんなところにいるの? 私達とおなじく、あのドラゴンみたいなのから逃げてここにいるの?
女の子に聞きたいことはいくらでもある世亜だが、彼女の姿がそれを望んでいないような様子で、躊躇われた。
そんな世亜とは違い留美は女の子を見ていた。肌の色、髪の色、目の色や骨格など少しでも情報を得ようと観察する。
――全体的に私達と同じ黄色人種って感じね、ここが異世界というよりマクスウェルで化かされてる可能性も出てきたかな。
――だとしたらこの子が使用者? そうだとしたらなんでこんな姿なのか不思議だけど。
――それともこの子はただのトラップで何か別にあるのかもしれない。
二人が無言で考え込んでいると、女の子はそこに座り込み寝始めてしまった。
見ず知らずの人間の前でいきなり寝始めるなんて無防備だとは思うけど、今はそっとしておこうと、そう思う二人だった。
二人にとっても今はまだ何もできない。
これから何ができるかわからない、わからないけどただ一つ二人がわかっていることは、このまま隠れて生きていくなんて絶対にしたくないということだった。
それは二人に共通した意志。
「自由に生きていけない状況なら、自由に生きていける世界に変えるだけ」
「好きなことを好きなように、思ったことを思った通りに」
「私達が世界の中心だって言える世界にする」
暴力的なその考えは、二人に笑顔を取り戻させた。
◆人物紹介◆
◇草 (03より)
先の細い草、登場数最多!
草ハウス耐久度:400字詰め原稿用紙1枚分
「がんばれよ!!熱くなれよ!!!」