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世界征服しますね  作者: せんり
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04 お約束

 「私達お城完成!」


 高らかに宣言する世亜の前にあるのは、草で出来た厚さ30センチくらいなるドーム型の家だ。お城というより草山という感じだった。

 すると、草山が完成するのを待っていたかのように雨が降り出した。


 「入るよ世亜ちゃん」

 「うん!」


 二人が中に入ると雨音はさらに激しさを増し、外は一瞬のうちに雨で何も見えなくなった。

 雨音が草の天井にあたり激しい音を叩き鳴らす。


 その音に交じり別の音が聞こえた。

 小さく重く低い音。


 世亜は留美の、留美は世亜のお腹の音と一瞬勘違いしてしまうような、低い唸るような音。


 バザバザバザっと突如真横から吹き付けるように殴りつける音が響いた。それと同時に地面が浮き上がった。


 「はぁ!?」

 「なになになに!?」


 二人が声を上げると地面がえぐれ完全に空中へと放り出された。

 吹き荒れる雨はさらに強く、放り出されてしまいなんの防御もない今、体中に打ち付ける雨はただの水というよりウォーターカッターを思わせるほどの激しく全身に打ち付ける。


 だがそんなことどうでもよかった。


 「なーー」「えっとーー」

 「ドラゴン?」二人は同時にそう口にする。



 

 黒く巨大な影。長い首が伸びその先は嘴のような形をしており、頭には角が何本も生えている。体はずっくりと大きく、時折翼を動かしているのか、胴体が数倍に膨れるように見える。

 影しか見えないが、それはネス湖のネッシーとかそういう未確認生物を思わせる姿だった。


 そして何より、とてつもなく巨大だった。


 数百階建ての高層ビルより高いであろう首から頭部。世界最大級のドームスタジアムすら軽く収まる胴体。巨大という言葉すら烏滸がましい。


 その巨大な影がのっそりと首を二人の方へと向けた。

 敵意はあるのかそもそも存在を認識されているのかそれすらわからないが、もしもこの巨大生物に攻撃をされたなら、それはジャンボジェット機と蟻との戦争だ。

 動くだけで蹂躙されるだろう。

 

 ぐぐぐぐと何かをねじ無理にねじ切ろうとするような声が唸り響き、耳を劈く。

 

 「留美ちゃん私分かったよ」

 「なんでしょうか、世亜ちゃん」

 「お約束通りなら私達今すぐ逃げるべきだと思うの」

 「そうね、私も同意見よ」

 


 雨が止んだ。


 視界を遮る雨のカーテンはなくなり、太陽が雲の隙間から次々に顔を見せ周囲が明るくなってくる。

 

 今まで影にしか見えなかったそれの全貌が見えた。

 

 ファンタジー世界のドラゴンとは違う、正真正銘生きている生物。

 古代に恐竜という生き物がいた。最近の研究で恐竜、主にティラノサウルスなどの獣脚類に分類される生物は鳥類の子孫であると言う説が有力になり、体毛があり、それは色鮮やかであったとさえ言われ始めている。 

 目の前の推定ドラゴンは色鮮やかというわけではないが、紫がかった暗い赤色、蒲萄色の体毛があり、翼も蝙蝠のようなものではなく原鳥類のような手と翼が合わさったようなものである。

 


 その怪物が翼を大きく広げた。

 


 ぐるるるるうううううう!!!!!!!!!!

 

 咆哮だけで気を失いそうになる。


 「逃げるよ!世亜ちゃん!!」


 世亜の腕をつかみ留美は駆け出した。世亜も慌てて走り出す。

 きーーーんという耳鳴りがして、音も聞こえない。

 

 何もかもが桁違いだ。


 魔法みたいな力で巨大な生物に太刀打ちする?

 圧倒的なパワーで伝説の生き物を従わせる?

 威圧一つで世界屈指の怪物を蹂躙する?


 ――馬鹿じゃないの。

 ――寝言は寝てから言って。

 


 ウェイトの差とは絶対的な差であることは、世界の常識だ。

 人間が象に勝とうとするなら銃が必要だろう。

 人間がジャンボジェット機に勝とうとするなら戦車が必要だろう。

 人間が惑星に勝とうとするなら、隕石でも落とせばいいのだろうか?

 

 こんなもの勝ち負けなど成り立たない。


 ズドンという音と同時に地面が激しく隆起した。

 立つこともままならない中、二人は後ろを振り向く。


 怪物は一歩前に動いた。


 「――チッ」

 

 留美が舌打ちし、身体を反転し怪物の方へと向き直る。それと同時に留美の9つの光が活発に動き出した。


 「世亜ちゃんこのまま逃げるのは不可能だから、これ殺すよ」


 こんなところで死んでやるほど私達はおとなしくない。





 世亜の力を簡単に説明するならば核兵器だ。

 出力、規模、発動後の持続性何をとっても圧倒的な効果を及ぼすため、嗅覚に作用することに重点を置くならば何物にも後れを取ることはない。

 それは同じ嗅覚に作用するマクスウェルの管理者を使うものからも隔絶した差があった。

 もともと使用できるエネルギー庫は個人ごとに設計され、その人の性質によってゆっくりと変質していくものであり、重火器のように使うものを問わない破壊力を保持することはない。

 

 その結果世亜にもたらされた能力は、他者を寄せ付けないものとなった。

 その差は妹である留美にも言えた。



 留美と世亜の差ははっきりとしたものであった。

 出力、規模、発動の持続性はどれも劣る上に特別秀でた効果があるわけでもない。

 

 個人ごとに設計されるエネルギー庫は、その人の個性を大きく受け継いでしまうため、留美がいかに世亜のフォローに回ることを意識しているかの表れでもある。しかしだからと言って世亜の劣化版でしかないのかと問われれば。上位互換と答える人もいるだろう。


 

 当然のことだが、人間の頭は一つだ。

 

 マルチタスクにこなれた人は多くいるだろうが、その多くは次々に作業を効率的に進めているにすぎず、真実同時に作業しているわけではないし、多くの場合ルーチンワークで行えているだけに過ぎないことも多い。

 しかし留美にとってマルチタスクとは頭が9つあるようなものである。



 「――図体ばっかりでかい獣風情が、私に跪きなさい」

 腕を前に伸ばし、9つの球体が一斉に明滅しはじめ、暴風が巻きあがる。

 全神経を球体に注ぎ、最大出力をぶつける。

 

 ぐぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――――


 ドラゴンもどきには未知の攻撃だろう、紫の球体は三半規管を揺さぶり、バランス感覚を狂わせ。

 赤い球体は脳内の電気信号をわずかに止め感覚を消失せ、地に伏せさせ。

 青い球体は視神経に作用し、自身の体がぶつ切りになる様を幻視させ。

 黄色い球体は痛覚に作用し、至る処の痛みを生み出し。

 緑色の球体は筋繊維に作用し、あり得ない方向へと歪める。


 それだけではない、ありとあらゆる神経、反射作用、動くことすら不可能にさせる一瞬の破壊。

 

 普通の人間ならもう生きていることすらままならない絶望的な力だ。



 そんな力なのに――。 

 「――信じらんない、ほとんど効いてないじゃないの」


 「留美ちゃん早く逃げるよ! うごけるようになるまで少しくらい時間あるよ!」

 「うん」

 


 二人はもう一度走り出した。

 「――あれの弱点ってどこよ!?」

 「首を落とせば倒せると思うけど、首だけで小山くらいありそう」

 「そんな切り落とせたら誰も苦労しないわ」


 このまま走り続けても埒が明かないし、だからと言って打開策もない。

 ――せめて私じゃなくて世亜ちゃんのエネルギー庫があれば。

 


 こんなときに留美の心には劣等感から状況への絶望感に苛まれた。もともと世亜のフォロー役という自覚があり、それが奇しくも立場が逆転してしまったために追い詰められつつあったのだ。



 ――ここで死んだら私の所為だ。



 「――こんなわけのわからない状況でいきなり出てきた敵に殺されるとか、三流作品もいいところよ」


 そう宣う留美の目は徐々に希望が薄れていた。

 あらゆる手段を考えるが、すべての無意味だという結果が帰ってくるだけの、絶望的状況。

 

 手立てがなかった。




 ぐるるるるるるううう――!!


 強い風に突き飛ばされそうになりながら頭だけで後ろを確認すると、それは頭を大きく左右に振っていた。獣が頭部に不快感があった時にするそれと同じ動作で、人間を軽く吹き飛ばせてしまいそうな暴風雨を起こしていた。



 ――こんなの。どうにもならない。

 



 「留美ちゃん、私は生きたい!今は何もできないけど、絶対に生きてもっと留美ちゃんと色々なところを冒険したい!」

 だから、「無理でも諦めたくない!」


 世亜はなにも夢ばかり見ているわけではない、こんな場面でどうにかなるなんて考えられないのは同じである。

 

 

 「絶望を服従させる脅威――」

 

 ――「願うなら」

 ――「その力は種を淘汰する力」

 ――「存在そのものが自然と同義となりえる力」

 

 世亜が生きる道を見出そうとする意思を示し、それを見た留美は記憶の片隅の言葉がつながり合った。


 ――力が欲しい、この絶望的状況を覆すだけの力が欲しい。


 ――望め、恣意の限り、貪欲に、貪るように、最後の一滴まで搾り取れ

 ――与えよう概念を持つ生命が恐怖する力を

 ――望め!そして高らかに宣言したのなら、汝に無類の力を授けよう!


 それは天恵だった。

◆人物紹介◆


◇ドラゴンもどき (04より)


Q ドラゴンもどきは強敵orラスボスポジですか?

A ただの雑魚です。(ただしイベント戦)

「イベント消化するまで最強だあ!ヒャッハー!!」

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