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世界征服しますね  作者: せんり
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02 力

 そこは布ずれの音もうるさく聞こえる完全な無音な場所。


 周囲はどこまでも星がある。


 通路はガラスでできているかのような透明な床、手すりもガラスでできており星の光が転々と屈折し、光の線がガラスの中にあふれている。


 カツン――カツン――と、一呼吸置きながら繰り返される単調な歩調。


 白いマキシ丈のワンピース、フリルの多い袖、スカートも何重にも積み重なったフリル。ただどこまでも真っ白で、一つ一つ違うレースのフリルだがその色すがたは近くで見比べてもはっきりとわからない。

 右手に持った銀色の杖でバランスをとり、少女は意味もなくガラスの通路を進む。


 ――また星が触れあっている


 少女の心は声になって小さな音を周囲に届けた。


 少女の視線の先では二つの星が瞬きをするよりも短い時間、接触していた。


 

 *



 世亜が世界統一の話をしたのは先月のこと、もともとは彼氏候補に振られ家出を考えていた話だったが、世亜の中では留美と話している間に過去のことになっていた。

 もちろん世界統一など簡単にできるわけがない、武力行使は程々、政治交渉は全く、経済に関しては皆無、マクスウェルの管理者としてはそこそこという二人の能力で、世界統一とは漫画的な喧嘩して征服して俺が最強だと言うだけのものであり、つまり絶対に達成できるわけがない。


 当然誰もがそう思うし、二人もそう思っていた。

 

 「私いくら何でも高校生レベルの力で国家転覆につながるなんて思ってなかったんだよね」

 「そうね――とりあえずあっちとそっちの戦争は両国とも中枢機関の人間が全員昏睡状態で続行不可能になってるね。相変わらず世亜ちゃんのエネルギーの使い方はえぐいね」

 「留美ちゃん大変なことに気が付いたよ。――牛乳プリンおいしすぎる」

 パジャマ姿の二人はくつろいだ姿でソファーに寝転がっている。


 「美味しいね――おかしいのはそこだけじゃなくて、最近エネルギーの影響が異常に高い気がする」

 退屈そうにそんな会話をしている二人。


 世界統一はできない。しかし、その手前世界征服はできるかもしれない。それも二人が本気で世界征服をしようと思い、続けようと思うのならばという一方的な条件が付くし、そもそもとしてなぜ世界征服を実行してしまったのか、それは世亜があの後本当に戦地へ向かってしまったところから始まり、留美が手伝ってしまったという。なんとも衝動的なものでしかなかった。



 ともあれ二人はやらかしてしまったのだ。

 

 この星で最も危険な存在として世界中の人に認識されると同時に、別の何かに知らしめた。

 力とは絶対的な指標であり、一定以上の存在は一つの世界に留めておくには惜しいというもの。

 

 結果、事態はさらに急変する。



 ――「とあるお人が言いました」

 「何!?」――留美が声を上げる。

 ――唐突に5,6人の男女の声が重なって聞こえた。

 ――「世界は小さい、こんなちっぽけなものが本当に世界のすべてか? そんなはずはない、世界はもっと広く、この世界以外の世界、外の世界がありどこまで続く異世界が広がっているはずだ!」

 男女の声は独唱する。


 ――「そう無限の世界があり、そこを行き来できて初めて世界征服の第一歩ではないのか? こんな矮小な世界に目を向けるなどバカバカしい。俺は真実世界征服を成すべき人間だ!」

 ――「ならば、世界を超えるほどの力を!」

 ――「世界を渡る力を!」

 ――「絶望を服従させる脅威を!」

 ――叶えよ!世界の果てへ!

 ――すべての未来、過去、時間の概念の外、空間の果て、無限のかなた、夢現とその狭間。

 ――叶えよ!力の限り!

 ――概念、思念、真実、偽り果てしない暴走の末、星の終わりのごとき激しさをもって尽くせ己の欲望に。

 

 「この声、どこから聞こえてるの――」

 留美が立ち上がり、異質な声の主を探す。

 頭が右上、左上と激しく動き、位置を探り出そうと動く。


 「世界を渡る力――?」

 世亜は牛乳プリンを掬ったままのスプーンを口元に近づけた状態で固まり、声に聞き入っている。


 ――叶えよ!望め!

 ――汝ら、望むのならば世界を渡る力を授けよう!


 ビクリと二人は反応した。


 「望む!!」


 世亜が留美と並び立ち叫ぶ。

 留美が木目の天井に向けて叫ぶ。

 

 二人は焦がれていた。


 世界征服は二人にとってただのお遊戯だった。世亜が発端ではあるけれど、その実留美もその遊びを楽しんでいた。それだけ二人はこの世界をつまらないものと見ていた。

 マクスウェルの管理者としての実力とか、たった二人の家族だとか、同じことの繰り返しの毎日だとか、そんな他愛のない退屈。その果てに起きた、いささか激しい癇癪にすぎない。


 ならば目の前に格好の餌がぶら下げられたなら、飛びつかないわけがなのだ。

  


 二人はたしかに一歩踏み出した、それまでの持て余していたすべてのものを捨て。

 

 

 *



 ひゅーん――――ぺちゃり。

 スプーンから落ちた牛乳プリンが世亜のネコのスリッパに落ちた。

 

 世界がフェードアウトすると、眼前にある光景が変わる。色が混濁して伸びていくと中心のみがディープブルーに染まる。


 ――また星が触れあっている


 「素敵なセリフだね!」

 世亜は突然目の前に現れた少女の背中に向け、声を掛けた。


 弱弱しそうな外見に、星が触れあっているなんて言うセリフを呟く少女に非常に興味がわいたのだ。

 ただしスリッパに牛乳プリンがついてる。


 世亜が白いフリルに包まれた服を着ている少女に声をかけている間、留美は周囲を見回していた。


 ガラス張りの廊下、ガラスの手すり、手が届きそうで届かない小さい光が転々と浮かぶ暗い空間。

 手を握ったり、足で廊下を蹴ってみたり、エネルギー庫の一つから極々弱い電流を発して肌に電気を流してみるが、結果は変わらない。――これは現実だ。

 

 「綺麗なところだね、君の家?」

 スリッパのプリンをハンカチでふき取って、なにも答えない少女にさらに世亜が尋ねる。


 「世界の中継地点とか、特異点とか、そういう類の場所だねきっと」

 「知っているのか?!留美ちゃん!」

 「知るわけないでしょ――ただここに来る前の変な声が言ってたじゃん、世界を渡る力が欲しいかって、それならここはそのまま世界を渡るための場所だって考えるのが自然でしょ? それかすでに別の世界とかそんなところでしょ」

 そう考察する留美に関心するように世亜が腕組みをして、うんうんと頷いた。

 

 少女は困惑していた。


 目の前にいる二人の存在は知っていた。

 知っていたが、知っていることイコールでこの場所に居ることはつながらない。

 しかしこのままこの二人をここに居させるわけにはいかない、ここは小さな器では消し飛んでしまう危険な場所。


 どこでもいいからこのか弱い二人を今すぐ送れる世界に飛ばす必要があった。当然元の世界に送れるのであればそうするのがいいのだろうが、それをするには時間が足りないさそうであった。

 

 ――ここはその器で来る場所ではありません。危ないからあっちの世界へ行って。

 

 たしかに少女が発しているとわかるのに、頭の中にしか届かない声を聴きながら、フェードアウトする視界に二人はもう一度世界を渡った。

◆人物紹介◆


◇世亜 主人公その1


いつも大体何とかなると思っている。

根拠は留美がいるから。当然だよね?

「処女は留美ちゃんに奪われました!」


◇留美 主人公その2


世亜のフォロー役だと思っている。

冷静沈着(笑)

「貴重なリアル女子高生+処女だぞ。男ども跪け」

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