10 落ち着けるところに行きたい
ミッションを開始した三人は一斉に散らばって、とはいかなかった。
ここは地球に似た文化レベルを持っているが、公序良俗は末期状態である。そんな場所で自由行動なんてしようものなら、鴨がネギを背負っているのと何も変わらない。
そんな状態でゆっくり服なんて選べるわけがない。
三人は留美が認識を阻害させながら、悠々とお店を回りながら戦利品を回収していった。
主に世亜と留美が服を選び、美亜にはあれこれ着せていき二人の好みを押し付けていくという流れで、次々とかごの中に新しい服を投げ入れていく。
そうやって出来上がった旅客スタイルは元泥まみれ、血塗れパジャマスタイルからスーツ姿の二人と袖部分にレースがあしらってある白いチュニックと八分丈のパンツ姿の美亜である。
「こうなってくると、お風呂に入りたいね――」
つい出来心。
世亜も何もそこまで望んでいたわけではない。
あくまで可能なら、という前提ではあった。
「――どこかのホテルとかに忍び込めれば」
「!!留美ちゃん、あなたはなんてことを」
「先に言い始めたのは世亜ちゃんでしょーが」
結果から言えば簡単に実行できてしまった。
ホテル自体もわかりやすく存在し、さらにフロントでもお金を払った男性の団体客としか認識されず。いとも簡単に侵入で来たのだった。
「この世界が科学技術の未熟な世界で助かったね」
三人が宿泊することになった部屋はダブルベッドが4つもあるペントハウスで、きっと元の世界で実行しようとしても、世界征服をした後以外には泊まることなんてできなかったであろうレベルの部屋である。
そんな部屋の中で世亜と留美は手に入れた服を広げ、早速美亜に着せ始めていた。
まずは寒いところに出たとき用にVネックのドルマンセーター、フェイクスライバーコートにスキニーパンツ。
温かいところようにフレアシルエットのチュニックやケープデザインのチュニックなどなど、総数30点の服の山!
それぞれが着まわせばある程度色々着れるというもの。
さらに靴も下着も手に入れていた。
美亜用にスポーツブラを用意して着せてあげると、違和感があるのか頻りに気にしているようでおかしかった。
裏ボアのビッグフードのコートも美亜に着せると、肌ざわりが珍しいのか、なでては不思議がり何度も繰り返している。
そうやって美亜人形で着せ替えを楽しんでいるとじーっと留美が世亜と美亜を見比べながら、口を開いた。
「美亜は将来世亜ちゃん並ね」
美亜がコートを脱いでしまったので、新しいセーターを着せようとする世亜の手が硬直した。
「留美ちゃん――」
「あ、胸の話ね?」
「わざわざ言わなくてもわかるよ!?」
姉妹でここまで違うかと言いたくなる世亜と留美の胸のサイズ。
下着を探しているとき世亜だけサイズが合うのがなく、苦肉の策でワンサイズ小さいものを付けているのだ。
「美亜のためにも食べ物はいいのを用意しないとね」
―――留美ちゃん、食べ物で変わるなら留美ちゃんと私の胸は同じ大きさになってるはずだよ。
そう思う世亜だが決して言うことはない。なぜならそれは完全な諦めのセリフだと理解しているかだ。
まだ何とかなる。そう思いたい世亜であった。
そうやっていくつもの服を用意したが、それでもまだまだキャリーバッグの中は空きがある。
なんと用意したキャリーバッグは11泊用という世亜の腰よりも高さのある超大型。それに加え大きめのショルダーバッグとポーチも持っておりその収納力は並々ならないものである。
このバッグ達にこれから旅先で得たものを入れるつもりで、これほど大きなものを用意しているのだ。
二人はこれからを全力で楽しみにしていた。若干美亜が困り顔ではあるが、それでも二人に引きずられて、だんだんと気持ちが高ぶっているようだった。
そうやって満喫していた三人の部屋にコンコンというノックオンが響いた。
世亜達は頻繁に旅行に出ていたわけではないが、客が部屋にいるときに突然訪問があるホテルというのは経験がなかった。
「二人は奥にいて、私が様子を見てくる」
そういって留美が警戒しながらドアへと近づく。
そうするとあろうことか、鍵がカチャリと音を立てて開き、ドアノブがゆっくりと回り始めた。
ドアノブが回りきると、ドアがゆっくりと開き始め、徐々に外の光と様子が隙間からうかがえ始める。
驚いた世亜は後ろに飛び跳ねて、距離を取りエネルギー庫をからいつでも射出できるよう臨戦態勢を整える。
そしてゆっくり開くドアは重さを調整されているのか、一定範囲からすーっと滑るようにして開き切った。
しかしそこには誰もおらず、廊下の反対側が見えるだけであった。
「だれもいない?」
――エコーにもサーモグラフィーにも反応ない。
「誰もいないね――?」
世亜が近づいてきて二人で確認するがやはり誰もいない。
偶然自動的に鍵が開くなんてことはありえないので、考えられるのは、開けた後逃げて行ったということだ。
「いったい何がしたかったんだろ」
「でもまだ廊下のところに居るよ?」
――あ!
美亜の言葉に、世亜と留美は急いで部屋を飛び出すとエレベーターのある場所まで急ぐ。
角を左に曲がればまさに目の前という場所。世亜は急停車して、留美は右に飛び退いた。
警棒だろうか、黒く長い棒を振り回す怪しい男がそこにいた。
すぐに男はまっすぐ留美に突進して警棒を振り回しながらぶつかってきた。
ただその体は予想以上に軽く、留美も飛ばされることもなく、よろめく程度で済んだ。
「いきなり攻撃してくるなんて、いい趣味してるね」
――でもね、二対一って勝負にならないよ。
音を殺してスッと後ろから近づいた世亜は、男の膝裏を蹴ると男は体勢を崩し、すぐに両手を捕まえる。さらに留美が両足を抑えた。
「旦那様! 大丈夫ですか!?」
一歩遅れて美亜が到着すると、そこには拘束された後ゆっくり眠らされた男の姿があった。
「ところで美亜ちゃん――私の心配はしてくれないの?」
「世亜さんは大丈夫です!」
「扱いの差ぁぁあ」
*
「――あれ?女の子だった」
部屋で服を剥きとると、それは20代くらいの女性であった。
ともあれ、女性だろうと襲ってきた事実はかわらないのでベッドのシーツを引き裂いてひも状にし、それで両手両足ついでに口を縛っておいた。
「――世亜ちゃん、美亜がいなかったらもっと危ない結び方したかったでしょう?」
「うぅ――口だけで我慢したんだから許して」
必要のない猿轡なんてしたばかりに、留美にまるわかりになってしまったようだった。
「とりあえず起こすから、警戒だけは怠らないでね」
「はい!」
「はーい」
やる気満々な美亜の声と、お気楽な世亜の声を聴いて対照的な二人に苦笑しながら、留美は女性の体に微弱の電流を流した。
「ふひゃう!?」
猿轡で呻くような声になって、女性を涙目で目を覚ました。
すぐに留美の存在を確認すると、あからさまに睨みつけてきた。
明らかに敵意を示しているようだった。
「――私何かしたぁ?」
なんだか最近ほぼ初対面の人から嫌われることが多すぎる気がする。
――無自覚に睨みつけてたりしてたかな?
内心落ち込みながら、女性と話しをすることにする留美であった。
◆人物紹介◆
◇転がっている少女A (09より)
まず牛乳に片栗粉を少量混ぜ全身に塗ります。
路上に寝転がり、収録中は静かにしています。
「1時間1500円。汚れますがいい仕事です」