01 世亜と留美の夜話
電気を消して掛布団をかぶり、うごめくこと数時間。
もしも彼氏を家に招いたとき用に、最大限女の子らしさを追求した部屋。
嫌味にならないようにぬいぐるみは2つだけ、大きな窓の近くには小さくかわいいスズラン。
その隣には小さな本棚、その棚には教科書と少しの参考書、それからこっちにも葉っぱだけの観葉植物。
ベッドは青色ベースにベージュの水玉模様、下には収納式のタンスで服なんかが入っている。
本棚の逆側の壁沿いにはクローゼットとタンス。中にはいくつもの服と下着とハンカチとか。
クローゼットの横には大小バッグがおいてある。
そしてその横にしろとピンクのエネルギー庫。
まん丸い形状に、縦に放射線状のピンクの帯があり、球面をそって下に水のように滴り落ちている。
「―――――よし、決めた」
そう、決めた。世亜は決めた。
「でもなー」
やっぱり決めていなかった。
世亜。この部屋の主で、恋愛至上主義、見た目は美人の一歩か、二歩手前。
腰まである黒色の髪が先の方まで艶やかで、丹念に手間暇かけた結晶。
肌も絶賛高校生の彼女が並並みならぬ努力と研究と実践に基づき完璧なまでの出来栄え。
爪の先から、髪の先まで誰がどう見ても美を追求した彼女は、美人とは言えないけど、綺麗でかわいいという、いかにも声をかければ簡単に捕まえられそうな容姿をしていた。
ただし、性格は残念かもしれない。
なぜかって?
高校生には似つかわしくないデフォルメされたウサギ柄パジャマに身を包み、世亜はただいま家出をするかしないか、悩んでいるのだ。
ただ振られただけで。
「んんんん!もおおおー」
ばっさりと掛布団を蹴り飛ばし、またうごめく。
「なぜ、どうして私がまた振られなければいけないの!?」
「っるさい!!!!!!」
「ぐほぉお!」
掛布団の中でくぐもった音も、叫べばうるさい。
世亜は己の腹を殴りつけた輩を、掛布団から顔を出し恨めし気に睨みつけた。
「うるさい、寝ろ、今1時」
「留美ちゃんそんなだと男の子に告られないよ?」
恨めし気な視線のまま、真摯に教えてあげる。世亜はお姉ちゃんだから。
「ご、ぐほぉ!?――あ、足は・・だめ――――」
お腹を抱え苦しむ、まじで死ぬ。
「私はいらない。男とか私に傅けばいい」
我が妹ながらあり得ない思考をするなと、世亜は思う。そしてお腹ピンチ。
なので、ちょっとエネルギーをいじってローズマリーとユーカリと――。
「すーはぁー…すーはぁー…すーはぁー…ふぅー、留美ちゃん、お姉ちゃん思うのよ。留美ちゃんは処女だからそんなこー――」
――とばっかり、ありぁ?留美ちゃんや、お姉ちゃんの声盗った?
「世亜ちゃん?うるさいことばかり言ってると、尻の穴に世亜ちゃんのヘアアイロンぶち込むよ?」
世亜はいそいそとベッドの上に正座しひれ伏すと、降伏と謝罪を全面に発した。
留美ちゃんは起こると本気で怖いのだ。
私の処女は留美ちゃんに奪われたくらいに、私も奪う予定。―――たぶんお尻の処女を奪われるかもしれないけど。
「それで、世亜ちゃんはなんで騒いでたの?」
部屋の中央に置いてある机、ベッドの反対側で窓の前側に座ると留美がボブショートの髪をいじりながらそんなことを言ってきた。
黒いボブカット、世亜と比べるとほんの少し濃い肌色、周囲を回る9色の発光体、そして大きな胸。そしてパジャマ代わりのクリーム色のシルク生地にサーモンピンクのリボンと刺繍のキャミに、黒い6分丈のハーフパンツ。
――ぶっちゃけ胸の谷間がすごい。キャミのカップがなかったら乳首がおいしそうに突き出してたのかな?
「留美ちゃん、犯していい?」
「わかった5万で腕突っ込んであげる、さっさと股開いて、ゴム手袋準備するから」
「留美ちゃん酷い!?」
はぁーっと留美が深いため息をして、世亜を一瞥する。
留美の周りの発光体の一つ、紫色の発光体が少し明滅すると、もう一度留美はため息をついた。
「それで、世亜ちゃん、なんで、騒いでたの?」
――一言一言区切るように重々しくつぶやく世亜ちゃん。多分もう限界いっぱいまで怒っております。
「えっとですね、さっき徹先輩に振られたの――あ、徹先輩っていうのは学校の先輩でかっこよくて優しくてかっこよくて――なんだけど、さっき初エッチの話したら急にもう話ししたくないって、どうしてかな?」
「――私もう寝るね」
明滅していた紫色の発光体がゆっくりと他の光と一緒に回り始めると、留美はさっさとベッド横を通り抜けてドアを開けた。
「あ、そうだった、それでね留美ちゃん。私今夜家でるね」
時間が止まった。
「はぁ?」
ドアを開けた手のまま顔だけベッドに腰かけた世亜の方へ向けた留美が、心底わけがわからないという顔で世亜を見つめる。
「私思ったのよ。私に足りないのは実地訓練だけじゃないかって、だからちょっと戦地へ行こうかなって、あわよくばカッコいい傭兵とかいれば一石二鳥?」
握りこぶしを見せて留美に笑顔を振りまきながら、そんなことを宣う。
宣うのはいいけど、ウサギのパジャマを着た高校生がそんなことを宣言しても、滑稽だ。
滑稽なのだが、世亜も留美同様エネルギーを使った戦闘訓練の成績は、高校生レベルなら世界上位である。つまり世亜のこの宣言の前半部分については理にかなっていたりする。
エネルギーを使った戦闘訓練とは即ち、マクスウェルの管理者を行使する者の戦闘訓練を意味する。
エネルギーの操作、分子、粒子といった目には見えないエネルギーを操ることで可能にした新しい科学。
分子の運動エネルギーを変化させずその運動を仕分けできるだけでエネルギーの調整をしたり、反応を起こさずに分子の結合、分解を行うことができる技術。
あらゆる物理学が根底からから覆ったそれは、1980年に提唱された最先端科学の基本的原理となっている。
例えば痛みを和らげられるように予めセットされていた分子を結合しローズマリーの香りで部屋を満たしたり、局所空間の空気振動を伝播しないようにすることで音の伝達を阻害したり、本来起こりえない事象を具現化するもの、それがマクスウェルの管理者の力である。
それを可能にしているのが、クローゼットの横、バッグの隣に鎮座している、白とピンクのエネルギー庫と呼ばれる球体であり、飛び交う9種の光体である。
それはマクスウェルの管理者がいなかった1980年以前の時代のものから見たら、魔法なのかもしれない。
――すべて科学なのに。
「そういうわけで、私と留美ちゃんなら世界統一も夢じゃないぞ!」
ふんふん!とシャドーボクシングをかます世亜を見つめて、留美は思う。
――うちのバカ姉は宇宙語を話してるのだろう。きっと『明日も学校だね、早く寝よう』といているんだと思う。
「お休み世亜ちゃん、私の学校は再来週から期末だから世亜ちゃんもそろそろ時期でしょ?がんばろうね」
バタリ。
さっさと部屋に戻ろう。そう思う留美なのだが――。
ドアを閉めた。
――いやいや、何今のとんでもない異臭は。
「ふふふ、留美ちゃんや、今廊下に出ると体中ストロベリーとバニラとラベンダーとチョコレートとあと色々な香りで包まれたおいしいそうな子になっちゃうよ」
世亜がちっちっちと指を振ってニヒルな笑みを浮かべる。――出来てないけど。
世亜が得意なのは香。
エネルギー内の香成分を膨張させて、廊下中にばら撒いたのだろう。単体ではそれなりにいい香りのものも、無駄に多く、様々な香りを埋め込むとそれはいともたやすくバイオテロになる。
――まったく我が姉ながら酷い趣味だ。
「とりあえず、世界統一をしてから細かいことは考えよ!」
「絶対、や・だ!」
留美はベッドの隅に追いやられていたくまのぬいぐるみを投げつけて、酷いにおいの廊下を突っ切った。
ページを開いていただきありがとうございます。
初投稿になるのでお見苦し部分もあるかもしれませんがよろしくお願いします。
R-15、R-18の基準が全く分からなかったので今回含め今後も描写としてまずい部分があるかもしれません、その際は大幅に改変が必要になるので、ご了承ください。
なお今回は世亜目線が多めですが、留美目線で語られることも多々あります。(個人的には留美の方が楽)
二人とも主人公としての扱いなので、主人公がコロコロ変わるのが苦手な場合にはお気を付けください。
今後はあとがき部分で人物紹介を記載していきます。
よろしければ次回も見てください。
最後まで読んでいただきありがとうございます。