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魔剣の魔法使い  作者: サイトウアキバ
7/11

1-6 自由で良いの

「じゃ、やってみなさい」


ミュウ先生が傍らに立ち気怠そうに指示を出す。


「はい!」


庭師の人が手入れを終えたばかりの庭を軽く見まわし、目標の風車の直線上に立つ。距離にして僕の歩幅で25歩くらいか。

綺麗に整えられた木々、視界の隅にはクロを模して刈られたものもある。

いや、そんなことを気にしてる場合じゃない。


「いきます」


昨夜の自室での反復練習中、実際の風車までの距離を考慮して、魔力の紐を自分の周りをぐるっと数周させてから蝋燭の火へと狙いを定めるように練習内容を変化させていた。

距離が伸びれば伸びるほど消耗も増えるし、調整も難しくなっていくが、今の自分ならできるはずだ。


「……まだ?」


ミュウ先生が痺れを切らしたように急かしてくるが、集中を乱すわけにはいかないので返事はしない。

一見何もしてないように見えても必死なのだ。

細かい距離はわからないが届いてるはずだ。指先から遥か先に伸びた魔力を解き放つ。


「はぁっ!」


しかし風車は回らなかった。

代わりにボキッという音と共に軸から折れて、そのまま本体は奥の茂みへと吹っ飛んでいった。

残りの余波で周囲の木や茂みもバサバサと音を立てて葉や枝が吹き飛ばされていく。


「あっ」


こういう場合はどうなるのだろうか。

恐る恐るミュウ先生を見ると顎に手を当てて何かを考えているようだった。


「あの…先生?」


「魔力操作が遅い。調整も雑」


「うう…」


耳が痛い。

魔力を伸ばす速度が遅いのは自分でもわかっている。何せ歩くよりも遅い速度でしか伸ばせない。

だがそれ以上速くしようとすると途中で制御できなくなり魔力が千切れるような感覚がして霧散してしまうのだ。


「ま、ギリギリ及第点ね。やっと次の訓練に進めるわ」


「え?…今の1回で良いんですか?」


「別に、あと100回やりたければ止めないけど?」


首をブルブルと振って全力で拒否する。というか回数が増えすぎてるし。


「まあ、100回でも200回でも自主的に訓練すべきよ。操作も調整も慣れるしかないから」


そう言ってミュウ先生は帽子を脱いで手に乗せた。


「慣れれば特別意識しなくても…」


そう言うと帽子がふわりと浮かんでそのまま僕の頭にストンと乗った。


「こういうこともできるようになる訳よ。あ、ちなみにこれは今の訓練のもう1つの答えね」


「うわっ、え?もう1つってどういう意味ですか?」


明らかにサイズの大きい帽子を慌てて脱ぎながらミュウ先生に訪ねる。


「あんた、さっきのは魔力をこう…紐や糸みたいに伸ばす感じでやってたわよね?」


「はい、そうです。自分で思いついたわけじゃないですけど…」


「私はアリシアみたいに直接教えてあげたりしないから。ヒントだけね。魔法はもっと自由で良いの」


「自由で…良い…ですか?」


「そ、んー…じゃあちょっと次の訓練に進む前に今の応用編といきましょうか」


そう言ってミュウ先生はローブの中から風車を取り出し、それを地面に刺すとその前に座り込んだ。


「あんたも座りなさい」


「え?はい…」


風車はミュウ先生に隠れて見えない。


「私の後ろにある風車、そのまま回せる?」


「このままですか?うーん…」


魔力をミュウ先生を迂回するように伸ばすが、風車が見えない。

このまま適当に撃てば回すことはできるだろうが…。


「さっきみたいに壊したら昼食は抜きね」


「げ…わかりました」


適当に伸ばして撃ったら運良く回りました。ということではないのだろう。

そもそもさっきのやり方では方向がずれるのを考慮すると巻き込むために威力を上げないといけない。だがそれでは風車は間違いなくバラバラに吹き飛んでしまうだろう。


(魔法はもっと自由で良いの)


さっきの言葉、それと意思を持ったかのように浮かんで真っすぐに飛んできた帽子。

ヒントはきちんと教えてくれてるはずだ。

試しに魔力を指先から伸ばしてうねうねと動かしてみる。


(自由…自由か)


そのまま指にくるくると魔力を螺旋状に巻き付けてふと思いつく。


「もしかして!」


「正解だと良いけどね」


ミュウ先生が鼻で笑っているのを無視して魔力をぐるぐると自分の腕よりも太く螺旋状に巻いていく。

が、とてつもない集中力が必要だし時間もかかり過ぎる。形はともかく、やり方がこうじゃない気がする。


(自由に…自由に…)


魔力の紐を太く、細く…違う…形に捕らわれちゃダメだ。

もっと、こう、魔力をパン生地みたいに伸ばして、筒を作るような…。


「あれ…?」


魔力は見えるわけじゃないので本当にそうなってるかはわからない。

だが今指先から伸びている魔力は頭で思い描いた筒状、に感じる。


(このまま伸ばして…)


筒状の魔力がスルスルと伸びてミュウ先生に向かう。

そのままではぶつかってしまうので弧を描くように体を避けて肩の上を通って背中に添うように伸ばして最後にクイッと先端を曲げて大体の狙いを定める。


「やってみなさい」


その声に応えるように魔力で作った筒の入り口で指先から風を押し出す。

風は筒の中を進みミュウ先生の肩の上から背中に進んでまがった先端から勢いよく吐き出され…風車を粉砕した。


「ええええええ!?」


「あー…やってしまったわね」


これじゃ結果が最初の適当に撃つ案と変わらない…。


「でもまあ、良いわね。応用編合格よ。特別に昼食も食べて良いわ」


ミュウ先生が立ち上がった後ろには無残に散らばった風車の破片…だけじゃなかった。

自分がイメージした筒と同じくらいの太さで、芝生をかき分けて風が通り過ぎた跡がはっきりと残っていた。


「今回のやり方も100回練習することね。あーお腹空いた。休憩にしましょ」


ミュウ先生が屋敷に戻っていってからも僕はしばらく芝生についた風の跡から目が離せなかった。


(魔法はもっと自由で良いの)


その言葉が頭の中に何度も響く。


(自由で…良いんだ)


まだはっきりと全部形にできる訳ではないけど、全く想像もしなかった新しい景色が広がっていくような、そんな感覚がした。

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