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魔剣の魔法使い  作者: サイトウアキバ
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1-4 自習の時間1

ギイィと音を立てて扉が開く。

ふと燭台に火をつける道具を忘れたことに気づいたが、まだ昼間なこともあり特に困るほどでもないかと思い直した。

窓の遮光幕を順に開けていくと部屋の中に徐々に陽の光が差し込んでいく。

最期の遮光幕を開けてから改めて部屋の中を見回してみた。


「そりゃあ、何も変わってない…か」


僕が使わなくなっただけで父様はよく本を買い集めていたし、父様がいなくなってからは母様が度々掃除に訪れているのも知っていた。

それでも、見ないうちに中が自分の知らない空間になってるんじゃないかと少し胸を昂らせていたので肩透かしをくらった気分になった。

気を取り直して棚の本を順に見ていくと見たことのない本が数十冊以上増えていたが、タイトルを見る限り目的の本ではないので手には取らない。


「ん?」


ある棚の比較的低い位置、言い換えれば取りやすい位置にやや大きめの木箱があった。

もちろん3年前まではなかったものだし、わざわざ低い位置にあるのが気になって手に取ってみる。


「重…い」


父様か母様が隠している金塊でも入ってるんじゃないのかという重さの木箱を床に置き蓋を取る。


「あ…」


『フィル、誕生日おめでとう。父と母より』


まず目に飛び込んできたのはそう書かれた両親からの祝いのメッセージ。そして3冊の本が重なって入っていた。

1冊1冊がかなり分厚く、これならあの重さも納得できる。

タイトルを順に見てみると


『風魔法の心得』


『巨人でもできる魔力操作』


巨人と言えばおとぎ話等によく出てくる巨大な人間のことだが、巨人は魔法が使えないのだろうか?

特別考えたことはなかったけど、でも確かに母様が聞かせてくれたお話の中に出てくる巨人は人間の魔法や機転によって、その大体が最後はひどい目に合うというものだったっけ。

魔法が使えるかどうかはともかく知能は高くないという認識なんだろう。


「最後の本は…えっと、んん?」


タイトルが読めない。

古い本ではあるのだろうが特別ボロボロになってる訳でもないし、タイトルらしきものはしっかりと書いてある。しかし読めない。

単純に何と書いてあるのかわからないのだ。

本の表紙も今までに触れたことのないようなツルツルとしいていて、それでいて少しザラッとした感触で何の動物の革とも違う感じで気味が悪い。


「何だこの本…」


開いて中身を確かめようとするが、よく見ると本の表紙と裏表紙が小さい鍵で留められていて開かないようになっている。

無理やり壊そうともしてみたが、小さな見た目からは想像もできない耐久性にそれも諦めた。

しかし自分への贈り物として一緒に入っていた本だ。鍵のことは後で母様に訪ねてみよう。


「さて…と」


自室の机に向かい早速『風魔法の心得』の方から読んでみることにした。




2冊の本を補い合うように交互に読み進めるごとに自分の頭は8歳にしてカチカチの石頭になっていたと痛感させられた。


「実際試してみないと…」


部屋の隅に台を置き、上に1本の火をつけた蝋燭を乗せ、少し離れた位置に立つ。

そして風車を回すための特訓中に自分がやっていたことを思い返した。


「えっと、あの時は」


目を閉じ手を伸ばして魔力を集中させていく。

特訓中はそれだけを考えていたが、『巨人でもできる魔力操作』に書かれたことを思い出しながらさらに集中する。


(もっと…一点に)


強風を起こすために手の平全体に魔力を溜めるのではなく、口を細くして優しく息を吹きかけるようなイメージで。

加減を間違えたら部屋の中は大惨事になるだろう。そうならないように指先に僅かな魔力だけを集めていく。


(強いか…?いやでも弱すぎても…ええい!)


指先で軽く叩くように風を押す。狙いはゆらりと燃える蝋燭の先へ。

ビュウッ!という音と共に風は見事火をかき消した…だけでは済まず、蝋燭どころかその下の台すら横倒しにしてしまった。


「いっ!?…やっぱり強かったかな」


『巨人でもできる魔力操作』に書かれていたのは最初にミュウ先生から魔力の使い方を学んだ時と同じようなことだった。

まず体の中の魔力の流れに気づくこと。その魔力が体の中をどう流れているか感じること。その流れを操って集中させること。

だがそこまでの、本の冒頭の数ページまでの基礎中の基礎とも言える部分だけだった。


「いじわる……じゃないよな、やっぱり」


特別意識していた訳ではなかったが、庭での特訓中に自分がやっていたことは、遠くにある風車を回すためにただ全力で風をおこしていただけ。

イメージ的に言うと自分の前にいちいち魔力で壁を作っていたようなものか。そんな出鱈目なやり方では魔力が尽きるのも当然だった。

ミュウ先生が求めていたのは自分の帽子すら吹き飛ばすような強風ではなく、風車を回すためだけの細く遠くまで届く矢のような風だったのだ。


(夕食の時に先生に謝ろう)


言われたことだけをやろうとして自分で工夫をするのを怠った結果が現在なんだから。

台と蝋燭を元の位置に戻してから、また指先に魔力を少しだけ集める。


(今はできることをやるしかない)


それから台をなぎ倒しては元の位置に戻すことを一体何度繰り返したことか。

魔力自体にはまだ余裕があったが、蝋燭の火だけ消すということがどうしてもできなかった。


「フィル?夕食よ」


母様が部屋の戸をコンコンと叩いた。


「…はい。今行きます」


台を元に戻しつつ返事をし、戸を開けようとした時、逆に母様が戸を開けてきた。


「えっ?…あの、母様?」


母様は顔だけヌッと部屋に入れて、黙って部屋の中をキョロキョロと見回すと今しがた直した台と蝋燭に目を止めた。


「ふーん……はいはい、わかったわ。ほら、行きましょ?」


「え、あ、はい母様…」


母様はそう言って何事もなかったように踵を返すと、食堂へと足早に向かって行ってしまった。

何だろう。何も悪いことはしていないのだが、何というか…その。

こっそり努力しているところを見つかって、しかも一目でどんなことをしてたのか察せられ、何を言うわけでもなくニヤニヤとされて…そう、これは。


(何かすごく恥ずかしい…)


そして食卓に着く頃には相変わらずミュウ先生だけガツガツと食事を始めていた。

ミュウ先生は僕に気づくと口いっぱいに頬張ったまま声をかけてきた。


「あっ、あんふぁあいやっへるはひらはいへほね」


「いや、飲み込んでから喋ってください…」


「んぐっ…」


ミュウ先生はグラスに入っている赤い液体をぐいっと流し込むとまたこちらに鋭い眼光を向けた。


「あんた、何やってるか知らないけどね。明後日の特訓で何も変わってないようだったら、私帰るから」


「……っ!?」


何も成果がなければミュウ先生は家庭教師を辞めて出ていく。

午前中に揉めてしまった時にミュウ先生が怒っていたのは確かだが、ここまで失望されていたなんて…。

夕食の時にミュウ先生に謝るつもりだったが、そういうことを言われてしまうと謝る雰囲気じゃなくなってしまった。

だが、コツは掴みかけている。明日1日あればきっと…。

ミュウ先生の目を見据えて決意を口にする。


「わかり……」


「大丈夫よ~。フィルは無駄に1日を過ごす子じゃないもの。ね~?」


ミュウ先生と2人してガクッとしているところに母様がパンを運んできてくれる。


「母様…ありがとうございます」


気を取り直してパンに手を伸ばそうとすると、火がつけられた1本の小さい蝋燭がパンに刺さっていた。


「あの、これは?」


母様はニコニコとしたままこう答えた。


「この蝋燭を吹き消してみて?」


「…はい」


言われるままに口を近づけてふっと蝋燭を吹き消す。


「はい、よくできました~。じゃあ召し上がれ~」


母様はパチパチと手を叩くと蝋燭をスポッと抜き取った。


「あの…何だったんでしょうか?」


「別に?何となくよ」


「そうですか…いただきます」


ニコニコとしている母様は基本的に何も答えてはくれない。

何か意味があってのことだとは思うが、モヤモヤとしたまま食事を終えて自室へと戻ったのだった。

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