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魔剣の魔法使い  作者: サイトウアキバ
4/11

1-3 特訓開始

「そう、呼吸を整えて。しっかり集中しなさい」


「はい先生!」


目を閉じて腕を前に伸ばし手の平で風の感触を確かめる。

そして手の平全体に魔力を集めて……風を押す!


庭にゴウッっと風が吹き、10mほど前方にあったミュウ先生お手製の小さな風車がカラカラと回る。


「うん、10回目も風力は落ちてない。その調子よ」


帽子を抑えながらミュウ先生がグッと親指を立てた


「はぁっ…はっ…ありがとうございます…」


手の平に魔力を集めて風を押すだけの簡単な魔法です。

やってることは単純だが魔力の消耗はとても激しい。

押し出す風の勢いは魔力量が増えるほど凄まじいものになる。

ミュウ先生が置いた風車が回る風を起こせてたら成功1回なのだが、10回も繰り返すころには呼吸もままならないくらいに消耗してしまう。


「じゃああと20回、やってみましょうか。あ、途中で失敗したら午後も同じメニューだから」

「ッ…!は、はい!」


そしてそれを数回繰り返した頃、僕は今日も地面にバタンと倒れ込んだ。


「あら、今日ももう終わり?これじゃいつまで経っても次のステップに行けないわね~」


今日もミュウ先生がわざとらしい口調で歩み寄ってくる。


「す…すいませ…。はっ、でもっ、はぁっ…でもっ、今日は16回…成功…はっ、しました…」


「…?うん、それで?」


「ふぅっ…ふっ…ふっ……ふう。ふふ、昨日より1回多いです。毎日昨日より1回多く成功してみます。それなら…?」


ミュウ先生を見ると疑っているような目で僕を見下ろしているのに気づいて思わず言葉が途切れる。


「じゃああと2週間くらいでフィルはこのステップを終わらせるつもりでいるのね?へえ、凄い自信ね」


違う…。疑っているんじゃない。


「8歳の誕生日から魔法を教え始めて、風を起こせるようになるのに3日」


これは…。


「それから魔力の集中を覚えるのにさらに10日。ここまでは良かったんだけどなあ」


これは、間違いない。


「やっと今の訓練が始まる頃にオズワルドが出て行って、今日でどれくらいだっけ?」


「1か月と18日……です」


怒っている。

いや…呆れている。


「このステップが終わるのに2か月として…。次のステップはどれくらいで終わるのかしら?」


「……えっと」


何か言わないといけない。

でも、こんなに疲れるのにどうやって30回もやれば…。

教えてくれないミュウ先生のせいなんじゃないの?


「あら?何その目」


気づけば僕はミュウ先生を涙目で睨んでいた。

だっておかしいじゃないか。

あの若さで騎士団長を務める父様と、若いうちから将来を有望視されていた母様。

そんな2人の子供の僕に才能がないはずがないんだから!

今僕ができないのはミュウ先生の教え方が悪いに違いないんだ!


「はぁ、もう良いわ。今日の午後と明日の訓練は無しね」


「えっ?」


予想外の反応に背筋がゾクッとした。


「あ、あの…先生…」


違う…そんなつもりじゃなくて…。


「真面目にやる気がないなら無駄だから。」


何を期待してたんだろう。

ここで反抗すれば優しく丁寧に教えてもらえると何で思ってしまったのか。


「ち…違…」


気づけば涙がボロボロと零れていた。

ミュウ先生は少しの間だけ黙って見ていたがふんっと言い残して家に戻ってしまった。


「うっ…うううう…うあっ…うあああああ…」


そしてしばらく後に母さんが昼食に呼びにくるまで僕は庭で1人泣き続けていた。




「も~、あんまりフィルを虐めないで先生~」


僕を後ろから抱きしめた母様が頬を膨らませてミュウ先生に抗議する。


「ねえアリシア。貴方がそうやって甘やかすからこんな向上心のない子に育ったんじゃないの?」


ミュウ先生はどこ吹く風と、目を向けることもなくパンを口に運んでいる。


「そんなことないもんね~?ね~フィル?」


「……」


確かにそんなつもりはないが「そんなことはありません!」と言える状況でもないのがつらい。


「それに勉強はずっとミュウ先生に任せてたんだからミュウ先生のせいよ。ね~?」


ミュウ先生が一瞬考えこんで動きを止めた。


「…いや、三つ子の魂百までって言うしね。私が来たのフィルが5歳の時だから。うん、だから違うわ」


そう言って皿の肉を切り分け始める。


「何よそれ~。そうだフィル、私が教えてあげる。そうしましょ、ね?」


この世界では子供に善悪の区別がつく8歳となるまでは魔法を覚えさせてはならない、という法がある。

僕も例外ではなく、1か月半前に8歳になるまで魔法関連の書籍は一切触れさせてもらえなかった。

ただ、ミュウ先生は座学の時間にたまに魔法を見せてくれたし、両親もねだれば魔法を使ってくれたことはある。

8歳になってからは毎日のようにミュウ先生が魔法の授業をしてくれたので両親に魔法を教わるという発想がなかった。

確かに、母様なら同じスパルタでも至極丁寧に1から10までできるようになるまで教えてくれるだろう。それなら…。


「…良いんですか?」


「もち――」


母様が嬉しそうに目を輝かせた瞬間…。


「ダメよ」


ミュウ先生の鋭い声がそれを遮った。


「そんなあ…。良いじゃない、今日の午後から庭師さんも来るし。今日と明日だけ。ね?」


「絶対にダメ」


ミュウ先生が頑なに母様の提案を拒む、が。

今日の午後から明日にかけて庭師がくるというのが気にかかった。


「あの、母様。庭師の方が来られるということは庭で魔法の特訓ができないということでしょうか?」


「そうなのよ、ごめんねフィル。ミュウ先生には言ってあったんだけどね」


「あら、言わなかったかひら?」


ミュウ先生を見るがとぼけた様に食後のフルーツを頬張っていた。

ということはさっきの結果に関わらず午後からの特訓はなかったということだった?


「申し訳ありません母様。ミュウ先生の許可も出ないことですし夕食まで部屋で1人で勉強します」


「あ、フィル。……も~!ミュウ先生のいじわる~」


「別に意地悪で言ったんじゃないし」


2人が言い争っている声を後に足早に書斎に向かう。

思えばミュウ先生が来る前は毎日のように書斎から本を持ち出して読んでいたのだ。

もちろん魔法関連の書籍は僕の目に触れないように両親が隠していたらしいが。

そして僕は書斎に辿り着くと3年以上ぶりにその戸を開いた。

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