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魔剣の魔法使い  作者: サイトウアキバ
3/11

1-2 オズワルド・フォン・オストヴルグとクロ

「あれ、今回はクロの見送りは無しか。薄情な友人だ。ま…それじゃ、行ってくるよ」


僕が8歳の誕生日を迎えて少し経ったある日。数か月ぶりに鎧に身を包んだ父様はそう言って母様と僕を抱きしめた。

家の門の前、少しばかり付近の住民も集まっていて少し恥ずかしい。


「あなたの活躍と幸運を祈ってるわ」


母様が父様の頬にキスをすると、父さんはもう1度母さんを抱きしめた。


「いつも大げさだよ、でもありがとう。まとまった休みには帰ってくるから」


父様は僕に振り向くと膝をついて目線を合わせ、いつもの調子で頭をわしゃわしゃと撫でた。


「フィル、魔法を覚え始めたばかりなのにごめんね。ちゃんとミュウ先生の言うことを聞くんだよ。帰って来た時にフィルの特訓の成果を見るのを楽しみにしてるから」


「はいっ!父さん…あ、父様が誇れるような立派な魔法使いになります!父様もおかりゃだ…おかりゃ…おからだに…えっと」


周囲の住民のうち数人がうんうんと頷きながら手を鳴らした。

父様もニコリと笑ってまた僕の頭をわしゃわしゃと撫で、ミュウ先生の方を見てコクリと1回頷いた。


「大丈夫よオズワルド。フィルは才能があるもの。あまり家を空けてたら貴方なんかすぐに追い抜かされちゃうわよ?」


「はは、頼もしいね。よろしく頼むよ」


父様は僕の頭を軽くポンポンと叩くと、城からの迎えの兵士に「待たせちゃったね」と肩を叩いて馬車に乗り込んだ。

兵士は「滅相もございませんオズワルド卿!」と背筋を伸ばし返事をして、僕たちに一礼してから馬車に戻っていった。

周囲の住民たちも「頑張って領主様~」とか、「伯爵様ご武運を~」とそれぞれ声をかけながら城へと向かう馬車を見送った。

突然帰ってきてしばらく家でふざけているかと思うと、ある日迎えの人が来て一緒に城に行ってしまう。

この光景ももう何度目になるだろうか。


オズワルド・フォン・オストヴルグ。それが父様の名前。大国オルダナン王国第二魔法騎士団の騎士団長にして、ここ東区オストヴルグの名をたわま…?たまわった代々続く名家の領主で伯爵で何かとにかく凄い人。

家でふざけているばかりの普段の父様からは想像するのが難しいけど、母様が言うにはとにかく凄い人なのよ、と。って、これじゃ僕と感想が変わらない。


父様と母様が初めて出会ったのは王国の魔法騎士団見習い時代のことらしい。例年のように一際目立っていた新入りの見習い騎士だった父様、オズワルドだったそうだ。

その時の母様は父様よりも2年早く入団しており、1年後には第四魔法騎士団に入隊も決まっていたそうで、「身の程知らずの生意気な新人が来たぞ、凹ますかって第一印象だったわね」と…。ん?


母様はオストヴルグ領でも南西の端に位置する魔法騎士団とは縁のない一般家庭の生まれだったが、たまたま魔法の才能に恵まれていたことで騎士団入隊を決意。

その才能は同期の見習い騎士たちと比べても頭一つ抜けており、第四騎士団の団長が直々に「見習い期間が終わったらうちの団に来てくれ」とスカウトにきた程の逸材だった。

母様は当時の自分のことを「正直自分でも調子に乗ってたわね」と懐かしそうに話してくれた。


簡潔に言えば調子に乗っていた父様に、母様が指導という名の喧嘩をふっかけてボコボコにされたというだけの話だった。

その日以降母様は、父様のことを大層気に入って付きまとい…いや一緒に過ごすことが増え、父様がわずか1年で第二騎士団に入隊したのを機に結婚し、第四騎士団に入ることのないまま騎士を辞めたそうだ。


「母様が夢中になってしまうなんて、父様はさぞかし女性に人気があったんでしょうね」


母様はにこにことした表情のまま


「そうね、あの人が演習で戦うたびにキャーキャーうるさくて大変だったわ。……本当に」


最後にボソッと何か言って


「フィルも、いざという時は手段を選んでちゃダメ、よ?」


「は、はい…母様」


と、優しいはずなのに凄みが感じられるような口調でまた一つ新たな教訓を授けてくれた。




父様が城へ出立してから2日目の朝。恐らくそろそろ城へ到着している頃だろう。

ベッドから出て着替えを済まし、朝食の為に部屋を出た時


「ナァオ」


と、黒い毛玉が足にまとわりついてきた。


「クロ、お前もお腹が空いたの?じゃあ一緒に行こうか」


四足歩行の真っ黒い体で目の色は僕たち人間のような緑色。

大きさは50㎝くらいだけど、体が柔らかいので前足を持って立たせてあげるとうにょーんと伸びる。

鋭い牙と爪を持ちながらも全身はふわふわとした体毛で覆われてて手触りは良く温かい。

ピンとした耳はピクピクとよく動き、長い尻尾をゆらゆらと動かす姿は可愛らしい。


「ミャァオン」


そして足元にすりよってくるこの仕草が何よりも人を魅了する。

動物、だとは思うが僕はこの動物を見たことがないから何という動物かわからない。

だけどクロは僕が生まれる前、父様と母様が出会う前からこの家で父様と過ごしている。


「僕にもクロみたいな使い魔がきてくれると良いな」


そう言いながらクロの顎を軽く撫でてやる。


「ミャ…ゥゥ」


クロはこうされるのが好きで、ゴロゴロと喉を鳴らしてお礼のように僕の手に何度も頭をこすりつけてきた。


「フィル起きてるー?朝食にしましょうー」


台所から母さんの声が聞こえてくるとクロは耳をピクリと動かし、僕を置いて早足で食卓へと向かってしまった

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