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百鬼大戦  作者: 蜂須賀緋燕
狭間の終焉 百鬼夜行
8/8

囚われの隠れ家

徐々に周囲を包む紫色の霧が濃くなっていく。


その霧に乗って鼻を擽る湿った生温い、血生臭い空気が嫌悪と緊張を煽り、昂らせる。


既に、門を召喚する必要もなく現世との境界を越え、狭間に囚われたようだ。


などと、周囲を警戒しつつ、じわじわと先に見える荒れた廃屋を見ながら考えていた陵清。


自身の背後にいる蓮にも気を配りながらだが、そちらは特に注意しているわけではない。


「…狭間に、入ったね。」


「あぁ、気を付けろよ。物の怪がいつ出てくるか分からんからな。」


狭間に囚われた事を察知している蓮の言葉に、陵清はうっすらと笑みを浮かべながら言う。


半年ほど、こうして歩く事がなかった2人、陵清にとっては蓮の成長が見られた事は嬉しくもあり、頼もしくもあった。


だが、その嬉しさにかまけて警戒を怠ってはならない、いつ物の怪達が現れて襲い掛かってくるか分からないのだ。


自らを戒めるように蓮に気付かれないように、どんと腹を叩くと、陵清は緩んだ口許を引き締め、前方へと視線を向けた。


すると、不意に濃くなった霧の先、廃屋のある辺りから影が幾つかぼやけて見える。


その影を視認した途端、重苦しい空気がのし掛かるように2人を包んでいた。


「これは…?!」


「くそっ!蓮、気をしっかり持てよ!押されるな!」


空気が変わったのを察知した瞬間、陵清が叫んだ。


それを合図と受け取ったのか、霧の先にいた影達が一斉に動き出し、2人を包囲するように拡がっていく。


それを目で追いながら蓮と陵清は背中合わせに立ち、各々に刀を構える。


両手で柄を握り正眼に構える蓮、その背後で力を抜いてだらりと下ろした腕で刀を持つ陵清。


既に3歩先もまともに見えない程、濃くなった霧の中、蠢く影に集中する。


しかしながら、影達は2人に近付いてくる様子もなく、じっと動かず蓮達と距離をとったまま佇んでいる。


それが余計にも2人の緊張感を煽り、空気が一気に張り詰めていく。


「…どうする?やるの?」


「…いや、下手に動くな、何かを待ってるみたいだしな…。」


わざわざ影達の都合に合わせるのも癪だが、目的が掴めない状況、そう思い陵清は蓮の小声に対してそう答えた。


強張った顔で蓮は再び視線を影達の方へ向ける。


蓮が確認できているだけでも影は9つ。


後方まではっきりと見ることはできていない事も考えれば恐らくは倍以上の影達がいる。


自分達に向けられている圧迫感は殺意と見ていいのか、動かずこちらを様子見ているだろう影達からは蓮は何も感じ取れなかった。


「…埒があかねぇな。」


不意に背後から聞こえた陵清の呟き。


対峙して僅か2分足らずだが、2人には長く長く感じられた時間。


痺れを切らした陵清は1歩前に踏み込み、刀を乱暴に振り上げるとそのままの体制で大きく息を吸い込んだ。


「てめぇら、目的はなんだ?!そんな殺気じゃ威嚇にもなんねぇぞ!用があるならこっちに来いや!」


もはやチンピラレベルに口の悪い陵清、そんな彼の言葉を背に蓮は呆れた様子で鼻息を漏らした。


此方が何者か見ているであろう影達に攻撃的に接する意味はこの状況にあって全く意味を成さないだろうと、陵清に対して心の中で馬鹿じゃないかと思ってしまった。


「───人間、か?」


しかし、その陵清の行動に影達は反応を見せた。


会話を出来ると言うことは少なくともそこかしこに現れる雑魚とは違うと言う証拠。


「あぁ、そうだよ、人間だ!さっさと姿を見せろや!」


意外と思いながらも身構えた蓮を他所に、苛立ちが募っているのかどんどん攻撃的になる陵清。


しかし、そうは言いながらもちゃっかり刀を構え直し、即座に動けるようにしている辺り、まだ冷静な部分はあるようだ。


漂う紫の霧、そこから察するに力を持った物の怪がいるに違いない。


構えた2人の頭の中にそう過った時、陵清の正面に立つ影のひとつが2人に向かって動き出した。


ゆっくりと1歩ずつ、気付けば緑が生い茂る雑木林は枯れ落ちた木々に姿を変え、影は地面に絨毯のように敷かれた枯れ葉を踏み締める音を鳴らす。


「───すまなかった。まさか人間がいるとは…。」


濃い霧の中から姿を現したのは、青白い顔色の老人だった。


その姿を確認できた途端、周囲の霧がみるみる内に晴れていき、周囲には老人と同じような顔色の生気を感じられない人間達が佇み、2人を睨んでいた。


どの人間も所々汚れた服装で、若干頬が痩けて見える。


「お主ら、どうやってこの場所へ生身で…?」


訝しげに、警戒の色を見せながら老人が問う。


「気付いたらここに居たんだよ。どうやってもくそもねぇわな。」


老人の問いに平然と告げる陵清。


偽りはないが、境界を越える術を知っている事を隠す意味を蓮には分からなかった。

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