蠢く闇
午後10時、真っ暗になった部屋の中、ベッドの上でもぞもぞと動く影。
カーテンが閉められた窓に一瞬眩い光が照らされ、そこに浮かび上がった動く影がゆっくりとベッドから離れていく。
先程の光は家の前を通った車のヘッドライトだろう。光はすぐに失われたが暗闇の中、動く影は戸惑う事もなく、服を着始めた。
闇に溶け込むような黒いジャケットに黒いジーンズ。銀色の獅子を象ったバックルの着いたベルト。その服装に全くそぐわない、金の龍の装飾が施された刀を腰に携え、その影は部屋の窓を開け、姿を消した。
『───生命反応捕捉、そこから2キロ北西に行った所で暴れてる。』
開け放たれた窓から消えた影は、瞬時に目の前の2階建ての民家の屋根の上に立っていた。
黒い肩までかかる綺麗な髪を靡かせながら、耳に響く声を聞き、北西に向かって首を動かした。
その瞬間、住宅街を抜けた先、広い国道が通っている駅前のビルが玩具のように折れ、瓦礫や埃を伴って崩れていく。
「あぁ、見えた。あれは───。」
壊れていく街並みを眺め、崩れるビルの奥に浮かび上がる異形の姿を視界に捉え、屋根の上に立つ少年はグッと膝を曲げ、屈む。
『反応の大きさから言って君一人でも十分だと思うが、危険だと思ったら、“転送”するから。』
耳に響くその声は冷めた口調でそう言う。聞き慣れた女の子の声。
「いつまでもガキ扱いするなよ。」
溜め息混じりにそう言うと、少年の姿は再び消えた。