ヴェロニカ
メシアが重荷を背負いゆく
黄ばんだ布を引きずって
よろよろと ふらふらと
人形たちの鞭振るままに
人の心は砂だった
言葉は全て波に攫われ
器ごと海に帰ってゆく
愛の深さで名高い父は
親子愛だけ失ったようで
『求めよ、さらば与えられん』
我が子の叫びが聞こえませんか
ああ それとも
私は与えたいのです
何故求めて下さらないのです
私の心は大理石
海に入れば沈みましょうが
その前に
メシア、あなたの背負う重荷は
一体いくつの砂団子なのでしょう
鉄の心で泳ぐクジラに
ぶつけてしまえばいいものを
真白に滲んだお顔
やはり求めてはいなかった
中学の頃に読んだ「ヴェロニカ」というエッセイ(だったでしょうか)の内容が忘れられず、詩におこしてみました。教えを説くイエスを人々は称えていたにも関わらず、彼の「罪と罰」が公のものとして発表された途端、民衆は彼を糾弾します。罵声と蔑視の中、十字架を背負い歩く彼に駆け寄り、汗を拭いたヴェロニカ。そのハンカチには、彼の表情が映ったそうです。その表情を描いた画家がいて……というようなエッセイだったかと思います。大変ぼんやりした記憶ですが。