05
冒険者ギルドから出ると僕は来た道をたどり宿屋に戻ろうと道を歩いた。
街は夜になり転々と街を照らす街灯が灯っている。
街灯はランプではなく蛍光灯のような光であり、中世ヨーロッパ風の街並みを照らしてはいたが、やはり少し違和感を残す。
(この世界には電気があるのか?いや雷の魔法があるかもしれないし、それを利用しているとか?)
だがもし魔法使いがMPが枯渇するまで必死に電力を街灯に送っているとなるとファンタジーが少しもの悲しくなる。
◇◇◇
昼のように街をキョロキョロと見渡し歩きながらシルビナの宿屋に着くと昼の時とは違い店から笑い声が聞こえてきた。
宿屋に入ると昼とは違い食堂にはテーブルを埋め尽くす人人人。
そこにはほとんどが男であるが共通するのは長いひげと筋肉。また筋肉!?
ここの街アルファスに来る船の中で会った船乗りとはまた別の筋肉だ…いや、そこまで筋肉の違いが分からないが…
宿屋の女将シルビナの「ただいま帰りました」と挨拶を交わすと「夕飯はどっちで食べる?」かと聞かれた。
確かに食堂は人であふれているが座れない訳では無いだろうと思い、僕は「食堂で食べます」と答えた。
僕が食堂に入ると先ほどまでの喧騒がピタリと止まり場の雰囲気がピリピリしだした。
流石の僕でもその空気を感じ取っているが気にせず開いているテーブルへと着くと周りの目は僕へと向いていた。
彼らは恐らくドワーフなのだろう、シルビナとの会話を思い出しながら結論付けると僕の前に一人の男が歩いてきた。
「よう兄ちゃん、悪いが兄ちゃんの席はねえんだ帰りな」
何だか定型文を聞いた気がしたが、いきなり殴ったりしてこないだけましなのだろう。
シルビナが言っていた「新人種はここには泊まらない」と言う言葉が脳裏によぎる。
恐らく現在この世界は種族間での争いかそれに似た差別があるのだろう。
しかし彼からは悪意というより距離を置きたいと印象を感じる。
「すいませんが僕はこの店に泊まっている客です。」
僕の言葉に周りのドワーフはざわついた。
驚くところか?いや、驚くか。戦時中に相手国の人間が一緒に食事をしようだけではなく「ねえ泊めて…」なんて言ってきたようなものだからね。うん、何か違うね。
「はぁ!?そんなわけねえだろ新人しっ」
パカァン!と音が鳴り怒鳴っていた男は言葉は途中で途切れ、前につんのめりになった。男の後ろにはシルビナがお盆を振りぬいた状態で立っている。
「いってぇ!何するんですかシルビナ姉さん!?」
「私の客にケンカ売るってんなら出ていきな!」
「でもよ…」
「でもじゃないよまったく…。私が客としてこの子を宿に招いたんだ。文句があるのなら私に言いに来な!いいね!」
「「「サー!、イエッサー!!」」」
シルビナの怒鳴り声に周りのドワーフが一斉に直立し敬礼した。
何だこれ…
「ハァーこえぇー…すまなかったな兄ちゃん。姉さんの客とは、知らずにしても文句言っちまって」
「もう気にしていません」
「……本当に悪かった、最近色々情勢が悪くてな周りがピリピリしてるんだ」
「情勢ですか?」
「ああ、新人種が妖精種に」
「まあ暗い話は良いじゃねえか、俺たちからの詫びのしるしだ。飲んでくれ!」
先ほど文句をつけに来た男が僕に謝っているとドン!と一升瓶がテーブルに置かれた。
僕自身はまだ未成年であり、果たしてこの世界だと何歳から飲酒が許可されているのか分からない。
少し迷いながらも僕はせっかくの好意に水を差してはいけないといただくことにした。
◇◇◇
数時間後、男たちは半裸だった。
肉肉肉の筋肉祭りの中、一人もやしっ子の僕が浮いている。
今まで本を読むことを優先してきた僕にはガッチリしたドワーフの男達には鶏ガラに見え「もっと肉を食え」とか「鍛えろ」とか「いいよ!キレてるよ」と訳の分からない事を言われながらも楽しく飲んでいた。
ドワーフの男達が何故昼に居なかったのか聞いてみると男たちはこの街を北へ行った先の山で発掘作業をしておりそこで鉄などを掘っているようだ。
そう言えば先ほど取った素材がいくらかあったから新しい装備を作りたいので、ドワーフと言えば鍛冶、鍛冶と言えばドワーフ、ぐらい鍛冶で有名なので鍛冶師は居ないのかと聞くと今日は来てないようだ。
残念がっていると、行くのなら紹介してやるとの言葉に僕は感謝し素直にうなずいた。
「次は兄ちゃんがなんか話せと」僕に話を振って来たのでここは…
そうだな[僕がいかに本が好きか話そう]
僕が語り出し如何に本が素晴らしいか、本が偉大かを話していたらポンと肩を叩かれた。
「いや、もうわかったよ…」
「じゃ、今日は解散するか…」
「スゲーな一気に酔いがさめたよ」
「ああ、ある意味才能か」
「解散解散」とぞろぞろ男たちは店から出ていった。「まあ静かになっていいさね」とどこか呆れながらシルビナの声が聞こえた。
……あれ?
何だか納得できないまま終わった飲み会。何が悪かったんだろうと首を傾げながら僕はいそいそと服を着出すと横から小さな女の子が顔を出した。
「ねえお兄ちゃんも本が好きなの?」
横から出て来た女の子に僕は「うん、本好きだよ」と返事しながらこの子は誰だと思っていたら、シルビナが「私の娘だよ」と答えた。
「パーナも本好きだよ」とニパッて表現が似合う笑顔で僕に話す。
「読んで」と渡された本は絵本のようであるがドワーフの文字で書かれているのか僕には読めない。
僕は「ごめん読めないみたいだ」と言うと
「じゃあ代わりにパーナがお兄ちゃんに読んであげる」
と言うとパーナは僕の膝へと腰を下ろしたどたどしい言葉で本を読んでいった。
まったく、本好きの幼女は最高だぜ。
◇◇◇
パーナは絵本を読んでいるとだんだん眠気に襲われたのかウトウトしだし眠ってしまった。
僕はシルビナにパーナを預けて自分の部屋へと戻って休むことにした。
部屋に戻った僕はベットに寝そべりながら「う~ん」と伸びをした。
今日一日で色々な事が起こった。
筋肉から始まり筋肉で終わる
…ひどいなと思い出しながらそう言えば船のムキ兄さんに何か貰ったなと思い出し僕は右手の人差し指を空中の右上から自分の真ん中へと持ってくると目の前にウインドウが開いた。
【素材:ノープリウスの殻】×3 レア度1 重量1 品質2
『説明:ノープリウスから採れる殻。硬いが火に弱い』
【アイテム:単眼鏡】 レア度3 重量1 品質4 《遠視》の効果あり
『説明:船乗り愛用の単眼鏡。これで見れば遠くも見放題。のぞきダメ、絶対!』
アイテム欄を見ると先ほど取ってきた素材アイテムとは違う、四つアイテムが追加されている。
そこには素材アイテムと単眼鏡が追加されていた。
ノープリウスの殻は最初に倒したモンスターだろう、ミーシャと四匹を倒して三つが僕の方に入っているって事は、もしかしたらミーシャの方が少ないのかもしれない。
悪い事をしたなと思いながら今度会ったら渡そうと考え次に単眼鏡を確認した。
これはムキ兄さん事グランデからの物だろう。
この《遠視》の効果ありってのが《遠視》のスキルを持ってない僕にとってはうれしい限りだ。
今度グランデに会った時に改めてお礼しようと考えた。
最後に自分の武器の槍を見たら耐久値が6となっていた。
あぶなっ!もうすぐ壊れそうじゃん。
明日は先ず鍛冶屋に行った方がいいなと思い、残金を確認する。
残り600コルとなっている、スタートより増えてはいるがやはり装備などで使うだろうから、お金を稼がないといけない。
そのままメニューを見ながらステータスへと移ると状態が酔いとなっていた。
こんな事まで起こるのかと細かい設定に苦笑してそのまま見ていると下の称号の欄に《アイルの祈り》となっていた。
「……なんだこりゃ?」
詳細を見ようと称号をクリックすると
『説明:アイルがあなたの無事の冒険を心より祈っております。がんばって!LUK+3』
とツッコミを入れたらいいのか、有難がればいいのか、僕は微妙な顔をし苦笑しながらメニューウィンドウを全て閉じた。
酔いが続いているのか僕はそのまま目を閉じるとアラームが鳴り出しそのまま暗闇に身をゆだねた。
体から力が抜けていく感覚を味わいながらログアウトしていった。
お酒を飲みすぎたので漏らしてなければいいんだけど。
◇◇◇
ログアウトした時間は夜の11時、ゲーム内の時間はどうやらこちらとリンクしているようだ。
僕はログアウトした後、軽く口に入れる食事と明日の朝の分を作り、お風呂に入った。
布団に入りながら今日は本当に色々あったなと、こちらに引っ越してきて一年半よりもより濃密な1日だったように感じる。
アイル、ミーシャ、グランデ、シルビナ、パーナ、クルル夫婦、ドワーフのみんな、色んな人に出会った濃密な1日だった。
……あ、バルト忘れてた。
翌朝起きてから家の掃除をすまし、昨日作り置きしていた朝食を食べ僕はまた『Uncivilized earth online』の世界へと旅立った。
自分でも大分ハマっているな、など他人事みたいに考えながら。
PN:ユウ
人種:新人種(人間)
性別:male
HP:100
MP:100+10
SP:100:100
状態:酔い
STR:6+4
VIT:5
DEX:6+6
AGI:4+5
INT:4+2
LUK:5+3
BP:0
スキル:《槍》LV:2《料理》LV:1《鑑定》LV:4《調合》LV:1《風魔法》LV:1《跳躍》LV:3《投擲》LV:2
控え:
称号:《アイルの祈り》