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04

草を抜いて鑑定。【雑草:がんばれ】抜いて鑑定。【雑草:おしい】鑑定。【雑草:負けるな】【雑草:残念、それは雑草さ】………所々の鑑定の説明がイラつく。

しかしこれは心が折れそうだ。

薬草採取の依頼は鑑定だけじゃクリア出来ないのかもしれない。

条件があるとしたら《薬草の知識》いや《採取》か?

見渡してもどれがどれだかわからない。いっそスキルを取ろうか?

いや無理だ、最後に《投擲》のスキルを取ったのでユウの取得BPは0よ!


む~…と考えていると近くの草がガサガサと揺れる音がして毛むくじゃらが草を分けて現れた。


「ん?」


目が合う。

顔は体毛で被われ、口は裂ける様に長く、体毛から除く目はこちらを見ていた。

犬、いや狼だ!?


「グルルルルル!!」

「……どわ!?」


いきなりの登場と狼の唸り声に驚き、尻餅をつきそうになるのを何とか留めた。

槍を背中から抜き構えると同時に狼に向けて突き出した。


「ッ!」


狼はまるで風にそよぐ布きれのようにスルリと僕の槍をかわす。

同じようにもう一撃を繰り出すが変わらずかわされた。

あ、これヤバいと思いながらもこのままでは打つ手がない、狼は黙ったままじゃなかった。

僕との距離をなくすように前足でためをつくり飛んできた。


「チッ!」


嫌な予感とは当たるもの、僕は狼がためをつくった時点で《跳躍》スキルで飛んでいた。

上にではなく後ろへと

それでも狼の方が勢いがあるらしく早い。そして怖い。

大きく開けた口からは犬歯のようなギザギザの歯が僕を噛み千切ろうと覗いている。

僕は後ろに飛んだまま《投擲》スキルで槍を狼の開いている口めがけて投げる。

しかし、槍は狼の噛みつく動作によって落とされた。

槍によって多少僕との距離が開いた狼は、地面に下り一度顔を振る、仕切り直しと顔を上げて僕の方を見るが、狼は僕を見失い辺りを見渡すことになった。


ふふふ、見失ってますね、あの間抜けが……いや、ごめん早くどっか行って、腕が疲れる。

僕は現在木の枝にぶら下がっている。

正に狼の戦闘を回避するための計算さ、うん、ごめん違う、たまたま後ろに飛んだら背中に木の枝があたり落ちそうになるのを必死に両手、両足でしがみついてるのが現状。

コアラやナマケモノを想像してくださいそんな感じです。


だけどこれで少し分かった事がある。

今まで戦闘中、いや、武器を構えるとシステム補正が発生して走る事が出来なかった。

だけどスキル《ダッシュ》を取れば走れるし、もしくはAGIを高めればいいとアイルは言っていた。

武器を離す、しまうなどをすれば実際システムに関係なく走る事が出来る(スピードは置いておいて)

これは僕の中で様々な可能性がある事を示唆している。


例えば現在僕は木の枝にぶら下がっているがこれを通常やるにはおそらく木登りのスキル(あるかどうかは分からないが)が必要だろう、だけど僕は《跳躍》で枝の高さまで上がり両手両足だが掴むことが出来た。

木登りスキルが無くても木登りに近い現象は起こせる……


――考え事をしていると狼はどこかに行ったらしい、僕は木から手を離すと尻から落ちた。痛し…

槍を回収してから僕は先ほど考えたことを実行するため一度来た道を戻る事に決めた。



   ◇◇◇



最初の西の門近くに戻れば相変わらず人が多い、僕はそのまま門をくぐり街の中へと入って行った。

西の区画を歩きながら僕は上を向きながらある看板を探していた。

道具屋、いや、薬屋になるのかな?

探す理由は単純薬草を見せて貰う為、現在は図書館を利用できず、本屋があって薬草が載っている本があればいいがそれすら見つけられない。

なら本物を見せて貰い《鑑定》をすれば知識としてストック出来るんじゃないのかと思ったわけですよ。

…無理かな?


歩いて行くと看板にフラスコのような絵と相変わらず読めない文字が書いてある看板を発見。

中に入ってみると「いらしゃ~い」とのんびりした女性の声が出迎えた。

20代ぐらいでニコニコとした顔をした女性がカウンターに座っていた。


「すいません、ここは薬屋でよろしいですか?」

「はーい、そうですよ~。お薬屋さんです~」


のんびりした喋りにのんびりした印象しか浮かばない、よしのび姉さんと命名しよう。

―って遊んでいる場合じゃなかった、薬草を見せてもらえるか聞いてみよう。


「あの…」

「?」


何て言えばいいんだ?今までは客と定員として割り切っていたが、何かを頼むと言うのは少し困る。

自分のコミュニケーション能力のLVの低さを侮ってた、スキルLVを上げる前にコミュLVを上げるべきですね、そんなスキル無いかな?無いね残念。


「薬草…置いてあります?」


結局ただの客のふりをすることにしたヘタレ。


「あら~ポーションじゃなくて?」

「えっと…実は…」


あ、これは下手なこと言ったらボロしか出ないなっと、もうバカ正直に全て話すことに決めた。


「あら~、あなたが家の依頼を受けて下さったのね~」

「ほへ?」

「この店がクーリー・クルルのお店よ」


確か薬草の依頼主がクーリー・クルルだったな


「あ、あなたがクーリーさん?」

「いいえ、それは夫、私はフェスナ・クルルです」

「あ、そうなんですか。申し遅れました、ユウと申します」

「あらあら、ご丁寧にどうもありがとうございます~

……あ!そうだったわね、薬草だったわね、ちょっと待っててね。あなた~……」


のび姉さん事フェスナが奥に引っ込むと代わりに来たのが40過ぎの疲れた顔をした無精ひげの男だった。

僕が他人の家庭をとやかく言う事ではないが年離れすぎじゃない?

まあ、僕が言う事じゃない。うん、ただローリーさんと名付けよう。


「君が私の依頼を受けた子かね?」

「はい、ユウと申します」


フムとうなずき、クーリーは困った顔をした。


「う~ん、薬草を見ただけでは分からないと思うんだがな…」

「《鑑定》のスキルはあるのですが…」

「そうか……では、どうにかなるかな。先ずこれが薬草だ」


【素材:薬草】 レア度1 重量0  品質3

『説明:ポーションの素になる材料。品質により味と効果が変わる』


見た目は丸みを帯びた葉、柏餅のカシワっぽい。


「これと同じ品質の薬草を持って来て欲しい。

実は薬草はホーンラビットの主食なんだ、噛まれると品質が落ちてしまう。

だから、見つける方法としてはホーンラビットが食べようとしているところを横から掻っ攫う」


……掻っ攫うって


「いや、君の言いたいことは分かる。だが最近ホーンラビットが大量に繁殖して品質が良い薬草が手に入りにくくなっている現状なんだ。

しかも今日は何故か朝から10倍近い大量にポーションの受注が来ている始末…」


ハァーっとクーリーは付かれた溜め息を吐いていた。

なんか叔父さんと被った、叔父さんも上司に無茶振りされた時は同じようにため息ついていたな……


「分かりました、その方法でやってみます」

「ああ、期待してるよ」

「がんばって下さい~」


僕はクルル夫妻に別れを告げ店を出ると西に門へと足を向けようとした。

『ピコン』『ピコン』とアラームが鳴りだした。

ん?何だ?

右上のアイコンが赤く光っている。

僕はアイコンからメニューを開くと自分のステータスが目に入った。

SPの片方が0になっており、HPが見る見るうちに減って行ってる。

え?何これ毒?何で?

僕は「まずい!」と思いポーチの中からポイズン・キュアポーションを取り出しあおり飲む。

(マズッ)

相変わらずの不味さだが仕方ない。プハァっと飲み干すと「どうだと」ステータスを確認する。

0になっていた方は少し回復しており、もう片方が100まで回復している。


………いや、違う。毒じゃなく、これってもしかして空腹って事?



   ◇◇◇



先ほどのSPは空腹と渇きを表しているみたいだ。

なぜ空腹と渇きが別なのかは分からないが、現在も空腹値は危ない状態が続いている。

僕は薬草採取の前に中央広場に戻って屋台を物色することに決めた。

さっきまで気になら無かったがいろんな屋台が出ている。

適当に近くの屋台を見てみると、焼き鳥のようなものを売っている屋台を見つけた。


「らっしゃい!」


威勢の良い声に少しビビったが何の肉か聞いてみることにした。


「おう、ホーンラビットさ。今日は大量に入荷できたんでな」

「じゃあ、一つください」

「はいよ!」


受け取ったホーンラビットの肉は串に刺してあり、焼き鳥のようだ。

タレではなく塩を振って焼いてあるようで動物性の油で塩が光って見える。

一口食べると柔らかいじっくり煮込んだ鶏もものような触感が口の中に広がる。

臭みがもっとあると思ったがハーブで臭い消しをしているので塩のキレのあるしょっぱさとハーブの苦味が合わさり口の中に広がる。

コショウやレモンをかければより美味しくなりそうだが今は塩だけでも大変満足です。


「いや~、お嬢ちゃん、美味そうに食べるな…」

「お嬢ちゃんでは無いですが、とても美味しいです」


モグモグと咀嚼しながら反論する、まあ、美味しいので許します。

もう少しで服を脱いでしまう美味しさでした。


美味しかったので僕は追加で5本注文して食べながら西の門へと向かった。




   ◇◇◇




さて、薬草採取リベンジ

空腹値も回復して改めて西の門前に到着、人もだいぶ減ったようだけど、まだまだ多い気がする。

今更ながらよくよく見れば他のプレイヤーが戦っているのがホーンラビットのようだ。

さっきの狼が出たところは違うフィールドだったのかもしれない。


僕はさっそくクーリーの所で見た薬草を基に検索を開始、あるにはあるがやはりクーリーが言っていたように歯形があり品質が落ちている。


やはり言われた通り、横から掻っ攫うか…いや、言い方悪いな。いただく…あ、何か怪盗っぽい。

む~っと考えてると近くでピョンピョン跳ねている毛むくじゃらを発見、また狼かと警戒したが狼がピョンピョン跳ねる訳ないか、そんな狼が居たらなんかご機嫌だね。


今回の毛むくじゃらは頭にドリル状の小さな角を生やしたウサギだった。

こいつが噂のホーンラビットか。

刺す?後ろから刺しちゃう?サクッと逝っとく?


「てい」


スッと槍を突き出したが狼の時のようにするりと槍から逃げるウサギ。

さっきから全然攻撃が当たらない、何故だ?

僕のことなど無視してピョンピョン跳ねる、ウサギは気付いてさえいないのかもしれない。

草の上に落ちるともぞもぞとし始めた。これがウサギの咀嚼シーンか?

ウサギに近づき、槍を突き出すと今度はウサギの背中に当たる。お食事中失礼。

ウサギはこちらを向き頭の角をこっちに向けて飛び跳ねてきた。うん、そりゃ怒るよね。

同時にバックステップの要領で《跳躍》相手が一歩前進したと同時に僕は一歩下がる。

槍を投げながら。

止まって投げたらいいじゃんと思うかも知れないが、目の前のウサギに当たらないかも知れなかったので同じように後ろに飛んでスピードと動きを殺してみた。

慣性の法則みたいなもんだね。

槍が刺さったウサギは光の粒子になりアイテムへと変わった。


【素材:ホーンラビットの毛皮】 レア度1 重量2  品質2

『説明:ホーンラビットから剥いだ毛皮。暖かい』


うし、やったね。

ウサギの素材を手に入れた後ウサギが食べていた草を探すと品質が落ちている薬草があったが、そこには他にも薬草が生えていた。

数はまだ足りてないが同じように探していけばウサギ狩りと薬草狩りを同時にこなすことが出来るだろう。




   ◇◇◇



調子に乗って繰り返していたら日が落ちて辺りは暗くなっていた。

成果は次の通り


品質3の薬草×22

品質2の薬草×15

ホーンラビットの毛皮×3

ドリル状の角×2

ホーンラビット肉×8


結構がんばった……バックがパンパンだ。

僕はその足で冒険者ギルドへと向かった。


「ユウさんお疲れ様です。これで依頼の達成になります。」

「はい、ありがとうございます」


冒険者カードと現金を受け取る。総額270コル。

僕はクーリーが欲しがっていた品質3の薬草だけ渡して他は売らなかった。


「あ、それとユウさんに伝言があります」

「伝言?」

「では読みます『ユウちゃんへ、今回は一緒に依頼受けられなかったけど今度パーティ組んで遊ぼうね。その時こそ色々教えてあげるよ、手取り足取りナ――』ゴホン…『バルトより』以上になります」


……バルトの事忘れてた

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