01
ザァァァー…
体が揺られている
ザァァァー…
変則的のようで一定のリズムが耳に心地いい
ザァァァー…
ユラユラ揺り籠のように揺れている中、僕は目を覚ました。
先ほどまで何をやっていたか考えながらまどろみの中「……ん……ん~」とベットから目を覚ました僕は、横に成りながら体を伸ばし何故寝ているのだろうと思いながら体を起こした。
体に違和感がないか確認したが、ここ最近より体調がいい。
近くには鏡があり自分の顔を確認する。
髪は青色と黒色の中間のような紺色、片方の前髪を後ろに流した髪型を手ですくい、「知らない顔だ」と言いながら先ほど作ったキャラなのを思い出した。
どうやらゲームの中らしいが扉を開けたら何故か寝ている…催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…
バカなことを言ってないで続いてアイテムのチェックをしていく
服装は灰色のズボンと布で出来たきめの粗い上着。
腰にはズボンが落ちないようにと紐で括られていて、そこにウエストポーチのようなものが付いていた。
ウエストポーチを上から叩いても中に物が入っている感触がないが開けてみると、薬入りの瓶が五つ
【アイテム:ポーション】 レア度1 品質3 回復量+15%
『説明:一般的に出回っている回復薬???と???で作成可能』
【アイテム:ポイズン・キュアポーション】 レア度2 品質2 解毒効果
『説明:一般的に出回っている毒を治す薬???と???と???で作成可能』
【包丁:ビギナーほうちょう】×1 レア度0 重量1 耐久値100 攻撃力ATK+2
『説明:子供でも安心して使えるただのほうちょう。???で作成可能』
ポーションが三つとポイズン・キュアポーションが二つそして包丁がウエストポーチに入っていることを確認しポーチを閉じた。
次に状況確認と周りを見渡すと、そこは木で出来た部屋だった。
床も壁も自分が腰を掛けているベットですら、この部屋で鉄で出来ているのはドアのノブか壁に立て掛けている自分の槍ぐらい。
【片手槍:ビギナーランス】 レア度0 重量3 耐久値100 攻撃力ATK+4
『説明:何の変哲もないただの槍???で作成可能』
(渡された時のままのようだ…)
アイルに渡された槍とアイテムを確認しベットから立ち上がり部屋から出ようと立ち上がると体が揺れて転びそうになった。
「おっと…」立ちくらみなどではなく足元が、いや部屋全体が揺れた。
地震とはまた違う揺れ方、先ほどから感じてた揺れはこれかと思い、この揺れの正体を考えていた。
そうか、[ここは耐震設計がちゃんとせれていない家]か……
なぜチュートリアルからいきなり耐震強度がない部屋で寝ていたのかは置いといて、僕は自分の答えに納得し、槍を背中に装備して扉を開け部屋の外に出る事にした。
ドン!「おっと!!」
出られなかった。
「すまない兄ちゃん」
僕が出てきた部屋の前に居たのは、日に焼けた褐色の肌のがたいのいい男、いや漢だ。
「ケガはないか?異邦人の兄ちゃん」
「ええ、大丈夫です」
少しビビりながら誘拐の二文字が浮かんだが、あまりにも男がさわやかだったので、その考えをひっこめ、男が言った言葉を考える。
(異邦人……たしか外の国の人間や旅人って意味だったか…、確かに彼らNPCにしたら、僕は異邦人か…違う意味もたしかあったような気がしたが、彼に文句を言うつもりはない、なぜなら筋肉だからだ!!筋肉こわいわー)
僕は筋肉ムキムキの男にこの場所を聞いてみることにした。
もうムキ兄さんでいいな。ムキ兄さんに聞いてみることにした。
「そうだ聞きたいのですが、[ここは耐震設計がちゃんとせれていない家]ですね。ちゃんとした設計士に依頼した方がいいですよ」
「は?いやいや、なに言ってんだ兄ちゃん。ここは船の中だぞ」
「船ですか?」
「はは、寝ぼけてんだな。それにこの船を設計したのはかの有名な『造船技師ハロルド・グレマー』だぜ」
「ハロルドさん…」
「ああ、俺たち船乗りの中じゃ、神様みたいな人だ。あの人の設計した船は沈まねえなんて話もある。俺ならいいが他の奴に設計がおかしいなんていちゃ駄目だぜ」
「そうなんですか、それは大変失礼なことを言いました。すいません」
「ははは、面白い兄ちゃんだな、もうすぐ『アルファス』の街に着くから、それまでもう少し船旅を楽しんでくれ」
「船の中を自由に散歩して良いぞ。じゃあな」とさわやかにムキ兄さんは去って行った。
筋肉をムキムキさせながら。
どうやら家ではなく船だったらしい。
ムキ兄さんに言われた訳ではないがせっかくの初めての船の旅だ、VRだろうと景色を楽しもうと僕は船の甲板に出ることにした。
船の廊下を歩きながら意外とこの船は大きい事の気づいた。
同じような部屋があちらこちらにあり、看板がかかっていたが僕には看板の文字が読めなかった。
(これは僕が異邦人だからだろうか……)
とりあえず矢印が描かれている道に沿って歩いて行く、しばらく歩くと目的地の船の甲板にたどり着いた。
船の甲板に出るとそこは想像どおり、いや想像以上に素晴らしかった。
海の青が光に反射し
照りつける太陽が皮膚射し
船が進みながら僕の髪を風をなびかせ
海の水が風に舞いながら僕の体を癒した。
あー気持ちいい……ゲームだという事を忘れてしまう…
(こんな体験が出来るなんて、数日前には考えてすらいなかった。紹介してくれた叔父には感謝しなくては……)
船の甲板には何人かの自分と同じような客や船員がいる。恐らくプレイヤーだろう。
このまま景色を見ようと、忙しく働く船員の邪魔にならないように、端の方へと陣取って景色を堪能する。
海では魚が跳ね
空を仰ぐとウミネコが「ミャー」と鳴いている。
ウミネコがいるという事はもうすぐ陸につくのだろう。
「ミャー」
「……」
ぼーとしながらウミネコを見ていた。
「……みゃー」
「ミャー」
僕の声に反応したように鳴くウミネコになんだか楽しくなってきた。
「「ミャー」」
僕とウミネコがデュエットをしていると、クスクスと笑い声が聞こえた。
「ごめんなさい、あまりにも楽しそうだったから思わず」
み、み、みみみみみみ見られたぁぁぁぁ!!?
どうやら一人の女性に今のシーンを見られていたようだ。
女性と言うよりまだ少女と言った方が正解のような気がするようなかわいらしい女の子。
(……この子どこかで見たような)
「[見られてた ああ恥ずかしい 顔赤い]」
「いや、ぜんぜん顔赤くないわよ、どちらかと言えば無表情」
「バカな!」
「…どっかの、誰かを連想させる話し方ね」
女の子はどこかあきれた表情をし答えた。
「それはそうと、あなたもここに景色を見に?」
「ええ、そうよ。いい景色だから見て置こうと思って、綺麗ね…」
「ええとても…」
ここであなたの方が綺麗ですよ。
なんてナンパな事を言ってもいいが、僕にはそこまで度胸は無かった。あとガッツが足りない!
「あなたは初めて?」
(何が!?)
女性に初めてと聞かれると何だか違う感じに聞こえる、思春期半ばの少年。
まあ、違うだろう。
「ええ、こんな冒険は初めてです。」
「そう、初心者さんなのね…」
「そうだ、名乗ってませんでしたね。僕の名前はユウです」
「…そうね、名乗って無かったわね。私はミーシャ、友達とパーティ組んで始めたのだけど、時間がずれたのかここには私だけのようね。ユウはパーティ?」
「いいえ、一人です。」
「そうなの、初心者ならソロよりパーティの方がいいような気がするけど」
「そうなんですか?」
「ええ、最初は一人で出来ることは少ないからパーティの方が…」
しばらくミーシャに冒険のレクチャーを受けながら話した後、僕はふと視線を海に向けた。
元々話すことに慣れていないので話をするだけで疲れてしまう。まだ陸に着かないのかと一面青い海を見渡した。
海海海海海海何か海海海海
見渡す限りまだまだ陸は遠いようだ。
(…………ん?何かって何だ?)
遠くにある何かを見ようと目を細めたが、やはり何かは、何か分からなかった。
「ねえ、ミーシャさんアレ何かわかります?」
「うん?どれ?」
アレと言いながら何かを指さした。
「う~ん何だろう?私《遠視》のスキル持ってるけどレベルが低いせいか分からないわ……うねうね動いてるような…」
僕にはそれが遠すぎるので動いてるのかすら分からない。黒い影が海の一部にあり、遠い島かなと思うぐらいの大きさ、だがミーシャが動いているっと言っていたので生き物か?
このままではらちが明かないと、僕は誰かに聞いてみようと思いあたりを見渡した。
そこに先ほど僕の部屋の前であった筋肉ムキムキの船員。ムキ兄さんがいた。
「すいませーーん」
「おう、どうしたさっきの兄ちゃん?」
「アレ何だか分かります?」
「ん?………何だアレ?島?いや、たしかあそこら辺には……」
ムキ兄さんは目を細め見ていたが見えないようなので懐から筒状のアイテム出し筒を伸ばし目に当てた。
どうやら片方の双眼鏡、単眼鏡のようだ。
「な!?アレは『テンタクルス』!総員戦闘用意!!」
ムキ兄さんは大声を上げると周りに居た、船員は青ざめながら大慌てで船台に積んである砲撃用の大砲に向かい準備を始める。
「いいか!まだ撃つな、こっちに気付いても威嚇射撃だけだ!!」
ムキ兄さんは周りに指示しながらも目線は黒い何か、『テンタクルス』と言った物体を睨んだままだ。
「どうやら何かしらのイベントのようね」
「そのようですね…」
どうやらただ海を見ているだけの時間は終わったようだ。
ムキ兄さんに何か手伝えることがないか聞こうとしたと同時にムキ兄さんは声を上げた。
「『ノープリウス』を飛ばしたぞ!手の空いてるやつは海に落とせ!!」
その瞬間空か数十個の1m四方の物体が船へと飛来した。
船の甲板にいくつもの物体が飛来し、見た目はフジツボのようであり、甲羅を背負った虫が下から這い出てきた。
それを何人もの船員と自分以外の乗客が武器を取り虫に攻撃を開始した。
「ユウ、私がフォローするから前衛任せた!」
「はい」
ミーシャがそう言うと背中に背負った弓を構え近くの虫へと攻撃を開始した。
僕は近くに来ていたノープリウスと言う名のモンスターに攻撃しようと槍を構えた瞬間、システム的負荷がかかり動きが遅くる。
数歩、槍を構えながら僕はモンスターに近づいて槍で突く。
カァン!!
甲羅に当った槍の先は、はじかれモンスターには傷をつける事すらできなかった。
僕はどこかダメージを与える場所はないかと、探しながら何回か槍を振るう。
モンスターも攻撃されたままではない、虫の前足を振り上げ攻撃をしようとした瞬間に気付き、槍を盾にし防ごうとしたが体ごと吹っ飛ばされる。
「ッ!!」
痛みで声を上げそうになった僕に虫の追撃が来ると思った瞬間、矢が虫の本体に刺さり「キュピッ!」と虫が鳴き上げ追撃が止まる。
「ミーシャさんありがとう!」
「任せて!」
矢が虫の本体に刺さるのを見てミーシャに感謝をしつつも僕は目を虫から離さなかった。
(やっぱり構えながらは効率が悪いか)
虫を見ながらどうするか考える、甲羅より本体を攻撃しなくてはならない事と、武器はなるべく虫に近いところで構えなくては、システム負荷がかかり動きが遅くなると考えた。
試してみるかとメニューを開き自分の取得可能なスキル欄を確認する。
《投擲》
可能なようなのでスキルを取りセットする。
槍を片手で担ぎ、槍投げのように虫に向かって投げるが、レベルの上がっていない《投擲》では突き刺さる訳もなく虫の甲羅に弾かれカランと音を立て虫の後ろに槍が転がる。
想定内
僕は槍を投げたと同時に走り出していた。
「ちょっとユウ!?」
僕はミーシャの言葉を片耳で聞きながら構わず走る。
虫は近づいた来た僕に前足で攻撃をしようとしたが僕は虫のだいぶ手前で思いっきりジャンプをして虫の足の攻撃を、いや、虫自体を飛び越えた。
《跳躍》で先ほど投げた槍の近くに落ちる。
痛い…どうやら着地失敗でもダメージは受けるらしい。
僕は後ろを向いている虫に転がりながら槍を手に取るとシステム的負荷がかかるが、転がる勢いはそれを無視し槍を虫の体へと斜めに突き刺した。
「ピキィィィ!!」と虫が鳴き声を上げるが僕はそのまま立ち上がり槍をを虫の頭へと突き上げた。
虫は息絶えると光の粒子になり消えていった。
虫が消えるとミーシャは僕に呆れながら声をかける。
「無茶するわね…」
「ええ、立ったままだと攻撃が当たらなかったもので…」
「まったくと」いいながらブツブツつぶやき『ライトヒール』と呪文を詠唱し回復の魔法を僕にかける
光の粒子を浴びると体に出来た小さな傷がみるみる治っていく事に僕は驚き感謝した。
「おおー!、ありがとうございます」
(これが回復魔法か…スゲー)
「どういたしまして、今度は無理せず倒していきましょう」
「はい」
作戦は先ほどとほぼ一緒で僕を前衛に置き後衛にミーシャ、攻撃を当てる場所は出ている頭か腕を狙い攻撃、危なくなったら槍を納めるか武器から手を離し後ろに下がる。
この戦術に変えてからは先ほどより楽に倒すことが出来た。
僕とミーシャがモンスターの虫を四体目を倒すと砲撃音が鳴り響いた。
「威嚇砲撃よういぃぃ!てぇぇぇぇぇ!!!」
ムキ兄さんの号令で撃たれる砲撃、そこにはもう黒い何か『テンタクルス』は居なくなっていた。
「被害状況!」「船に異常なし!」「数人の軽症者!!」「回復頼む!」
あちらこちらからの声を聴きながら僕たちの初戦闘は終わったんだと息をついた。
「さて、もう一仕事ね」
「…ええ」
そう言って、ミーシャと僕はケガ人の傷を治して回った。
どうやら一息つく暇は無いようだ。
ポーションでケガ人を回復していると、どこからか「港町が見えるぞー!!」と声が聞こえた。
もうすぐ着く港町『アルファス』そこが僕たちプレイヤーが目指す最初の街、そこまであと少し。