004 買い物
冒険者ギルドの受付シャルル嬢の話を聞いて心躍らせる工藤。魔法の習得方法を得たからだ。年甲斐も無く彼は夢を膨らませる。
意に反して冒険者の道を辿る事に成ったが、手ぶらでは戦えない。彼女からの紹介で彼は工房へと向かって居た。
「御免下さい!此処はドラン親方の工房でしょうか?」
「そうじゃ。お主は?」
店の奥から出て来たのはドワーフだと直ぐに分かった。自分が知ってるマンマの姿に一瞬笑みが零れそうになった。彼はきっと気難しい性格だろうと、勝手に決めつける。機嫌を損ねない様にと、言葉を選びながら目的を告げる事にした。
「冒険者に成ったばかりの工藤と言います。受付のシャルルさんのご紹介でお伺いしました。是非親方の作品をご購入したいと思いまして」
「好きに見るが良い!気に入ったモノが在れば声を掛けてくれ」
「あぁ~出来れば、色々と教えて貰いたいんです」
工藤の言葉に親方の顔が少し綻んだ。
「なんだ!武器を初めて買うのか?」
「はい!そうなんです。私に何が合うかも判らなくて出来ればプロのアドバイスを聴きたいと思いまして」
「……プロとかアドバイスなんて意味は判らんが、要はワシの助言を求めると言う事か?」
「そそ。そうです!全くのズブの素人なんで助言が欲しいんです。出来れば安全・安心カツお手頃価格で狩りが出来る品が良いデス」
不思議な雰囲気を放つ男は、トンデモナイ事を言い放って来た。
「アハハッ。確かにそんな品が在れば、皆楽に狩りが出来よう!しかし、世間はそう甘くは無いぞ」
「ですね。ですから助言を求めたいと思います」
いつの間にか男の言葉に乗せられた親方
「中々道理の言った言葉じゃな。して、お主は何のスキルを持って居る?」
「スキル?」
「なんじゃ!それすら無いのか!?良い歳した男が情けないの」
頑固者だけど偏屈では無さそうな親方に持ち上げて貶されて、怒られてヨイショしながら工藤は話を煮詰めて行く。
「魔剣には種類が在ると言う事ですか?」
話の流れで絶大な信用が置けるモノに魔剣が在ると聞かされ、更に掘り下げた話を聴きたいと思った。
親方も饒舌と成り語り続ける。やはり鍛冶師としての血が騒ぐのだろう。
「魔剣には『神話級』『伝説級』と言われるモノとワシ等鍛冶師が作った『魔導具』としての魔剣が在る。剣と言っても種類は多岐に渡る。ワシ等鍛冶師は前者を『真魔剣』後者を『魔導剣』と呼んでるが世間では、どちらも魔剣と呼ばれて居る。違いは真魔剣は己の体内の魔力を使い、気力ある限り多くの魔法を放つ事が出来る。魔導剣は仕込んだ魔石を利用し刻んだ魔法しか放てんのじゃ。魔石の効力が切れれば、魔法も発動せんぞ」
此処で魔石と言う言葉が登場する。しかし聞けば、使用限界が在る様に思える。
「使い捨てって事ですか?」
「ホホッ豪胆な考え方じゃな。安心せい魔剣は安くは無い。使い捨てにする程、世間は金に溢れては居らん。効力が切れれば、魔石を変えれば良いだけじゃ」
自分で言っておきながら呆れてしまう。武器を作るのに労力と資金を注込まなければ成らない。其れをペイできる程とは有り得にくい事だと、考えれば直ぐにも思いつくからだ。
「成程。で、その魔石は当然お高いんですか?」
「それこそピンキリじゃ。色が濃い純度の高いモノは値が張るが込められた量も多い。それだけ、使用回数も増えると言う事だ」
魔石にも種類とか品質が在る事が判った。奥が深い様だ。
「魔法と魔石の関係はどうなんでしょう?」
「仕込まれた魔法と同種の魔石が必要じゃ。『ファイヤー系』なら赤魔石『ウォーター系』なら青魔石。『ウィンドー系』なら緑と言った石じゃ」
「魔法絡みの技は、その刻まれた魔法次第って事ですか?」
「そうじゃ。小技で頻度の高い魔法。大技で決め技に使う魔法。使う奴の思考に合わせてオーダーメイドが一般的じゃ。だから値段も高い」
「成るほど~じゃ俺には当分買えないって事か」
聴くだけ聞いて高いと知ると俺の興味は直ぐに冷めた。無いものネダリをしても意味が無いからだ。其れより堅実的な話がした方が良いと思ったんだが、
「予算は幾ら考えて居る?」
此処で、全財産を照らし合馳せながら計算を始めた。一泊銅貨六十枚。一月を三十日で計算して半年分プラスαで考えると手元に金貨五枚は残して置きたい。と成れば、使えるお金は金貨十四枚と言った所だ。
「そうですね、防具一式まで入れて金貨十枚って所です」
男の言葉に暫し考え出す親方。久しぶりに楽しい会話が出来たと感じていた。それとギルド職員のシャルルがワザワザ此処を紹介した事も気に成った。
目の前の男には不思議な雰囲気を感じている。此処は一つ掛けてみるかと心を動かされたのも重なる。
「……良かろう。全部ワシが世話をしてやろう。得物は『轟炎の短槍』魔導槍だ。『轟炎』は一発逆転の大魔法じゃ。魔石も一回毎に変えないといけないが、普段魔法を使わなくても切れ味が鋭い槍だ。柄の長さ一メナル。鋼鉄製だから重さと強度も丁度良い品じゃぞ」(*メナルはメートルと同じ長さ)
「武器が良すぎて防具がショボかったら不安なんだけど」
思いもしない返事が帰って来る。雅かの拒否のセリフに流石の親方も絶句しそうになる。だが、男の言う不安も当たり前のセリフだ。中々に面白いと感じた。ならば、と遂言葉が考えより先に口走ってしまった。
「安心せい!『黒硬革』で半鎧から腰当てグローブ・ブーツと揃えてやるわい」
「なんか強そうな響きなんだけど、なんで親方は親切に?」
シマッタと内心後悔した。コレでは赤字も良いトコだ。どうにか誤魔化せないかと思案する。目の前の男は馬鹿では無いがお人好しだと長年の勘が言う。
「お主、本当は予算はまだ余分にあるじゃろう。顔にそう書いて居る。その思料深い所が新人っぽくない無い所が一つ。先が読める知恵が二つ。なによりお主の風貌と言うか性格が気に入った。だから、これらを条件付きで売るのではなく貸してやるのだ」
親方の言葉に男が躊躇した。
「貸しですか!?」
内心ホッとした。やはり目の前の男はお人好しだ。其れも底抜けの奴だ。オマケに人を信用しすぎる。人として尊敬に値するが、どうにも心配でならない。
「そうじゃ。無期限でお主が次の段階に行くまで貸してやる。壊しても構わん。手入れも修理もワシが行う。魔法が掛かっておるから又貸しも売りさばく事も出来んがな。どうじゃ!?それで良いなら金貨八枚で受けてやるぞ」
壊れる事は、先ず有得ない。この男の行く末が気に成る。ずっと見て居たい。何故だか、そんな気持ちにさせられた。久し振りに気持ちの良い男と出会った気がする。
「まぁ~年月が過ぎれば、確かに買い替えも在りそうですね。下取り金額を考えると、無期限での貸し出しってリースって考え方と同じだし……この取引是非お願い致します」
「我儘序でに作って頂きたい防具が在ります。肘と膝を守る奴が欲しいです」
時折、意味が通じない言葉を発するが、気に成る言葉を聞かされた。やはりこの男は面白い存在だ。もしかしたら、打ち止めだったワシに新たな光が差し込むかもしれない。そんな淡い希望の光が見えて来る気がしてならない。
「面白そうな話が聴けそうじゃな。詳しく聞かせろ」
寸法合わせに二日。納品は明後日の午後に成った。俺の提案した関節プロテクターは、込みで併せて作ってくれるらしい。有難い話だ。気難しいかと心配したが、意気投合したのは良かったと思う。助言として活動には必要な道具が他にも要るらしい。所謂サバイバル品だ。寝袋や調理器具・薬と言った類だが、それらは錬金術師の工房か専用雑貨店に行けと言われた。覚悟していたが、ドンドン資金が減っていく事に一抹の不安が頭を過って行くばかりだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「帰りが早かったね。今日は狩りをしてないのかい?」
「ええ。冒険者登録を済ませて後は準備の買い物だけです。あぁ~それと連泊の追加をしたいんですが」
今朝より更に愛想が良くなった女将に工藤はホッとした。
「あいよ。何泊するんだい?」
「取敢えずは、ひと月分。お湯と灯り付きで」
「それだと、三十日分だから『千七百十枚・銀貨十七枚と銅貨一枚ですね』……アラ、本当だわ。ラナに聞いてたけど、お客さん計算速いね」
飄々とした頼りない風貌の男は自分を冒険者だと言う。その割には横柄な態度を取らず、金払いも良い。礼儀を心得計算まで速い。まるで商人の様だ。だけど、冒険者だと言った。訳が分からない。今まで見て来たろくでもない男達とは一線を引く不思議な客なのは間違いない。
「そうですか?俺の国じゃ普通でしたけど」
「へぇ~そんな異国も在るんだね。宿代は銀貨十五枚で良いよ。それと毎晩一杯サービスしてあげるよ。代わりにお代わり注文しておくれよ」
一人暮らしを始めてから、こんな風な会話をしていなかった。女将を嫁さんとは思えないケド、親戚の叔母さんとか近所の世話好きのオバちゃんには思えた。だから、他愛のない会話に心が和む。寂しくは無いケド、別れた妻と子供は元気だろうか?俺の事アッチではどう報道されてるんだろうかと、考えてしまった。
俺は本当に変える事が出来るのだろうか?不安とも取れない気持ちが心を揺さぶる午後の一時だった。
時間を割いて読んでくれて有り難う