002 初めての町
本日三話目です
同名タイトルが複数あったので少し変更を思案中です
この世界に時計は無い。正確に言えば存在するが、大きくて家庭向きでは無いらしい。代わりに教会の鐘が朝と夕方に知らせてくれるんだとさ。
その鐘の音で目覚めた後、ラナからそんな話を聴きながら朝食のパンとスープを流し込んでいた。食堂で朝食を取っているのは俺だけだ。
「コッチでは魔法は無いのか?」
「あぁ~?何言ってるの馬鹿にしちゃ怒るよ。私だって生活魔法位い使えるってもんさ」
聴き方を間違えた様だ。不要な問い掛けが、オバちゃんこと、女将『ベラ』を怒らせてしまった。
「あぁ~そうじゃない。何て言うか回復魔法とか攻撃魔法の事なんだが」
「おや!?アンタ冒険者だったのかい?てっきり駆け出しの商人か家出中の農家の息子かと思ってたよ」
四十のオヤジだのにそんな風に見えるんだ。まぁ~歳はこの際黙っていよう。
「教会に行けば、回復士様が数人居るけど、魔術師は冒険者ギルドに行けば判るんじゃないかね!?」
「昨日この町に着いたばかりで、ギルドの場所も知らないんだ」
「そうだったのかい。ギルドなら前の道を右にまっすぐ行った先に在るよ」
「判った。後、商店が多いのは何処かな?」
「本当に町を知らないんだね。ギルドの在るトコが町の中心さ。ギルドを背にして右が商店街。左が職人街。前が貴族様や高級住宅街だよ」
「それは助かった有難う。あぁ~それともう二泊部屋を借りたい。灯りと湯も一緒だ」
「今夜の灯と湯の代金はサービスしとくよ。その代り一杯は無しだからね」
二泊分の銀貨一枚を渡し宿を出る。向かう先は商店街。次に職人街だ。冒険者ギルドは最後でも良いだろう。出来れば、魔法を何処かで身に付けないかと考える俺だった。
町を大きく分けると『士』の文字に似た大通りが走っている。左上が領主の館。右上が高級住宅街。左が職人街で右が商店街だ。下の部分が泊まっている宿屋や飲食店が並び、その下に町の大門やら馬車の停留所だ。大通りの交差点に冒険者や商人・職人のギルドやら教会が在る言わば役所街だ。他に細い路地や裏道と言ったのも存在するが、大まかに言えば、一応区画整理された町と言う事だ。
工藤が町を散策している頃、遠く離れた場所で秘かな騒ぎが起こっていた。
王都と呼ばれるこの国一の繁栄と大きさを持つ街だ。人口十万に外国の領事館やら国の最高機関が存在する。そしてこの世界唯一の教会『アルビオン教会』の総本山が存在している。
「ハァッ。ハァッ。ハァッ」
独りのうら若き女性が階段を駆け下り走っている。距離にして僅かでは在るが、女性にとってはソレでも女性には激しい運動だったのだろう。肩で息をし周囲に目を配るゆとりさえ、無かった。お蔭で、曲がり角の先に人影が在る事に気づくのが遅れてしまう。
『ドスン!』『バタン』
「キャッ!。申し訳ございません。急いで居りましたゆえ粗相を致しました」
「おやおや。何方かと思えば、月詠殿では御座らぬか。如何なされました?」
「教、教皇様!大変ご無礼な事を致しまして申し訳ございません」
「いえいえ、構いませんよ。それより普段お部屋に居る貴女が慌てて如何されたのです?」
「そうでした!教皇様、女神様からのお告げで御座います」
「何やら、大事の様ですね。私の執務室へ参りましょうか」
場所を移し、少女に近い女性と威厳と自愛に満ちた老年な男性が秘かな密談を取り始めていた。
「でわ、女神様もご存知に成らなかった歪みが在ったと!?」
「そうです。彷徨い人が女神様も知らぬ内に訪れたらしいのです」
「それは……『赤き星』っと失礼。……アレが流れた言う事ですか?」
月詠みと呼ばれた女性の言葉に遂教皇は禁忌とされる言葉を口にし、自分を諫め言葉を改めた。
「では無いようです。とても、とても小さな歪みだと女神様は言われました」
「……でわ、我々はどう対処すれば良いのでしょうか?」
安堵と不安の色を滲ませ乍ら教皇は動向に試案に迷う。
「歪みが何であるか女神様もお知りに成りたいと。出来るだけ早くにその方が教会へ訪れる事を女神様は望んでおります」
「成程、ご自身で、その方を確かめる御ツモリですか。その歪みの基と成る吾人と対話を行える様に、それとなく各教会へお触れを流しておきましょう」
自分達が崇める女神が対処するとの言霊でホッと一安心した教皇。此処で、何が訪れたんだと不謹慎にも興味が少し沸いてしまう。
「にしても、今の時期に『彷徨い人』とは……何事も無ければ良いのですが」
「はい。私めもそう願います」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方工藤と言えば、商人街で次々と話を断れ続ける有様だった。彼が訪れた商店の殆どは、幾つもの改良点が在る商店が立ち並んでいたのだ、だが誰も工藤の話を聞くモノが居なかった。巧く行けば、莫大な儲けに繋がる事に誰も気付く事無く、工藤の持つ知識がチリの藻屑として埋もれる可能性へと変わり果ててしまいそうだ。
「だから、文字の読み書きも出来ない男の話を信用するほど当店はお人好しじゃ無いんだよ。あんまりシツコイと衛兵に突き出すよ」
クソっ!此処で、読み書きできないって罠に落ちるとは思わなかったな。このままだと職人街でも同じ結果に成るぞ。さて、どうしたもんかな。予想だにしない結末に苦虫を走らせる工藤。だが、今直ぐに読み書きが出来る魔法など彼は持ち合わせておらず、只自分の不甲斐なさを呪うばかりである。
今の工藤は、信用処か本人を示す証すら無い存在だ。そんな彼を、誰が好んで雇ったり話を聞いたりするものか。逆の立場に成れば、自分でも同じ行動を取るだろう。でわ、どうやったら信用や信頼を得られるか?結局堂々巡りと成る結果だった。
「あぁ~やっぱ!『冒険者』しか道は無いのかな~正直戦うのって怖いんだけどな~後、十歳若かったらイケイケで攻めるんだけど……仕方が無いか」
トボトボと町の中心街へと歩く工藤が居る。その背中からは絶望と言うか哀愁に近い悲壮感が漂う。その異様な雰囲気に周囲の人々が彼を遠ざけて歩くのを工藤は気づいても居なかった。
時間を割いて読んでくれて有り難う