プロローグ
誤字脱字在りましたらご一報ください。 時を見て静かに修正していきます。
26話で一章の予定をしています。設定矛盾を感じましたら笑ってやって下さい。ご指摘は真摯に受け止め次回に生かしたいと思います。
カオス理論の一つにバタフライ効果と言う説が在る。力学系の状態にわずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の状態が大きく異なってしまうという現象らしい。
簡単に言えば、蝶の羽ばたき一つで遠く離れた場所で異常気象が起こってしまうのか?偉い学者が言いそうな難癖みたいな考え方だ。
実際に気象関係でその様な事が起こるかは不明だが、経済においては似たような事例は幾つもある。何処からか流れた嘘の様な噂が世界中に飛び火し株価の暴騰や暴落、便利で危険なネット社会が引き起こす現象だろう。
では、人の運命はどうだろう?
都会の片隅に田舎から上京していた青年がヒッソリと暮らしていた。その青年を知る数少ない友人が、偶々前日彼の下を訪ねる。普段仕事以外で会話をする事が無かった青年は珍しく友人との会話で花を咲かせる。
何時もは朝五時半に起床し五時五十分にはバイクで自宅を出る彼が、その日は寝坊し五分の遅刻と成った。
何時もの時間の何時もの交差点での信号待ちがいつもと違う。バイク一台分がいつもより手前の交差点で信号待ちした結果、一台、また一台と交差点毎の信号待ちする車の数が重なり増えて行く。
例え三分だったとしても、人は朝と言う時間帯では時間を気にするものだ。何時もより遅れていると感じたドライバー達は、自分でも気付かない内にアクセルを踏み込んでしまう。隣の車より早い速度で走る。少しでも遅れを取り戻そうと無理な割り込み。普段は黄色信号で停車するドライバーが遂無理な行動に出た時、悲劇は起こるものだ。
工藤英司。先週末に四十歳を迎えたばかりのオヤジが居た。二つ下の妻と十二歳に成る娘とは先月別れて暮らす事に成った。ツマリ彼は先週末、侘しい誕生日を一人で迎えた事に成るのだが彼は、歳を一つ取った事に気づいて居るかも疑問だ。
そんな彼が、何時もの様に出勤する為バスに乗った。名前も知らない顔見知りの同乗者達が今日も同じ車内で顔を合わす。挨拶する訳でも無く言葉を交わす訳でも無い。空いてる席を奪い合う程険悪な訳でも無い。そもそも空いてる席など無いからだ。
その日何時もと感じが違う事に工藤はバスに乗る前から気づいて居た。何故なら、定時に来る筈のバスが三分遅れたからだ。お蔭で、何時も乗り遅れていた学生達が気持ち多く乗車していたのだ。それは工藤が乗車中に揺られながら電子新聞を読むスペースを犯す事に繋がって居る。
何時もの行動が取れない。イライラと不安が彼を襲う。その時、前方で激しいクラクションが鳴り響きバスが急停車を行った。鮨詰状態の乗客の中には手すりに捕まって居ない者も多い。急ブレーキが掛かったバスの乗客は、一気に押し出されたトコロテンの如く車両前方へと押し流される。人の波が人を襲う。安全のための手摺やポールが凶器へと変わる。他人の体が人に覆いかぶさった時、事故へと繋がるモノだ。
騒ぎは、運転手の陳謝するアナウンスで収まりを迎えつつあった。いつの間にか渋滞は収まり、車の流れは平常を取り戻す。互いにぶつかり合った乗客同士は詫びを言い合いながら、通勤バスは何時もの目的地へと走り出す。誰一人大きな怪我をする事無く、何処かで交通事故も発生していない。日常の朝を誰もが迎えようとしていた。騒ぎに乗じて一人の男が消えた事など誰も知らないままに……
時間を割いて読んでくれてありがとうございました。