無邪気
「それは、メイリンちゃんが、呪いを引き受けるって、こと?」
うなずいたメイリンにディドは持っていたカバンを取り落しそうになった。
「それは絶対あかん。こんなとしはもいかない女の子が呪いをするなんて絶対にあかん」
力強く反対した少年に、メイリンは明るく笑った。
「どうして?だってお客さんには感謝されるよ?」
ディドは今すぐに夫婦に文句を言いたくなった。まだ善悪の区別のつかない子に呪いをさせるなんて。
「呪いってどういうのかわかる?」
「わからない。でも、お客さんが言うとおりにやればいいって、レイナさんが」
本当に、無邪気にメイリンは笑う。それは呪いの意味を知っていたら、絶対にできない笑い。ここで、呪いの意味を教えてもいいのだろうか、とディドは迷う。
「なーんてね。もちろん、呪いの意味なんて知っているよ。だって、レイナさんが全て教えてくれたから」
メイリンはあはは、と笑った。どうして、こんな笑いができるのか、ディドには全く分からない。似たような方法で、多くの人の命を奪ってきたディドには。
「本当に、どうして君はそんなに笑えるんだろうね」
ふと口から滑り落ちた言葉は、一瞬にして場を支配する。その時、メイリンの表情が固まった。
「それは、覚悟の違いよ」
一切の表情を消して、メイリンは淡々と答える。
「わたしはレイナさんたちに拾われなかったら確実に死んでいた。だから彼女たちには感謝をしている。そしてわたしは彼女たちを助ける以外に活きていく道がないと痛いほどわかっているから」
ディドは己の浅慮を恥じた。メイリンはすべてわかったうえで、夫婦のもとについていたのだ。
「なあ、メイリンちゃん、俺と一緒にきいひんか」
思わずディドはずっと思っていたことを口にした。