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熱血的な彼女

作者: A99

ふと、素直ヒートを思い出したので書いてみました。

「山岸! 好きだアアアアァァァァ!」

 外から聞こえてきた大声に、俺は思わず起きてしまった。のっそりとベッドから出て、窓のカーテンを開ける。外を見ると、いつも近所迷惑レベルでうるさい女が、俺の家の玄関前に立っていた。

 ボリュームのある髪を後ろで一本に括り、俺の通っている高校の制服を着たその女。名前は遠藤という。

 朝から元気に仁王立ち。無駄に迫力を出して俺の家を見上げていた遠藤は、俺を見つけるとその表情を満面の笑みに変えた。うわぁ、犬みてえ。

 軽く手を振ってやると、遠藤は嬉しそうに両手を大きく振ってきた。

 うん、可愛い。可愛いんだけどさ……。

 今は、朝六時だ。さすがに早すぎるだろ、あのバカ女。

 半分眠った頭でどうにか玄関まで移動して、鍵を開ける。そのままドアを開けると、遠藤は目をキラキラと輝かせて、玄関前で待っていた。

「おはよう! 好きだ!」

「……おう。とりあえず、迷惑だから上がれ」

「わかったぞ!」

 遠藤を外で待たせるのは良心が痛むから、仕方なく俺の部屋に招くことにした。招いてもなにもしないけどな。ただ寝るだけだ、俺一人で。

 なお、こんなにも騒いだというのに、俺の両親が出てくる気配はない。まあ、いつものことだからな。放置してるんだろうよ。

 信頼されてるのか、諦めたのかはわからない。出来れば前者であって欲しい。

 若干おぼつかない足取りの俺と、元気たっぷりにドスドスと力強く歩く遠藤。見事なまでの凸凹コンビの俺達は、揃って俺の部屋に入っていく。

「おお! ここが山岸の部屋か! カッコイイな!」

「何がだ……」

 俺の部屋に何回も入っているというのに、遠藤はいつも俺の部屋を褒めてくる。壁紙も内装もまったく変わってないというのに、何故こんなにも褒めることが出来るのか。

 しかし、遠藤の声はやはり無駄にうるさい。半分眠った俺にはすこし――いや、だいぶきつい。

 仕方ない、ここはあの手段でいくしかない。食らえ、48ある遠藤専用対処法の一つを!

「遠藤」

「なんだ!」

「好きだから一時間黙れ」

「わかった!」

 たっぷり一時間、俺は心地よい眠りを味わうことが出来た。


 ◆


 心地よい眠りの後、俺は両親の生暖かい目に見守られながら、朝食を何とか食べ終えた。隣で遠藤が「あぁーーーーーん!!」などとすごく情熱的かつ献身的に世話をしようとしてきたが、何とかそれの回避にも成功した。

 朝食を食べた後、俺はすぐに自分の部屋に移動する。そして手早く制服に着替えて、カバンを持つ。遠藤は既に玄関前で待っているから、なるべく急がねえと。

「さあ! 学校に行くぞ!」

「うるせえ、声のボリューム落とせ」

「わかったッ!!」

 こいつ、全然わかってねえ。ボリューム増してんじゃねえか。

 ああ、歩いてる小学生が遠藤を見て笑ってやがる。お隣の奥さんは、俺の両親と同じ目で俺達を見守っている。

 やめろ、こんな俺を見ないでくれ。

 が、無常にも俺の願いは果たされない。いや、遠藤と一緒にいる時点で、俺の願いが果たされることはない。

 こいつといると、否が応でも強制的に他の人から注目されるハメになるんだ。


「山岸! 結婚式はいつにする!? 今するか!?」

「しねえよ!」


「山岸! 子供がほしいぞ! 今作ろう!」

「やめろ!」


「山岸! お前が欲しい!」

「黙れ!」


「山岸! とりあえず好きだアアアアァァァァ!」

「うるせえ!」


 登校途中にこんなことを大声で叫ばれるんだ。注目されないわけがない。

 そんなことをしている内に、学校に着いてしまった。ああ、今日もまたうるさい一日が始まるのか。

 隣でニコニコと笑っている遠藤を見て、俺はため息をつきたくなった。

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