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リ=ヴァース・ファンタジア  作者: 白雨 蒼
二章『トラディメント・スコア』
25/34

Side13:Hyuncel Side14:Dhimios Side15:Esterva

 

 こちらの戦力は圧倒的だった。

 確かにあの異形の力は強大だろう。リューグほど高いわけではないが、ヒュンケルもまた索敵スキルはそれなりに上げている。その索敵スキルによる敵の能力パラメータの数字はすべてが虫食い状態――表示不能(アンノウン)。つまり、こいつもまた先の事件で跋扈した漆黒の異形と同じバグであることを意味している。

 故に、油断はしない。

 自分たちの持てる攻撃力(ちから)のすべてを最大出力で叩き込み、反撃の隙すら与えない多重攻撃でその場に縫い留め、殲滅する――何より、こちらには現在〈ファンタズマゴリア〉に存在する《来訪者》の中でも最強と謳われる存在、草薙がいるのだ。

 その刀術はヒュンケルの想像を優に超え、半獣半人の化け物へ目にも留まらぬ速さで斬撃の数々を叩き込んで地へと叩き伏している。

 そこにヒュンケルの魔術に《貫く王の雷槍》や《魔眼を穿つ砲銃》の超火力を始め、ユウ、サクヤ、ウォルターにフューリアが持てる最大のアーツ・スキルが嵐のように殺到する。

 これならば勝てる。本来ならばそう実感するだろう。

 しかし、


 ――なんだ……これは?


 それは、ヒュンケルの胸中に芽吹いた微かな違和感だ。では、それとは何か。

 そうだ。これでは――あまりにも簡単すぎる。

 考えは一瞬。それは前提としている存在と、今対峙している存在の決定的な差異。目の前に君臨する化け物は、依然ユングフィに存在するギルドの多くが東奔西走し、どうにか御すことのできた異形の存在。

 本当に、この化け物は一方的に攻撃を受けているのか?

 そう思った刹那、ヒュンケルは攻撃の手を止めて異形を凝視し、観察する。さっきから感じている微かな違和感の正体を探り……そしてようやく気付いた。


 この化け物は、これほど大きかっただろうか?


 ひたすらに攻撃を浴びせ続けていた間は気づかなかったが、よくよく観察すれば、最初に姿を顕現させたときに比べ、異形の表面積が二回りほど肥大化しているではないか。

 ――観察。

 意識を異形へと集中し、異変の原因を探す。

 だが、それは別に探すまでもなかった。注視すれば一瞬で判別できたこと。

 異形の身体が膨れ上がったその理由。それはこちら側にある。


 こちら側――つまり、攻撃する側。


 ユウの放った巨大な真紅の斬撃が異形の身体に叩き込まれたその瞬間、異形が悲鳴を上げると同時に微かに、だが確かに脈動するのが見えた。

 ああ、そうか――と、ヒュンケルは合点する。

 あれは、こちらの攻撃によるダメージを蓄積しているのだ。

 それは何故か。


「――っっ!?」


 その考えに至った瞬間、ヒュンケルの全身が粟立つ。走った悪寒で全身が総毛立った。

 だが、後悔している暇はない。祈るような気持ちでヒュンケルはウィンドウを展開して装備を一変する。

 此処まで最大火力仕様の装備としていたあらゆる装備を撤廃し、大急ぎで支援(サポート)特化の魔導書で武器装備欄を埋め尽くす。

 クソッタレが! と毒づく暇もなく、自分の持てる最大の防御魔術を口頭詠唱で増強(ブースト)。早口言葉の達人も真っ青になるであろう高速詠唱で呪文を組み立て、術式を確立。

「うおおぉぉぉぉ!」

 祈りが叫びとなって口から零れる。それと同時に、ヒュンケルの組み上げた魔術式が発動し、ヒュンケルを始め、その場に立ち、異形へと猛攻を叩き込んでいた全員を光が包み込む。

 奥義バースト・スキル、絶対防御の秘術《デルゥ・イージス》。

 視界の端、そこに描かれるパーティメンバーのHPバーの横に金色の盾のシンボルが描かれたのと、異形の身体が膨張し、視界が白んだのは同時。


 耳を劈く強烈な炸裂音と共に、巨大な白熱の光が辺りを呑み込んだ。



      ◆      ◆      ◆


 今やそれは、狂気だった。

 かつてそれは戦意だった。

 彼の中に元々ある意志とは、ただそれだけ。戦いへと身を投じるという戦士の志のみだったのである。

 それがいつの頃からか血に塗れ、戦に塗れ、いつの頃からか、死の淵に立ち、生と死の狭間を行き交う殺し合い(たたかい)に没頭した。

 強き者を屈する快感。

 弱者を蹂躙する愉悦。

 そして、圧倒的なまでに強い相手と対峙することで得られる――昂揚を求める日々。

 血が滾り、震え上がるような興奮は、今では何物にも代えがたい唯一無二の美酒と化した。


 ――だから、『それ』にとってこの状況は酷く愉快である。


 恐ろしい。慄然(ぞっ)とするほど、彼らの力は『それ』の想像を優に上回っていたのだ。

 彼らの攻撃に抵抗する術はなかった。いや、そもそも彼らはこちらに抵抗を許さなかった。

 相次ぐ攻撃の数々は、『それ』がこれまで対峙したどのような戦士より強烈で、あらゆるモンスターたちよりも苛烈で容赦がなかった。

 しかしそれは、実に心地の良いことでもある。

 これこそが望みだった。

 こういう圧倒的な存在と戦いたかった。

 そしてその圧倒的な存在を、『それ』は――ディミオス・アルアは倒したかったのだ!

 まるで彼のその意志に応えるかのように、彼を取り巻く瘴気が蠢き――そして爆発した。

 これまでただ無策に攻撃されることに甘んじていたわけではない。ディミオス自身、この全身を包む瘴気の力は理解しきれていないが、この瘴気がしたこと自体は理解できた。

 敵から受けるダメージを蓄積し、攻撃へ転換する――《報復(アベンジ)》と呼ばれる、一部の大型モンスターが有する特殊な力。あるいは、それに類似する何かを利用し、攻撃力へと転換した大爆発が一帯を呑み込んだのだ。

 さしもの《来訪者》といえ、ただでは済まないだろう。咄嗟に何らかの魔術で防御したように見えたが、たとえ手傷(ダメージ)自体は抑えられても、爆発による閃光と熱気。そして爆発によって生じる衝撃までは緩和しきれまい。

 実際、先ほどまでディミオスを襲っていた攻撃の手は止んでいた。

 周囲を見回せば、先ほどまで自分に剣林弾雨さながらの猛攻を加えていた《来訪者》たちは散り散りに彼方へと吹き飛ばされ、意識を失っているのか微動としない法師や呻きを上げる侍が倒れている。

 その中で、辛うじて膝をついた状態で身を起こしている銀髪の男が目に留まった。

 その手に、あるいは自身の周囲に幾つもの魔導書を躍らせているのを見て、ディミオスは感嘆の吐息を漏らす。

『ほう……よく立っているな』ゆっくりと地に降り立ちながら、ディミオスはにやりと口元に三日月を描く。

 先ほどの爆発で、下半身を呑み込んでいた獣身が消し飛んでいた。代わりに普段通りの二本の脚で地に降り立ったディミオスは、瘴気に包まれ巨大な剣となった得物を手にその魔術師を見据える。

『……そうか、貴様か。寸前で防御魔術を放ち、おれの攻撃を凌いだのは』

「だったらなんだ? それでも満身創痍を免れてないんだよ。許して欲しいもんだね」

 好戦的な笑みを浮かべながら魔術師が言う。言葉を弄している最中も、次の手を考えているのが一目で分かった。

 そしてふと思い出す。

 見覚えがあるような気がしたが、よくよく見ればこの男、依然リューグ・フランベルジュを襲った際に居合わせた魔術師ではないか。あの時は一介の魔術師と侮っていたが、なるほど。


『なるほど、同じ穴の貉。草薙やリューグ……それに並ぶ実力者だったわけか』


 自分の人を見る目もまだまだ未熟だと痛感しながら、ディミオスは剣を魔術師へ突きつける。

『名乗れ、魔術師。貴様の名は、知るに値する』

「変にストーカーになられるのがごめんなんでな、教えてたまるか。これ以上付きまとってくる人間が増えるのは勘弁願いたい」

魔術師が言う。すると、

「それは誰のことかしら?」声が頭上から響き、同時に殺気が降り注ぐ。咄嗟に後退して迫り降りてきた殺気を躱す。

 斬撃が走り、巨大な三日月の刃がディミオスと魔術師を隔てるように突き刺さり――その長い柄の上に軽やかに降り立ったのは、白い死神のような女。

 うっすらと笑みを浮かべて魔術師を見下ろす死神に向けて、魔術師は肩を竦めて見せた。

「自覚がないなら重症だ。そして、自覚があるなら最低だ。いっそ生まれ直して人生やり直せ」

「多分、生まれ変わっても同じように貴方と出会って、貴女に尽くすわよ。一途な女って素敵でしょ?」

「……そういえば、ストーカーって自分がストーカーだって自覚がないんだったな」

「いいえ。自覚した上で、それでも惜しみがないだけよ」

 最早相手にするのも面倒になったのか、魔術師は重い腰を上げて言った。

「なら、その惜しみない愛とやらで、目の前のこの薄気味悪い真っ黒くろすけをおれに近づけないでくれ」

「ふふ、良いわよ。愛は見返りを求めないから」

「無償でやってくれるのか?」

「今はね」

 まるでこちらを無視したような会話だが、死神が魔術師に言葉に首肯した転瞬、再びあの三日月刃が閃いた。

 まさに一瞬の出来事。気づいた時には刃の切っ先が目前に迫っており、それはディミオスの反応速度を優に超えた一撃だった。

 躱せたのは本当に奇跡に等しいだろう。全身を包む瘴気が眉間に突き立てられようとした刃を一瞬だけ鬩ぎ留めたからこそできたのだ。

 それでも、この全身を包む瘴気すら死神の刃を止められたのは刹那。瞬きの半分のさらに半分程度の間しか抑えられず、死神の刃は瘴気を突き破りディミオスを襲い、その刹那の瞬間の拮抗があったが故の回避。

 

 ――この……化け物どもが!


 一呼吸の内に臨戦態勢へと己を転化し、敵と認識した相手へ容赦のない一撃を見舞う死神に驚嘆し、同時にディミオスは嬉々した。

 そして迫り来る死神を迎え撃たんと剣を構える。すると、それを見た死神が微かに笑った。

「――いいのかしら? 私だけじゃないみたいよ」

 同時に、再び殺気が迫る。それも、先の死神が放った殺気よりも遥かに巨大で、鋭利な――斬撃そのもの。

『ちぃ!』

 その殺気が誰のものかを察知し、ディミオスは狂笑を浮かべながら剣を振るった。剣の姿を成す瘴気が走り、瘴気は無数の槍となって迫る殺気を呑み込もうとし――やはり、奴はそれを苦もなく躱し、受け流し、あるいは相殺する。

 圧倒的なる強者、草薙。

 全身の至る所を焦がしながら、しかし彼の剣士は悠然と立って刀を構えている。

「化生へ成り下がったか……同胞(はらから)よ」

『面白いことを言うな……同類よ』

 草薙の言葉に、ディミオスは嗤った。

『これこそがおれの持つ魔剣の力だ。幾千幾万の命を屠り、殺した相手の怨嗟を意のままに具現し、操る力。それを最大に生かすことで怨嗟を纏う――そういう魔剣の技だ』

「……なるほど。下らんな」

 草薙が一蹴する。別段不快ではなかった。

 何故なら、それは所詮弱者の言葉だからだ。

 証明すればいいのだ。見せつけてやればいいのだ。

 これこそが、強者の力と。

 そんなディミオスの意志に応えるように、彼の全身を包む瘴気が踊った。

 魔剣も訴えている。新たな命を――食わせろと。

 いいだろう。与えてやる。

 これほどの――自分を驚嘆させ、嬉々とさせるほどの腕を持つ強者たちの命を喰らえば、きっとこの魔剣はより強くなる。

 そしてより一層、自分は高みへと至る。

 くはは……と、笑いが漏れた。

 そんなディミオスへ向けて、草薙が言う。

「眠れ……溺れし者よ」

 死神が言う。

「さっさと終わらせましょう。時間がもったいないわ」

 そんな二人に続いて、魔術師は呆れたように肩を竦める。

「倒れてる連中をさっさと回復(リカバリー)しなきゃならんからな……」

 何処からともなく槍を、銃を、無数の魔導書を現出させて――魔術師が宣言する。


「二分でケリをつけるぞ」


 三人の超越者が揃って得物を構える。

 そうして三人に対峙する魔人(ディミオス)が、漆黒の大剣を掲げて吼えた。


『来るがいい! 《来訪者》共!』



      ◆      ◆      ◆


 一歩。また一歩。背後から忍び寄る足音が大きくなるのが分かった。

 ざり……ざり……ざり……

 剥き出しの地面に転がる砂利を踏みしめる音が近づいてくる。

 どれだけ自分が逃げ回ったか。どの道を進んでいたのか、最早エスターヴァには解らなかった。普段なら登録しているダンジョンマップを表示するだろうが、どういうわけか先ほどからどれだけマップ表示を選択しても手元に地図が表示されることはなかった。

 何かが可笑しいことは解っていた。

 だが、その何かがエスターヴァには解らないのである。

「なんで……なんで! なんでマップが表示されないんだよぉぉぉ!」

 システムの異常だとしたら、こんな理不尽はない。そんなことを思ってエスターヴァは憤慨し、怒号する。


「――知りたいか?」


 反響する獣の声が耳朶を叩き、エスターヴァは「ひぃっ!?」と悲鳴を上げて振り返る。

 声の主の姿はまだなかった。だが、姿が見えないことが逆に恐怖を駆り立てることだってある。

 今がまさにその状況だ。

 自分は命を狙われている――感情のない姿なき存在(テオフラス)の声から、その殺意は如実に感じ取れた。


 きっと、追いつかれたら殺される。


 エスターヴァはそう直感したからこそ逃走しているのだ。追いつかれれば命はない。

 あの狼の姿をした錬金術師は今、まさに獲物を追い立て、牙を立てようとしている肉食獣そのものだ。

 そしてその推測を肯定するかのように、地下道内に「ぐるる……」という獣の呻きが木霊する。

 来るな! 来るな!

 胸中で叫んだ。

 こんな展開は想像もしていなかった。そもそも理解が出来なかった。

 自分は、この世界に囚われた《来訪者》を救おうとしているのだ。解放しようとしたのだ。

 なのに、どうして今自分は命の危機に瀕しているのか。感謝や賞賛されこそすれ、命を狙われるなどあってはならない。

 何かの間違いではいないかと思いたい。だが、現実に追跡者(チェイサー)はすぐ近くに迫っている。その手に錬金術の秘宝と言える短剣を手に、獣の牙が無数に並び立つ口を開いて迫っている。

 走り、呼吸が苦しいのも我慢して迷路のような地下道を右に左に。そうして辿り着いたのは――道のない……行き止まり。

「……そんな!?」

 エスターヴァの顔は蒼白を通り越して土気色だ。絶望に染まったまま行き止まりの壁を見つめ、崩れ落ちて膝をつく。

 同時に、ざっ……という土を踏む音が、すぐ近くから。悲鳴を上げ、エスターヴァは愛用の杖を手にして振り返る。

 だが、そこには誰もいない。

 可笑しい。確かに足音が背後からしたはずだ。

「……何処だ……何処にいる!」

 叫び、追跡者を探す。スキル欄から索敵スキルを選択し、走らせた。潜水艦のソナーのように地面を、天井を走る光の線。だが、何も見つから(ヒットし)ない。


 ……いや、した。


 正面ではなく――――背後。

 慌てて振り返ろうとした刹那、ざく……という、何かが刺さる音がした。背中に熱を感じると、同時に自分の視界が真っ赤に染まり、視界いっぱいに『Danger』と表示され、警告音が鳴り響く。

 刺された! そう実感した時にはもう遅かった。

 回復するよりも早く銀色の軌跡が視界の端で閃き、その度に視界へ新たな警告メッセージが走り、続いて部位破損アイコンが次々と点滅する。

 左腕、右足、右腕、左足。四肢が斬り下ろされ、胴体部を幾つもの刺突が貫く。

 HPバーが瞬く間に安全圏(グリーン)から警戒(イエロー)へ。そして時間を数える間もなく危険(レッド)となり、消滅。


「あ……ああ……ああああああああああああああああああああああああああああ!」


 エスターヴァは絶叫を上げた。自分の命が消える。潰える。消滅する。

 その事実に叫ぶ。絶叫する。慟哭する。拒絶する。

 しかし、最早すべてが手遅れだった。

 視界いっぱいに表示される『You dead』の文字が点滅する。

 こんな死にかたは望んでいない。自分は彼ら《来訪者》をこの忌まわしい世界から救いださなければいけないのだ。そのために手を尽くした。

 なのに何故、こんな目にある。

 崇められていいはずだ。讃えられていいはずだ。賞賛されて当然のはず。

 現実の世界に帰り、白峰護は彼らの救世主となるのだ。

 なのに、どうしてそうならないのだろう。どうして、ぼくの望みは叶わないのだろう。いやそもそもに、ぼくとは誰だ?

 エスターヴァ・カルナスか、白峰護か。

 いや、そもそも、本当に現実などが存在するのだろうか。

 それすら定かではない。実は自分はエスターヴァ・カルナスで、本当は白峰護など存在しないのではないか?

 いや、そんなことはない。それを証明しなければならない。そのためにも、自分は《来訪者》と共に現実へ還らねばならないのに……

 徐々に体の感覚が薄れていくのが分かった。そそれは自分が確実に死へと近づいている証明だった。そして、そんなのはいやだと強く切望する。

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないしにたくn……


 いや


 そもそも


 死にたくないという想いすら


 果たしてエスターヴァ(わたし)のものなのか


 それとも


 白峰護(ぼく)のものなのか


 どっちなのだろう?


 ぼくは、誰なのだろう?



 その考えを最後に、エスターヴァ・カルナスの身体は〈ファンタズマゴリア〉から消滅した。



 ………………

 …………

 ……

「ぼくは……誰なのだろう、か」

 無数のポリゴン片が周囲を舞い、消滅していくのを見ながら、テオフラスは今わの際にエスターヴァが口走っていた言葉を反芻し、やがて何事のなかったかのように踵を返した。



「私にも、解らなくなってきているのだがな」



 小さく零れた彼の独り言は、誰の耳に届くことなく地下道に反響し、彼の足音に掻き消されていた。





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